第10話 アディの仲間
突然巻き起こった嵐のような戦いは、始まった時と同じようにピタッと終わった。というのも戦っていた相手、長身で褐色肌であるその女性がアディと知り合いのようだったから。
「ドリィ、何処行ってたんだ探したんだぞ!」
「は? いやいや、何処かに行ってたのはアンタの方じゃないか、アディ!」
向かい合って立ち視線を合わせた2人は、お互いに武器を下ろして戦いを止めた。と思っていたら、次の瞬間には口論を始めた。やはり、乱入してきた相手は知り合いらしくて、アディは目の前に立つ女性の名前を呼んで責めている。
あの人が、森の中で見つけようと必死に探し回っていた人物なのか。逢えてよかった。
「なにぃ! あたしが悪いってのか?」
「悪いというのなら、そうでしょうよ。魔物が居ると勘が告げている、なんて言って勝手に飛び出していって! 私たちが、どれだけアンタを探したと思ってるんだよ」
口論がどんどん激しくなって掴み合いになり、もめ始めた。周りの武装した市民も呆然とした様子で二人の動向を見守っている。
というか、あのドリィと呼ばれていた女性は、街の中からやって来たようだった。という事は武装している市民側の仲間のようだけれど、どんな関係なのだろうか。
「でも魔物はめちゃくちゃ居たよ。森の中では、半日以上は戦いっぱなし」
「え、本当に? うっわ、それなら私も一緒に行けば良かったかな。いいなぁ……。いいなぁー!」
アディは、魔物と遭遇して戦ったという自慢をしていた。そして戦えなかったことに、とても悔しがっている様子の女性。魔物と戦えたと自慢するアディを、心底から羨ましがっているらしい。やはり、彼女も戦闘狂のようだった。
「しかも、良い拾い物をしたよ。ほら」
「うわっ」
離れて立っていた僕に、急接近してきたアディ。逃げる隙もなく捕まった。
そして、ドリィと言う名らしい女性の目の前に肩を押されて突き出される僕。目の前の彼女から刺さるような視線と、不審げという表情を向けられる。
「なにこれ?」
「魔物を引き寄せる、ってスキル持ってるんだって」
「え? マジ!?」
アディの説明を聞いて、その女性は上から下まで舐めるように僕の姿を見てきた。身長が高い彼女に、僕は思い切り見下されている。
確認するのに接近してきた女性。近くで見ると、太陽の光を白く反射させる綺麗な褐色肌が目に飛び込んでくる。
彼女もアディと同じく、半裸と変わりないぐらいに露出度の高い恰好をしていた。筋肉も程よく付いていて、見た目だけで力強いという印象を抱く女性だ。
「本当なの? そんなスキル聞いたこと無いんだけど」
「ホントホント。効果も確認済み」
半信半疑の目で、褐色肌の女性にジロリと見定められる。というか、2人の会話を聞いていると、魔物寄せのスキルを有り難いものとして扱っているようだった。
僕にとっては、これのせいで監禁生活を送ることになったからだろう、僕の人生に必要のないスキルだと思っていた。所持していると、有害であると思うようなスキルだったのに。
「まぁ、その話が本当なら確かに良い拾い物だね。私も期待してみよう」
「ホント。期待してたら良いよ」
僕は、アディに後ろから抱きしめられるバックハグで逃げ場を無くしている状態。戦闘後に抱きしめられているから感じるのだろうか、ほのかに香る汗っぽい匂い。
だが不快感はない、何となく惹かれるような良い匂いに感じる。
そして目の前には褐色の肌。長身の女性達にサンドイッチのように間に挟まれて、頭上で交わされる会話。僕は恥ずかしくなって、黙ってうつむいていた。
「あぁ、こいつはドリエンヌ。ドリィって呼んであげて」
「よろしくー」
「あ、えっと、はい。よろしくお願いします」
黙っていた僕に気付いて、アディが気を利かせてくれたのか。彼女の名前を改めて紹介してくれた。そして、ドリィという名の彼女は、気のない適当な返事。
「他の皆は?」
「街の中にいるよ。酒でも飲んでるんじゃないかな?」
そう言えば、アディは一体何人の仲間を探していたのだろうか。探している人物は全員がこの街に居るのだろうか。というか、昼間からお酒を飲んでいるのかな? 様々な疑問が生じたけれども僕は、特に何も聞かずに会話にも割り込まず、沈黙して2人の会話を静かに眺めていた。
「お酒か、いいねぇ。久しぶりにあたしも、お酒が飲みたーい!」
「じゃあ皆の所に行きましょう。飲みに行こう!」
話しているのは目を見張るような美人2人なのに、内容とテンションは酔っ払いのおじさんのようにしか聞こえない会話。というか、自然な流れで何事もなかったかのように街の中に入っていく僕たち。
街に入ろうとしている僕たちを武装市民は、恐れおののいて道を開けてくれるから簡単に進めるようになった。
というか先程の2人の戦いを見ていたのなら、安易に目の前に立ちふさがり侵入を止めようとするのは出来ないだろう。
アディとドリィの2人、そして僕が進む後ろに聖女様や僧侶達も馬車を操縦して、後をついてくる。そしてそのまま街の中に入っていく。聖女様達をアディの仲間だと認識しているのか、襲ってくる武装市民は皆無だった。
なんだかんだあったが、無事に街の中へと入ることが出来た。でも、まだ色々な事が分からないし、街の事情も良く分からないまま。
そのまま、僕らは街の中に入ってよかったのだろうか。心配だった。
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