第2話 救援?

「ぅ……ぁ?」


 意識が戻る。だが、まだ完全に意識が覚醒しているわけではなく朦朧としていた。周りの状況も、よくわからない状態。そんな中で理解できたのは、自分がまだ生きているようだ、ということ。


 そして何か、もしくは誰かに身体を持ち上げられ運ばれている途中のようだった、ということだけだった。


 状況をもっと詳しく確認しようとしても身体は変わらず動かないので、周りを見ることは出来できない。一体何に運ばれているのか。もしかしたら魔物か何かなのか、と思ったけれと薄く開けた目に映る肌色から人間のようだと思えた。


 ザッザッザッという一定のリズムで土を踏みしめる音が聞こえて、身体も振動するのが分かった。それから頬にあった土の感触は、今は何故かフニフニとした柔らかな何かが当たっているように感じていたが何かまでは分からない。


 獣のような臭いの中に、何だか甘い香りが漂ってくる。その匂いを嗅いでいると、頭がしびれるような、けれど安心した気持ちになる。


 だがしかし、再び意識がぼんやりとしてきた。事態を把握する前に僕は再び意識を失った。



***


「ぅ……」


 再び目を覚ました時、今度は地面の上に仰向けにされ寝かされていた。視線の先に暗くなった空が見えるから、時刻は夜だろうか。先ほど、担がれて運ばれていたようだが何だったのか。一瞬、何がどうなっているのか頭が混乱する。


 体が動かない。


 首を横に倒して見ると、火が熾されているのが見えた。辺りは、ぼんやりと明るくなっているが、森のずっと奥は暗くて先が見えない。


 その場には、僕の他に誰も居ないようだった。わざわざ火を熾して、僕は生かされたまま地面に寝転されているのか。死にかけていた状況から多少の変化はあったが、今もなお、かろうじて生きているような状態で僕は恐怖を感じていた。


 誰か人に会いたい、と心で思った時に彼女は現れた。


「おや、起きたのかい」


 凛とした声が聞こえてきて、僕の視界の中に若い女性が現れた。


 宝石のようにキレイな青色の瞳、火の光を反射して輝いているように見える金髪。活動的な女性なのだろうと分かるような小麦色に焼けた肌。そして何よりも目を引くのは彼女の腹筋だった。


 胸と腰の必要最低限というような部分だけを簡素な布で覆っている、水着のように隠す部分が少ない服装。美しい肢体を惜しげもなく晒した格好で、首や腕には適度に女性らしい肉付きなのに対して腹筋は、腕のスラッとした感じから想像できないほどしっかりとしたシックスパックが出来上がっている。


 今までに、女性の肢体をまじまじと見た経験は少ないけれど、あんなに鍛えられた身体の女性を見たことがなく、不思議と視線が引き寄せられた。


 引き締まったお腹にくっきりと浮かび上がる6つに分かれた筋肉。それを見た僕は彼女を美しいと思った。


「どうだ、意識はあるか?」

「ぅ、ぁ」


 声を出そうとするが、喉から漏れる息を吐くのみ。上手く言葉にできず、彼女には僕の意思が伝わらない。


「腹が減ってるんだな、ちょっと待ってろ」


 違うそうじゃない、という否定の言葉も伝えられない。先程まで空腹を感じていたのに、今は腹が減っていると感じていなかった。それより、何がどうなっているのか状況を確認したかった。だが僕は声が出ないので、どうしようもない。


 見知らぬ女性は、僕が腹減りなのだと思い込んで食事の準備をしてくれているようだった。見ていると何の肉かも分からないが、赤い血の滴った拳よりも大きな物体を火で炙っていた。


 もしかして、いま調理しているアレを食わされるのだろうか。今まで監禁生活では碌なものを食ってこなくて、直前まで餓死しそうになっていた状態。それはつまり、僕の胃は弱りきっているだろう。そんな状態であんなモノを食わされたりしたなら、口に入れてすぐ、絶対に吐き出してしまうだろうと予想できる。


「さぁ、焼けたぞ。食え」

「んー、うっぐっ」


 首を振って僕の拒否する言葉も伝えられず、焼き上がったばかりの肉らしい物体を口に押し付けられる。食えないでいると呼吸が出来ず、窒息死してしまう! 必死になって顔を動かそうとするが肉は退かない。僕は観念して、口を開けて噛み切り飲み込もうとする。


 身体は動かず、言葉もしゃべれない。だが、口はちゃんと動く。肉を噛んでから、飲み込めた。


「美味しいか? さぁ、どんどん食え」

「ハァハァ、うっ」


 女性の屈託の無い笑顔が悪魔のようだと思った。彼女は僕を助けるつもりではなく拷問のような方法で、肉で窒息死させるのが本当の目的なんじゃないのだろうか、と疑ってしまう。これでは死んでしまう!


 そう思った時、新たなスキルが発現した事を自覚した。


 ”大食い”というスキルを。


 そのせいかどうか分からないけれども、肉を食べても大丈夫な気がしてきた。口に押し当てられた肉を噛んで、何とか飲み込む。次々と口に肉を押し付けられるので、それを繰り返し行った。


 一体何故こんな苦しい時に、という疑問が一瞬頭をよぎったのだが、今は食うことに集中した。


 そんな風に無理矢理な食事を続けていると、次第に苦しく感じていた身体の調子が徐々に回復してきたのが分かった。


「どうだ美味いか?」

「ぅ、っん」


 そう言えば、女性に「あーん!」と食べさせもらうなんて憧れのシチュエーションだなと考える余裕も出てきた。


 食事を終えて少し休んでいると、自分の身体に対して、不気味だと感じるぐらいの超スピードで回復していくのが分かった。


 死にかけの、危険な状態から脱した事が直感で理解できた。地面に倒れていた身体を起き上がらせて、その場に座り直す。


 目の前に居る女性に助けられたのだろうか。しかも、その後に安全な場所に運んでもらった。


 空腹を満たすための食事も用意してくれた。しかし僕には、それをしてくれた目の前に居る女性に見覚えはなかった。


「ぁ、ったは、だれ、ですか……」


 僕は助けてくれたらしい女性に、貴女は誰なのかと問いかけた。

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