第3話 彼女の正体
焚き火を挟んで、僕と彼女が座った状態で向かい合っている状況。
先ほどよりも、随分と体の調子が良くなった。死ぬんだろうなと覚悟した瞬間から今のように、体が回復するとは思っていなかった。
それをしてくれたのは、目の前に座っている女性だ。
「あなたは、だれですか?」
助けてくれた人に対して向ける言葉としては非礼すぎるかもしれなかったと、口に出してしまった後に後悔する。
しかし、まだ敵か味方かハッキリしていないので警戒もする。5年間もの監禁生活という経験が僕の性格を歪ませたのか、誰も信じられないという気持ちが強かった。一体、何が目的で僕を助けたのだろうか、真実を聞くまで安心できないでいた。
「あたしの名前はアデラヴィって言うんだ。アディって呼んでよね」
ニコニコっと、表裏を感じさせないような楽しそうな笑顔を浮かべて質問に答えてくれた。僕の失礼だと思った聞き方には、何も気にした様子がない。
見た目から推測すると、おそらく二十歳を超えた成人女性だと思われる。けれど、答え方や話し方の口調には幼さを感じる。鍛え上げられた腹筋は、一般の女性だとは思えないようなスタイルをしていて、そこかしこにチグハグさを感じる。
今まで見てきた普通な女性とは違うんだろうと、一瞬見ただけで感じ取っていた。そんな風に、彼女の観察を続けていると向こうから質問をしてきた。
「あんたの名前は? どこから来たの? 森のなかで何をやってたの? どうして、1人で倒れてたの? 仲間は? どこに行く予定だったの?」
「ちょ、ちょっと待って」
僕が答える前に、次々と彼女から質問を繰り返される。
というか、彼女は僕が何者なのか知らずに助けてくれたようだった、ということが分かった。もしかしたら全て演技なのかもしれない、と疑うような考えもあったが、彼女の目を見ても嘘をついたり、演技をしている感じはなかった。
「僕の名前は、ニカノール……。あ、いや、ノアっていうんだ」
本名を名乗ろうとしてしまったが、よく考えたら貴族を追放処分された僕の名前は抹消された過去だろう。そう思って、別の名を告げる。
「王国から、えっと、ある事情があって森のなかに輸送されてたんだ」
「ふーん」
自分の事で語れることは少ない。その中でも何とか説明しようと頭の中で整理してから話そうとしていたのだが、彼女は直ぐに興味を失ったかのように気のない返事をするだけだった。
興味を失ったのなら、と今度は再び僕から質問。
「それよりも、貴女はなんで僕を助けてくれたんだ? 貴女の本当の目的は何?」
「え? 目的って言われても……。何となく?」
彼女は顎に手を当てて、一瞬だけ考えていた。けれども出てきたのは釈然としない答えだった。何となくで僕は助けられた? 彼女の考えが理解できなかった。
「そんな、何となく……。いや、でも、ありがとうございました」
「いいよ気にしないで。あたしの気まぐれだから」
釈然とはしないけれど、助けてもらったのは事実だった。だから助けてくれたことにお礼を言う。彼女は、本当に気にしていない様子であっけらかんとしていた。
だからこそ、僕は思った。彼女を巻き込んではいけないと。
僕は今、魔物寄せという得体のよく知れないスキルを持っている。正直なところ、このスキルがどの程度の効果を発揮して魔物という危険を呼び寄せるのかは理解していない。
王国に魔物を呼び寄せているのは、この僕の持つ魔物寄せというスキルが原因だと思われていた。けれど、それは本当に僕のせいなのか。公爵家嫡男として気軽に処分できないという理由から監禁された生活を過ごすことになった。
地下に監禁されていたけれども、その時もずっと魔物と遭遇することはなかった。スキルが発揮されているのか、自覚がなく効果の範囲も判明していない。
ただ、このスキルが本当に魔物を寄せるスキルであり、今も呼び寄せているのだとしたら僕の側に居ることは危険だと思う。
「助けてくれたのは、本当に感謝しています。ただ、僕の事は放って置いて下さい」
「なんで?」
アディと名乗った彼女を巻き込まないように、遠ざかるため立ち上がろうとする。
「どうしたの? どこに行くの?」
離れようと暗い森の中に行こうとしていると、呼び止められた。わざわざ見知らぬ僕なんかを助けてくれた人だ、詳しく説明しないと離してくれないかもしれない。
「僕の持っている魔物寄せというスキルが凄く危険なんですよ。僕の近くに居たら、あちこちから魔物が襲ってきて死の危険が」
「え! そうか。あんたが原因だったんだね!」
理由を説明して納得してもらい離れようと思ったら、何か別のことに思い当たって納得をする彼女。一体何事だろう。
「いやー、勘に頼った通り。ノアを拾って良かった!」
「は? どうして!? 僕と一緒に居たら魔物が寄ってくるんですよ。危険です」
なぜか、喜んでいる彼女。もう一度、僕と一緒に居る危険性を説明しようとする。だが彼女は喜ぶだけだった。
「とっても良いスキルだね!」
「いや。だから、魔物が寄ってきて」
何度も説明しても危険性を理解してくれない。焦った僕とは違い余裕綽々の彼女。次の瞬間、なぜ彼女が余裕そうなのか理解した。
更に詳しく説明して、危険なことを理解してもらおうとした。
その時、僕の目の前に黒い影が飛び出してきた。だが、その物体のスピードに僕は反応するのが遅れた。バゴンッと、何かがぶつかる音。
「は?」
「ほら」
いつの間にか、彼女は座ったままの状態で手に持っていた大剣のような武器を天に向けて掲げていた。
素早くて見えなかった、黒い影に見えていたモノが見えた。
黒豚のような大きな顔に特徴的な鼻と三角形の耳に、丸く太った身体だったソレが地面に倒れていた。絶命した状態で。
「え?」
「今日は大漁だなぁ」
魔物が襲ってきても簡単に倒せる力を身に着けていたアディ。目の前で見せられた光景から彼女の実力を把握することが出来た。とんでもない戦闘力の持ち主だということを。
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