第14話 引き止める聖女様
「このまま、彼らを見捨てて行くのですか!?」
座っていた椅子から勢いよく立ち上がった聖女様が、声を立てる。食事を終えて、酒場から出ていこうとする一団を、信じられないという表情で見つめていた。彼女も傍らで話を聞いていたようだった。
「見捨てる?」
「街の人からの依頼を受けたのではないのですか?」
「街の奴らとの契約は、私達の仲間が見つかるまでという約束だったからな。コイツが見つかったのなら、この街に留まる理由はない」
呼び止められたジョゼットが仕方ないという風にして、面倒くさそうに対応する。一応、しっかりと街の人との契約について説明をする。どうやら、アディを見つけるまでの約束だったらしい。
だがしかし、ジョゼットの言葉は聖女様に不信感を抱かせたらしい。
事前に約束していたのなら、僕はジョゼットの言葉が正しいと感じていたけれど、聖女様は違うようだ。耳を疑ったという様子で、ジョゼットを睨みつける。
「この街の人達は、今までに苦しめられて仕方なく反乱を起こしたのですよ。彼らを助けなくては」
「アンタは一体、私達に何をしろと言うんだ?」
市民たちの状況を知った聖女様が、それについて長々と話し始めそうになった彼女の言葉を遮って、うんざりした表情でジョゼットが直球に尋ねた。
「悪いのはお金を奪った貴族と、それを許した王様だけ。他の人達は仕方なく現状に巻き込まれただけですよ。そんな彼らの状況を改善する為には、悪い人達を打ち倒す必要があります」
直球に尋ねた筈のジョゼットの言葉がスルーされたかのように、また話を長く語り始める聖女様。彼女の言葉に飽き飽きしているという風だが、一応は耳は傾けている様子のアディ達。
「ここに居る皆さんは、普通の人とは違う凄い力を持っている。それを助けを求める人々の為に使うべきです」
「だから結論を言え、結論を」
「悪を滅ぼすために、皆さんの力を私に貸してください」
聖女様の言っていることは立派だと思うし、正しいとも感じて話は理解は出来る。しかし、他人に強要するべき事ではないと思う。ジョゼットも僕と同じような意見を持っているのか、彼女の持論によって反論をしている。
「私に力があるのは、自分自身で身を鍛えた結果だ。この力は自分の為に身につけた力だ。他人に奉仕する為に持っているモノではない」
「ですが、今回の事が起こった原因は彼にあるのかもしれないんですよ」
ジョゼットと聖女様の2人が言い争っている話題の標的が変わって、僕も巻き込まれることに。聖女様は僕を指さして、弾劾してきた。
どうやら、僕がスキルとして持っている”魔物寄せ”についても側で話を聞いていたらしく把握しているようだった。そしてセレストが推理した、そのスキルが魔物増加の原因だ、という考えを聖女様も同意見のようだった。
「今の王国に魔物が大量発生しているのは、そこにいる彼の持っているというスキルが原因なのかもしれないんですよ」
「まぁ、そうかもしれないな」
「そうです。だから彼の仲間というのなら、あなた達が彼の引き起こした現状の責任を一緒に取るべきです」
今回の出来事を引き起こした大本の原因として、責任を取るべきだろうと主張してきた。
聖女様から、今の王国で起きている出来事を僕の責任にしてジョゼットやアディ達のような強力な戦力を手元に置いておきたい、という思惑を感じた。
だが、そんな考えをジョゼットは一刀両断する。
「そんな事、私達の知ったことではない」
「そんな、乱暴な……」
ジョゼットはよっぽどイライラが募っていたのだろうか、吐き捨てるような言葉をストレートに告げた後に彼女は颯爽と店から出ていった。聖女様の返事も聞かずに、もう議論の余地も無いという風にして。
ジョゼットの後について、酒場から出ていく仲間たち。僕は彼女たちの後に続いて店を出るその前に、もうここでお別れになる聖女様に対して、失礼だろうことは自覚しつつも、街まで送り届けた報酬について請求してみた。
「それについて一つ問題があります。あなたの持つスキルです」
案の定、街までの護衛に関しての報酬を出し渋るように喋り始めた聖女様。そしてやはり、魔物寄せのスキルについて責任を追求してくる。
「そもそも、私達が道中で異常な数の魔物と遭遇した理由は、あなたのスキルに原因があるのではないでしょうか?」
「僕が居たから街までの護衛が必要だった。逆を言えば、僕が居なければ護衛は必要なかったという事ですか」
街にたどり着くまでに何度も魔物の襲撃に遭って、アディが撃退していたから皆は無事だった。その魔物の襲撃の原因は僕に有るだろうと指摘する聖女様。
僕が居なければ魔物の襲撃はないから、護衛も必要なかったかもしれない。
「有り体に言えば、そういう事になります」
「つまりは、報酬は支払わないということですか?」
「はい、そういうことです」
もともとは、道に迷っているアディと僕が街までたどり着ければ良かっただけ。
一番に大事な目的である、街に辿り着くことは出来た。金銭による報酬については、貰えればラッキーぐらいの気持ちで期待してなかったので落胆はしない。
「わかりました。それじゃあ、報酬は結構です。さようなら」
「ま、待ってください!?」
交渉する必要もなく、あっさりと諦めて酒場を後にする。
何やら、後ろから慌てた様子で呼び止めようとする声が聞こえてくるが、さっさと立ち去り無視を決め込んで僕もアディ達と一緒に国を出ることにした。
と言うか、そもそもアディの持ち物である僕は彼女の後について行くという選択肢以外には無いから。
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