第12話 情報交換

 アディとドリィに連れてこられた酒場の中に、僕は居た。仕事終わりの一杯という具合いにアディは楽しんでいるが、その図太い神経に僕は感心するばかりだ。


「マスター! こいつらの分の酒とメシ、適当に持ってきてくれ」

「ハイっ! 只今ッ!」


 椅子に座るだけで地面に足が付かなくなっている、背の小さな女性が姿に見合わぬ尊大な態度で注文する。


 すると立派なひげをたくわえた中年の男性が注文を受けて、慌てて料理と酒の準備に取り掛かった。まるで、少しでも遅れたなら重い罰を課せられるという様な感じで大慌てだった。


 というか、今まで登場したキャラの濃い4人の女性達に視線が集中しすぎていて、店のマスターが視界に入っていなかった。居るのに、いま気が付いた。今までジッと息を潜めて、静かに待機していたらしい。


「いま注文を入れたアイツが、ジョゼットって言うんだよ。身体はちっちゃいけど、滅茶苦茶に力が強いから怒らせないほうが良いよ」

「は、はい。分かりました」


 アディが僕の耳元に顔を近づけてきて、ささやき声で合流できた仲間たちの名前を教えてくれる。


 聞こえてきたアディの声に左耳や背中が無性にゾクゾクッとしてしまう。気持ちが悪いんじゃなくて、憶えてはイケないような感覚。そんな感覚を無理やり無視して、アディの言葉に集中する。


 背が小さくて可愛らしい見た目から想像できないけれど、アディが注意するぐらいだから力がもの凄く強い、というのは本当なのだろう。気を付けなければ。


「それから、あっちのテーブルで寝てる奴がセレスト」

「Zzz……」


「あぁ、あの人が」


 確か、森の中を歩いていた時にアディから彼女の名前を聞いた覚えがある。土地や道に詳しいという人だった様な。彼女がそうなのか。


 今は眠っているのか、テーブルに顔を突っ伏していて銀髪も邪魔をして顔は隠れていたので、表情はよく見えない。そしてずっと寝たまま、まだ起きる気配も無い。


「マスターぁ、酒ぇ! 追加ぁ!」

「は、はい。ただいまお持ちします」


「早くしてくれよなぁ。ジョッキが空だぞ」

「はい、よろこんで!」


「それから酒をがぶ飲みしている、アイツはニアミッラ。酒好きのマゾな奴だから、酒だけ飲ませて放っておけばいい」

「はぁ……?」


 なんだか適当な説明だなぁ、と思いつつニアミッラという女性を見る。


 腰まで伸びている綺麗な黒髪で、清楚そうな美女。アディはマゾだと言っている。だが、今の振る舞いを見るに厳しそうだけど。女性にしては口調も荒いし。しかも、お酒が好きなのかぁ……。


 見た目から感じるイメージとは、大きなギャップがあるような女性だった。


「で残った、アイツはバカだ」

「なんだとー!?」


「うっ」


 アディの言葉を耳にして、テーブルに手を付き怒って立ち上がる女性。そんな彼女の胸には、いまだ何も身に着けていない状態。その解放された大きな双丘がプルンと波を打つように揺れていた。


 視線を逸らそうとしても彼女が激しく動き、目に飛び込んでくる。目が逸らせない言い訳なのかもしれないけれど……。


「ミリアの名前を、ちゃんとソイツに仕込んでおけよっ!」

「ほら、見ての通りのバカだ。ミリアリダ、覚えなくていいぞ」


「えぇ……?」


 どうもこの2人は仲があまり良くないのか、でも煽っているアディは小馬鹿にするような感じの笑みを浮かべていて、からかって遊んでいるだけのようだ。


 見た感じ、容姿は似ていないが姉妹のような関係にも見える。姉のアディと、妹のミリア。


 それより何より、怒るよりもまずは自分の胸を隠してほしい。必死に意識を下から逸しながら、アディとミリアの様子を眺めていた。


 こうして、アディから全員の名前と簡単な特徴を教えてもらって彼女たちのことを把握することが出来た。しかし、紹介をしてもらって改めて濃いキャラクターだなと感じた。


「ところで、アディ。お前、今までどこに行ってたんだ?」


 注文を受けていたマスターが恐る恐る、酒と料理をテーブルの上まで運んで丁寧に並べていく。それを当然のサービスだという様子で受け入れながらも、ジョゼットが改めて問いかけてきた。


「ん? ハグッ、ング。 あたしは、コレを見つけて森の中で遊んでたんだ」


 ジョゼットの質問に、テーブルに並んだ料理を飢えた犬のような食欲でガツガツと肉を口に詰め込んで食べながら答えるアディ。そして、コレと指さされる僕。


「それから、あっちに居るセイジョサマってのを守る仕事を受けて、街にやって来たんだよ。良かったよ、合流できて」

「ふぅん、なるほど」


 いつの間にか、酒場の隅の席でちょこんと座っている聖女様と僧侶の女性が居た。それから、どうするべきなのか対応に迷ってソワソワしている戦士たちも居る。


 短い説明だったが、アディの話を聞いて納得したというように頷いたジョゼット。


「あんたは何で街の中に居たの? ドリィが、なんか街の奴らの味方をしてたみたいだけど」

「あぁ、それは私達が街の人らに雇われたからだよ。あんたがセイジョサマに雇われたって言ってたのと同じ様に」


 街の門前で起こった出来事について、アディは話した。そこで、仲間の1人と交戦したことについても。


 それから、街に居た仲間たちの事情について問いかけたアディ。ジョゼットは理由を答えてくれた。街の人達から依頼を受けたと。


 彼女たちも、僕らと同じように何らかの依頼を受けて雇われていたらしい。でも、街中に滞在しているという事は、街の外からくる敵に備えているという事なのか。


「へぇ、敵は魔物?」

「いいや、人間だよ。ココの人たちは、数日前から王国に対して反乱を起こしているからね。その戦力として雇われた」


 は? え? 王国に対して反乱を起こしている? 


 ジョゼットの言葉を傍らで聞いていた僕は、その言葉に混乱した。

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