第26話 聞き込み調査-ドリィ、ニアミッラ
ミリアリダと話をすることで、仲良くなれた。有意義な時間ではあったけれども、僕が役に立てるような方法は見つからなかった。なので、まだ役立てる仕事を求めて街の中を巡る。何か出来ることはないだろうかと、僕は探し続けた。
訓練場に来てみると、ドリィが大剣を振るってトレーニングを積んでいた。もう、十分に強いだろうと思う。けれども彼女はそれで満足せずに、いつも継続して身体を鍛え続けていた。
訓練場に来れば、ドリィに会えるだろうと思って来てみたら思った通りだ。今日も彼女はトレーニングを続けていた。
ドリィに近寄っていくと、彼女は僕に気が付いて剣を振るう手を止める。そして、向こうから声を掛けてくた。
「やぁ、ノアじゃないか。こんな所に1人きりで来て、どうした?」
「何か困っている事がないか、皆に聞きに回ってるんだよ」
僕を見下ろして、ニカッと眩しい笑顔で言い切るドリィ。そんな彼女を見て、僕は改めて背が高い女性だなぁと思った。
「困ってることか? 特に無いなぁ」
「そうなんだ」
彼女は明るい表情で、悩みがないと答えた。どうやら僕の出番は無いようだった。逆に、ドリィが問いかけてくる。
「それよりも、アディと戦って手ひどく負けたんだって?」
アディに負けたという話は、僕が1ヶ月間鍛えた後に、その成果を見せようとしたときの事だろうか。
「あー、いや。勝負したっていうのは、僕が1ヶ月間鍛えた、成長を見てもらおうと思ってやった事なんだよ。それに、手ひどくっていう程はやられてない。頭に、一撃食らったぐらい」
気絶するほど強烈な一撃だったけれど、それだけだ。それより、僕とアディの2人のやり取り、あの出来事を知られているのが気になった。
誰にも、あの時の事は話していない。あの時、周りには誰も居なかったはずだし、少なくとも僕は誰にも見られていないと思っていた。
あの場所には、アディと僕の2人だけだった。だから、あの時の出来事を他の人に知られていないと思っていた。どうやら、あの日の出来事をドリィには知られているらしい。とすると、アディが彼女に話したのだろうか。
「それで、何で誰かの”困ったこと”なんて聞き回ってるんだ?」
「実は、……」
話題を変えるように問いかけてきたドリィに、僕は今悩んでいる事を正直に話して相談してみた。すると、彼女から返ってきた答えはこんなものだった。
「別に気にする必要はないよ、ノア。今でも十分、あのスキル”魔物寄せ”だったか、で皆の役に立ってるじゃないか。私達の国にいっぱい獲物を引き寄せてくれている。だから大丈夫だよ」
「うーん、そうなのかなぁ」
やはり目の前に居る相談に乗ってくれたドリィも、アディと同じように今役立てているから気にしなくても良い、というアドバイスを言ってくれる。
やはり、そうなのかな。僕が気にしすぎなのか。
「悩みが嫌なら、酒を飲もう。酒場に行くか?」
「え? いや、ちょっと待って」
ドリィはそう言うなり僕の体に腕を回してきて、地面には足がつかななくなった。僕の体は、軽々と持ち上げられていた。問答無用で、酒場へ連れて行かれようとしているらしい。
「ちょ、下ろしてくれドリィ。自分の足で歩けるから!」
「いいから、いいから」
せめて自分の足で歩いて向かうと言うが、聞く耳を持たないドリィだった。
***
「ニア、また朝からずっと酒かい?」
「うん」
ドリィの腕に抱きかかえられて、やって来た酒場には、先客のニアミッラが居た。狩場に出ない日は、酒場がニアミッラの定位置であった。
ドリィとニアの2人が、親しげに会話をしている。
その時、恐ろしい言葉を僕は聞いてしまう。彼女は朝から昼を過ぎた今までずっとお酒を飲んでいたらしい。そして、そのまま夜まで飲み続けるつもりのようだ。
「それって、アディの所にいる子? 何で一緒に居るの?」
「うん、この子は皆に悩みを聞き回ってるんだって」
ニアミッラの問いかけに、僕がやってきた事を、ドリィが代わりに答えてくれる。と言うか、いい加減に地面へ下ろして欲しいと思っているのだが、僕はまだドリィに抱きかかえられたまま。
抱きかかれられたまま、僕に顔を向けて、ニアミッラが不可解だという風な表情を浮かべて問いかけてきた。
「なんで?」
「えっと、僕が今、色々悩んでいて、その解決策を探そうと思って」
「この子、皆の役に立ちたいって言ってるのよ」
「もう今でも十分に役立ってる。だから、そのままでいいじゃない」
ニアミッラからも聞いた答えが返ってきた。皆と変わらず、同じように今のままで十分と言ってくれる。でもそれじゃあ、僕の心のモヤモヤが晴れない。考えすぎか。
「それで、ニアの悩み事は?」
ドリィがお酒と食べ物を店に注文しながら、ニアミッラに興味本位で問いかける。と言うかドリィは僕にもお酒を飲ませるつもりなのか、二人分の注文をしているように聞こえた。
「それはもちろん、酒が好きすぎることかな。私はどうやら、酒を飲みすぎているらしい」
「ハッハッハッ、自覚なしか!」
ニアミッラの悩みを聞いて爆笑するドリィ。僕の悩みもニアミッラと同じように、悩んでも仕方がない事、傍から考えれば笑い飛ばされるような悩みなのかもしれないと感じた。
「さぁ、酒が運ばれてきたぞ。飲め」
「う、うん、ありがとう」
ようやく地面に下ろして椅子に座らせてくれたと思ったら、次は酒を突き出されたので観念する。差し出された酒を受け取り、ドリィに勧められるまま飲んでみた。
そういえば、飲酒なんてこの世界に生まれてから初めての体験だと、お酒を口の中に含んでから僕は思い出した。
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