第15話 依頼終了
「ちょっと寄る所がある。一応、アイツに話しておかないと」
酒場を出たら、すぐに街の外まで向かうのかと思っていたらジョゼットが、誰かに会いに行くという。
「ヘルムは今、何処に居る?」
「え!? あ、はい。えっと、ヘルムさんなら、今は中央の元貴族屋敷に居られると思います」
ジョゼットがその辺りに歩いていた市民を呼び止めて、誰かの居場所を尋ねた。声を掛けられた方の男性は、恐縮しながら答える。
ヘルムという人物がどこにいるのか居場所を聞くと、その聞いた場所へ直行する。その後をついて歩くアディ達。
僕は再び、アディに体を拘束され荷物を運ぶような感じで胸の前に抱えられながら街の中を行く。行く先々で市民から見られているという視線を肌で感じていたので、恥ずかしいとアディに伝えるが、体を離してくれそうになかった。
ただ、僕も誰かの人肌という感触を感じられることが自分で思っている以上に安心を得られているらしい。
恥ずかしいとは思いつつも、自分から無理して離れようとはしないから。だから、黙ってアディの腕に抱えられている状態が続く。
先頭を歩く背の低いジョゼット。その後ろには、背の高い女性たち。
ドリィにセレスト、ミリアリダ、ニラミッラ、そしてアディ。他にも、女性たちの集団が集まって歩いている。そして、その全員が眼を見張るような超絶美人だった。
だが、周りにいる男性たちは誰一人として声を掛けてこようとはしない。近寄ろうともしなかった。
女性たちは男性の平均的な身長を軽く上回るぐらいの長身、鍛えられた体の筋肉を見て、容易に声を掛けでもしたら返り討ちに遭いそうだという、見た目から自己防衛本能が働くような女性たちの集団だったから。
ジョゼットが目的としている人物が居るらしい、街の中央にあるという元貴族屋敷という場所まで辿り着いた。
ひと目見て大きな屋敷だな、という感想が浮かぶぐらいデカイ屋敷。
以前、僕が貴族として生活をしていた頃に住んでいた実家を思い出す。それぐらい大きな屋敷だった。
とある貴族の屋敷。だが、元という名が付くだけあって、今では屋敷への出入りを制限するための門は開かれっぱなし。
敷地内には、街の市民たちが普通に入っている。出入りが自由な場所になっているようだ。
「ヘルム!」
「あ、はい」
門を通って、敷地の中に入るとジョゼットが大声で名前を呼んだ。すると、慌てて出てきたのは中肉中背の、あまり目立つような特徴が見当たらない普通の男性。
困ったという表情を浮かべて、額に汗も流しながら緊張した面持ちで屋敷の中から出てきた。
「仲間が見つかったから私たちは街を出ていくことにした、契約は終了だ」
「はい、そのようですね」
どうやら、屋敷内から出てきたヘルムという名前の男性は、ジョゼット達の依頼人だったらしい。
突然、屋敷にやってきて契約は終了だと告げるジョゼット。横柄な態度をとる彼女に対して、怒ることなく、謙りながらしっかりと対応している。
「貴女たちが助けてくれたお陰で、この街に住む市民の多くが戦いで死ぬこともなく生き残れました。王国軍や貴族達を返り討ちに出来たのも、貴女たちのおかげです。感謝しています」
ジョゼットに向けて頭を深々と下げる。そして、御礼の言葉をジョゼットに伝えるヘルム。そうしてから、頭を上げるとジョゼットに向き合ってお願いをしてきた。
「依頼内容では仲間が見つかるまで、という期限を決めていましたが、もう少しだけこの街に滞在をお願いできないでしょうか」
「すまないが、それは断る。私たちは新しい目的が出来て、すぐに国へ帰らなければならなくなった。緊急の用事ができた」
「そうですか」
引き続き、街を守ってもらうという依頼の延長を申し出たヘルム。ジョゼットは、その申し出をあっさりと断ってしまう。
だが、ヘルムも一応申し出てみただけ。元から期待はしていなかったのだろうか、残念そうではあるが、仕方ないという表情を浮かべている。
「まさか、あなた方の仲間がこんなにすぐ見つかるとは想像していませんでしたよ。リスドラの森で逸れたと聞いて、もしかすると魔物に殺され一生合流することは無いかもしれない、と私は考えていたのですが」
「ハハハッ! 残念だったな、ヘルム。私の仲間はそんなにヤワではなかった」
「あなたの実力を目にして強いだろうとは思っていたのですが、たった1人であの森から抜けられるほど、だとは思いませんでした。それだけに、契約が終了してしまうというのは非常に残念です」
「契約では”仲間を見つけるまで”だったからな。仕方ないと思え」
そう言われて諦めるかという風にため息をついたヘルムは、近くに居た人に何かを持ってくるように指示を出した。
そしてすぐさま、白い袋に詰められた何かの荷物がジョゼットの目の前に運ばれてきた。
「依頼の報酬は、金銭ではなく食べ物を用意すれば良いということでしたね。酒場の飲み食いは自由にしてもらっていましたが、契約を終了ということで街を出ていくのであれば、これも持っていって下さい」
「おお、すまないな」
白い袋の中身はどうやら食料らしい、それをジョゼットが受け取る。
そういえば、酒場を出る時に誰も支払いをしていなかったが、食事や飲み代が依頼の報酬に含まれていたらしい。そして、追加の報酬を出してくれるという。
「じゃあ、もらっていくぞ」
「機会があれば、また依頼の受注をお願いします」
挨拶をして屋敷から出ていく。ぞろぞろと女性の集団が街の外へと出られる門まで歩いた。荷物には、食料が詰められた袋が増えて。
引き止められはしたものの、あっさりと依頼の終了を納得してもらった。そして、無理に引き留めようともせず送り出してくれた彼ら。
先ほどの聖女様との出来事を考えて比較すると、市民達の方がまともだと感じる。まぁ、それも終わったことだった。気にしないでいこう。
「よし、それじゃあ旅の準備も終わった。森に戻ってコイツのスキルが本物かどうか確かめながら、私達の国に帰ろう!」
「「「「「おう!」」」」」
今後の予定を簡単に説明をして、統率を取るジョゼット。その後に続いて、掛け声を上げる女性たちの集団。
女性たちの集団の中に、たった1人だけ男性の僕はいた。やはり、肩身が狭い。
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