第21話 新生活

 僕が連れて来られたのは、アディの家だった。アマゾン国の街中にある、アディが家主の住宅。そこで今日から一緒に住むんだと、アディから告げられる。




「ほら、ココからの眺めが良いんだ。見てみろ」

「これは確かに、これは凄く見晴らしが良いですね」


 アディの家は高台の上に建っていたので、窓からは街の景色が一望できる。彼女の言う通り、確かに良い眺めだった。


 街は緑豊かな自然に囲まれている、森の中にあった。景色の遠くの方には、木々に囲まれている中にポツンと広がっている湖が見える。その湖に反射している、太陽のキラキラとした光が目に眩しい。


 その後も、アディの案内で家の中を見せてもらった。もともとアディの住んでいたココは、一人暮らし用の家なのだろう。当然のように、寝室にはベッドがひとつしか無かった。本当にここで暮らすのか。部屋の広さは十分だと思うけれど。


 一緒に生活すると言われても、新しく家にやって来た僕はどうするべきか。部屋の角でも借りて、床の上にでも寝るべきかと思っていたら、アディは、そんな事は気にする必要はないとベッドの中に僕は引きずり込まれる。


「今夜は、ココで寝るぞ。そしてずっと一緒だ」

「えっと……、はい。よろしくお願います」


 どうやら旅の間もそうしてきたように、家に帰ってきからも彼女は僕を抱きしめてベッドで一緒に眠るのが毎日の決まりとなるようだった。


 男女が軽々しく同衾するべきでないと教育を受けてきた僕は、けれどもう今更だと何も言えずアディの言う通り、従うだけだった。



***



 アディ家での生活は、以前に比べたら本当に快適そのものだった。監禁生活と比べたら、どこだって快適であると言えるだろうが。


 とにかく、今の生活は幸せであると間違いなく断言できる。


 毎日3食もアディは僕の分の食事を用意してくれて、食うに困らない。食事の量は普通ならば多くて食べきるのが大変だと思うような量を用意してくれるのだが、幸いと言うべきか僕は”大食い”というスキルを身につけていたおかげで、食べきるのには苦労しなかった。せっかく用意してくれた物を食べ残するは、申し訳ないから。


 そして、彼女は僕の着替えも用意してくれた。ただ、この街には男性用の服は置いてないらしくて、僕と身長の近い人から譲り受けた物。譲り受ける以前に誰か、別の女性が着用していたらしい使用済みである、お下がりの服だが。


 普段から露出度の高い格好の彼女たちが身につけているような衣装。僕から見れば下着に近いような、際どい格好。僕も着てみるが、やはり露出が多い。


 男のくせにと思われるかもしれないが、素肌を晒すのは恥ずかしい。長い間の監禁生活で弱ってガリガリとなっている身体を見せるのは、顔から火が出るような気持ちで恥ずかしさを感じる。僕の周りの女性は、鍛えてガッチリとした立派な体だから、特に恥ずかしい。男の僕は、何の自信も無くなってしまう。


 幸い、最近は毎日アディが用意してくれている食事を美味しくいただいて、体重も徐々に増えてきている。みすぼらしい身体も、徐々に肉付きが良くなってきているとは思うが、しばらく恥ずかしい思いをしながら過ごす期間が続きそうだ。


 時々、アディに外へと連れて行かれる。身体を洗うための施設である水浴び場に。僕以外には当然、男の居ないらしいこの街では男性に配慮する必要もない女性たちが羞恥心もなく裸で利用している場所。


 そこに、唯一男である僕は混ぜてもらって利用している。


 周りから集まる女性たちの視線に、気付かないようにしながら急いで身体の汚れを水で流して落としていく。


 恥ずかしいのは、アディが子供に接するように僕の身体をあちこちを洗ってくれる手伝いをしてくることだ。気遣ってくれるのはありがたいけれど、子供のような扱いに、やはり恥ずかしくなる。


 衣食住と、至れり尽くせりで幸せだと感じる生活を用意してくれるアディ。色々と恥ずかしい思いはしつつも、満足している。こんな風に、生活していくのに困らない幸せな日々を送ることが出来ていた。


 だがしかし、アディという女性と共同生活することになって、困っている事がもう一つあった。それは。


 


 夜になって、僕が眠っている頃。同じベッドの上に居たアディが、ベッドから抜け出すと部屋から出て行くのに気が付いて、何事だろうと僕は目を覚ました。


 声を掛ける前に、部屋から出ていってしまったので話しかけるタイミングを逃す。こんな夜に用事があるとすれば、トイレに行ったのだろうか。それなら話しかけなくてよかったと、僕は再び眠りにつこうとした。


 しばらくして戻ってきたアディは、ベッドの中にサッと静かに入ってきた。何かを手に持っているようだが、何か分からない。目を閉じたままの僕は、アディの様子を伺う。すぐ側から、聞こえてきたのは彼女の艶っぽい声。


「んっ……」


 僕が寝静まった頃を見計らって、アディは密かに自慰行為を始めた。最初は小さい声で、押し殺すような声だったが次第に彼女は気分が乗ってきたのか。


「ハァ、んはぁ」


 と息遣いを荒くしている。そして最後には、ベッドも激しく揺れ動く程に、激しい運動。そんな彼女の発する、声と振動を僕は身体で感じながら黙って過ごす。


「あぁー、っふー」


 とうとう抑えようとしない声を上げて、彼女は快楽に浸っていた。女性の嬌声を、こんなに間近で聞くことなんて初めてで、驚きすぎた僕は身体を硬直させたままで、彼女が終えるまでじっと動かずに耐えた。


 その日は何とか、寝たフリをして過ごした。

 

 夜中に彼女がそんな行為をしている、という事に気付いてしまってから、アディが連日のように夜になると行為を始める頃に、僕は目を覚ますようになってしまった。


 彼女は僕が寝ているのを確認してからソレを始めるので、一応自慰行為は隠そうとしているのだろう。


 だから、僕も気付かないように寝たフリを続ける。けれど、こう何度も遭遇すると正直に言ったほうが良いのだろうか、何も言わないほうが良いのか。しばらくの間、僕は悶々とする日々を過ごすことになってしまった。

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