僕とアマゾネス~外れスキル&チートスキル~

キョウキョウ

第1話 死の淵

 もう身体には力が入らない、指一本さえ動きそうになかった。


 地面に倒れている。頬に、ザリザリとした冷たな感触あった。けれど、目は霞んで周りの状況も分からない。意識が朦朧としていた。なのに、頭の中には色々な考えがぐるぐると駆け巡っていく。そうか、コレが走馬灯という奴なのかと僕は納得した。




 寸前に死を感じて去来する、目くるめく過去の記憶。


 公爵貴族の息子として生活していた頃。僕は毎日を楽しく過ごせていた。けれど、すぐにそれは間違いだったと分かった。人生が変わったのは、”魔物寄せ”なんていうスキルを持っている事が発覚してから。


 魔物を寄せるという害悪スキル。避けるではなく、寄せるスキルなんてデメリットでしか無いようなスキルを僕は身につけている事に気付いた。


 こんな無駄というより更に悪い、あるだけで周りにも危険を及ぼすスキルを持っているなんて事を誰かにバレてしまっては生きていけない。隠し通さなければならないと思っていたのに、それは10歳の時に発覚してしまう。


 誰もが年齢10歳に達すると、持っているスキルを調査されるという行わなければならない儀式が有った。特に貴族であるという僕の身分では、身につけているスキルの内容が重要視されて詳しく調べられることになっていた。


 こうなってしまっては、逃れられない。


 魔物寄せという、他に類を見ないスキル持ちであるということが発覚してしまう。公爵貴族としての僕の存在は外部から秘匿され、地下へと監禁された。


 その頃の王国は、魔物の被害が各地で多発していたという。日に日に、魔物の数が増えているのであった。


 魔物の増殖は原因不明として扱われていたけれど僕の父親は、その原因が僕の持つスキルに有るのではないかと疑った。早々に処分したかったようだが、跡取り息子はその時に僕一人しか居ない。


 公爵にとって、今すぐ処刑して殺すわけにもいかなかったらしい。


 そういう判断で僕は、約5年間ばかりを地下で監禁されて生活する、という日々を過ごすことになった。万が一の場合の予備として。そして5年が過ぎた頃、ようやく公爵家の跡取りとなれる息子が生まれた。


 その瞬間に、僕の処刑は躊躇いなく実施される事が決まった。


 最後ぐらいは王国の為に役立てと実父から吐き捨てられて、僕は遠くの森へと輸送されていった。処刑される前に、王国に張り付いていた魔物を、僕の身につけている魔物寄せスキルの効果を発揮させることによって、別の場所に惹きつける。それから死ね、というわけだった。


 手足はキツく縛られて逃げられないように、馬車に乗せられ見知らぬ場所へと輸送されていく。そう言えば生まれ故郷から外へ行くのは初めてだなぁ、なんて現実逃避をしながら僕は馬車に横たわっていた。


 それからしばらくして、何かが起こった。何が起こったのか分からなかったけれど気がつけば、馬車が転倒していて僕の手足を縛っていた拘束具が外れていた。


 これはチャンスだ。転倒した馬車から抜け出すと、僕を拘束していた大人達からは見つからないように、一目散で森の中へと逃げ込んでいった。


 こうして処刑からは、無事に逃れることが出来た。問題は、これからだった。


 5年間もまともな生活を送ってこなかった僕の身体は、オカシクなっていて上手く森の中を走れない、少し走っただけで息が切れて体力は尽きていた。馬車から必死に逃げ出しただけで、体力はゼロになっている。


 森の奥や影から、何者かが鳴く声がひっきりなしに聞こえてくる。ストレスの限界だった。一刻でも早く森から抜けて、誰か人のいる場所へと向かいたい。その一心で目的地もあやふやなまま、森の中を足を止めずに歩いていった。


 けれど自分の居場所も分からず目的地も定まらなければ、進む道なんて分かるわけがない。気がつけば、足は止まり身体から力が抜けた。


「うぐっ」


 うめき声も上手に出ないまま、僕は地面の上に倒れ込む。動かなくなった身体から最後の力を振り絞って、森の中に生息している魔物に少しでも見つからないよう木の根元と草むらの中に這って行き、身体を隠そうとする。


 だが、これも見つかるのは時間の問題だろうと思う。隠しきれていない。


 餓死して死ぬか、魔物に襲われて死ぬか。どっちが早いだろうか。けれど、意識が朦朧としてきたので餓死するのが早いだろなうと、俺の頭は判断した。


 ハハハと、出なくなった声で僕は笑った。今更になって、ようやく新しいスキルが発現した事を自覚したから。


 ”勇者”というスキルを。


 けれど全ては遅すぎだ。身体は動かず、発現したスキルも死の目前では無意味だ。性能抜群の新車を渡されても、動かすためのガソリンがないようなものだ。


 というか、発現した勇者というスキルのせいで身体が無駄に頑丈さをアップして、死に難くなったように感じる。死亡するまでのカウントダウンが若干、伸びたような気がする。


 なぜ、今更になって発現したのだろうか。もう少し前ならば活用する方法があったかもしれないのに。もう少し後であれば、無駄な希望を持つこともなかった。余計な苦しみを味わうことも。


 生きていて良かったと思えるのは、人生の最初の頃だけだった。後は地獄の日々を過ごすだけだった。それも最後は後悔だけ感じて死んでいく。そのあまりの無意味さバカバカしさに、笑いがこみ上げてくる。


 もう体力も限界で、笑うことは出来ないが。


 そんな時だった。ガサッという、近くの地面に生えている草が踏まれたような音が聞こえた。


 その音が妙に近くてクリアに聞こえて、いよいよ魔物に見つかってしまったと理解した。餓死よりも先に、魔物に襲われて死んでしまうのか。もう駄目だと死への覚悟を決めるというよりも、諦めによって僕は意識を失った。

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