第32話 取引その後

 ジョゼットの言っていた通り、新たに取引する商人はすぐに見つかった。しかも、今度は良心的に取引してくれる相手、それも複数だ。これで今までのように取引先が1箇所だけだったリスクも分散することが出来た、というわけだ。


 ジョゼットが当てにしていたという商人たちは、今まで各地に魔物狩り遠征をしに行ったときに出会った人たちだそう。


 遠征先から、荷物が増えすぎて持ち帰れなくなった素材を買い取ってもらったり、狩りに必要な道具や食料を売ってもらったりして、交友を深めていたという。


 今回、商人テゲルとの取引が打ち切りになった事を伝えて、新たな取引相手として打診してみたところ、何人かの商隊が喜んで取引関係を結んでくれることになった。


 こちらが提示した金額で、商品も買い取ってくれるという。新たな取引相手となる商人たちは、取り分も明確にしてくれて、商人とアマゾン国のお互いが得になるよう金額も話し合って調整した。とにかく、不正のない勘定をしてくれている。


 色々とゴタゴタはあったものの、最終的にはアマゾン国の収入源が増大するという結果で終わった。本当によかった。


 ちなみにニト王にも今回の結果が伝えられて、満足されたそうだ。


 改善が成功していたから良かったものの、もしも失敗していたなら、女王の不興を買ってしまって、処刑という可能性もあり得たのかもしれない。


 改めて、自分の行いの危うさに注意を向けるべきだと僕は思った。



***



 大金が手に入ったが使いみちをどうするのか、執務室で話し合いが行われていた。セレストと僕の2人は、この金をどう使おうか頭を悩ませる。


 貯めておくのはもったいないから、なにかに使わなければ。かなりの大金なので、綿密な計画が必要だった。とはいえ、僕も国の資金運用の方法について知識はない。どうするのが正しいのか、分からない。


 というか、僕も一緒になって提案していいものなのだろうか。


 セレストに尋ねてみたところ、今回の大金が手に入ったのは僕のおかげ。だから、金の管理は任せると言われてしまった。どんどん、責任が大きくなっていく。




「皆の、新しい武器の新調をしようよ」

「武器、ですか」


 セレストの提案に僕は、不審そうな顔を浮かべてしまった。このお金は国のために使われるべきものだ。個人の武器を買い与えてもいいのだろうか。武器よりも先に、優先して購入するべき品物があるだろう。


 それなのに、アマゾン国住人の武器の新調を提案してきたから納得できなかった。しかし、セレストは引かない。僕の目をじっと見つめて、説得しようとしてくる。


「絶対に必要になるって」

「いや、まぁ……。確かに」


 美人のセレストに見つめられて、屈したわけではない。


 一旦冷静になって、今の状況について考えてみると確かに、武器の新調が必要かもしれないと僕は思い直したから。


 僕の持つ魔物寄せのスキルによる影響で、アマゾン国周辺から連日のように魔物が集まってきている。魔物との戦いに負けないためにも、戦いに出る彼女たちの武器や防具を新調して国の防護を固める必要がある。


 魔物の脅威からアマゾン国を守るために、という名目なら納得はできる。


 早速、武器調達の計画書を作成してニト王に伝えられた。すぐさま許可が下りて、アマゾン国住人の武器と防具が新調されることが決定した。その情報を聞いた全員、大喜びだったという。


 やっぱり戦闘民族、アマゾネスらしい趣味がたっぷり詰まったような金の使い方な気もするが、女王からの許可も下りているので、今更になって取り消しは無しだ。




 セレストが商人たちに、武器防具調達の注文を出そうとした時のこと。商人たち側から待ったがかかる。


「今だと、仕入れの価格が割高になってしまいますよ? それでも大丈夫ですか」

「そうなんですか?」


 いま買うのは高いから、止めておいたほうがいいという親切な商人からの助言。


 どういうことか詳しく話を聞いてみると、どうやら商人テゲルが武器を買い集めているという。市場での需要が高まっていて、平均価格が上がっているらしい。


 今までの仕入先が駄目になってしまって、新たな仕入先を探すのにテゲルも必死だそうだ。各商人と取引を繰り返して、なんとか関係を深めようとしているらしい。


 そのために、武器の他にも色々と商品を買い漁っているという。売買を繰り返し、新たな仕入先の発掘を目指している。


 だから今は、どこも品物が値上げしている。


「なるほどな」

「だから今は、買い物は控えたほうが良さそうですね」


 商人たちからのアドバイスを聞いて、しばらくの間は品物を買うのは控えたほうがいいだろうという判断が下された。せっかく貯まった大金だけど、焦らずにゆっくり国のために使っていこう、という意見でセレストと一致した。


 しかし、まさかこんな形で商人テゲルに邪魔されることになるとは予想外だった。だが、予想外はこれだけではなかった。


 商人たちから、不穏な情報が伝えられた。隣国が戦争の準備を進めている、という情報を。

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