第13話 街の事情
合流したアディの仲間たちから、色々と事情を聞いた。
僕が今いるこの街は現在、王国に対して反乱を起こしているらしい。ネフィアニルという名の街が、どういう経緯でそうなったのか。
反乱を起こしたこの街の市民に雇われることになった経緯について、ジョゼットが酒を片手に飲み食いしながら詳しく説明してくれた。
王国は今、長い歴史の中でも最大級だと言われるぐらい国内に生息している魔物の数が増加していた。多くの人たちが苦慮して、魔物の数を減らすために討伐しようと全国から戦力になる者達が集められた。
数多くの戦士が王国のために駆り出され、魔物根絶を目指して各地で魔物の討伐が行われた。
ここネフィアニルには、近くにリスドラの森という場所がある。僕が、処刑の為に送り込まれそうになった場所であり、アディと出会った森の名前だ。
その森には、すごく強力な魔物が住み着いていると言われていて、他にも数多くの魔物の巣がある。魔物を森から逃げ出して王国に被害が出ないように、討伐や監視をする必要があった。
仕事を求めた力自慢の戦士たちが集まって出来上がったというのが、ネフィアニルという街の成り立ちだと言われているそうだ。
つまりネフィアニルに住む人たちは、昔から森に住む魔物と何度も戦闘を繰り返し行ってきた、そんな実践を経験している戦士が多く住む街として有名だという。
そのため、今回の王国に異常増殖した魔物討伐にもネフィアニルの住人が最前線で活躍できる人材として期待され、王国から直々に呼び出しを受けた。依頼を受けて、国内にいる魔物を次々と駆除していった。
ネフィアニルの戦士は、魔物討伐に貢献してきた。だが、それでも国内にいる魔物の数は減らず。むしろ、魔物の数は増えていった。
大災害ともいえる魔物増加現象の解決に目処が立たず、人も資金も減っていく一方だった。そんな国中が四苦八苦している最中に、王国から魔物を討伐するためという名目で支給されていた筈の資金が、ある貴族の手によって中抜きされている事が発覚した。
魔物の討伐を請け負う戦士たちに、最低限の報酬しか行き渡っていないということが判明した。本来の受け取るべき人の報酬が、貴族の手の中に。
しかも貴族の不正が発覚したのに、この国の王様は悪事を働いた貴族に罰を与えずに、少額の罰金を科しただけで適当に済ませて、事件を終わらせようとした。
そんな王様の対応に激怒した市民たち。本来、払われるはずだった報酬についても結局は支払われず、貴族の処罰も非常に甘いもの。
その結果、ネフィアニルに住む戦士たちによる反乱が起こった。というような経緯らしい。
「その反乱が起こる直前に、私達が街に来たから戦力として雇われたってわけだ」
ジョゼットの説明を聞いて、なるほどと納得する。それで今に至る、ということがよく理解できた。
「昨日は、この街で起こった反乱を鎮圧するために王国軍がやって来たな。けれど、歯ごたえがないほど弱かったぞ」
ジョゼットが、ため息混じりに残念そうな表情で言う。門の外に積み重なった死体は、王国軍の兵士だったらしい。
昨日に起こったという戦闘で、目の前の女性たちが作り出した光景……。
「私たちの予定では、この街で傭兵の仕事をこなしつつアディを探す予定だったんだけれど、すぐ目の前に現れたから探す手間が省けてよかったよ」
ため息の表情を一転させて、嬉しそうにアディとの再会を喜んでいるジョゼット。そう言って嬉しさを表すように、ジョッキを掲げる。
「めでたい事だ、乾杯!」
酒好きのニアミッラが、ジョゼットの掲げているジョッキに乾杯とぶつけて、酒の一気飲みをしている。
そういう事が、知らない間に起こっていたのか。世間の大きな変化に驚いていた。まぁ僕なんかは、ほとんど監禁生活で世間の事なんて知らないか。
「アディと合流できたんなら、もう私たちの国に戻ってもいいかもな。ソレが使えるんだったら、わざわざ魔物との戦いを求めて遠出をする必要もないでしょ」
ソレと僕を指さしてくるジョゼット。どうやら、彼女たちは自分たちの国に帰る、という計画を立て始める。自分たちの国とは、一体。
「えぇ、せっかく遠出してきたのに、もう帰るのか? もっと遊びたいな」
ぶうぶうと、文句を言うのはミリアンダ。
「あの子が居たら、あっちでも魔物と戦えるでしょ。王国に留まってたら、なんだか面倒なことに巻き込まれそうだし。それに人間の相手するよりも、魔物と戦ったほうが楽しいでしょう」
「それもそうねぇ」
不満を言うミリアンダをやんわりと、たしなめるようにジョゼットが説得する。
「というか、王国の魔物が増えた現象ってその子の能力のせいじゃないの?」
突然、ずっと眠っていたと思っていた銀髪の女性が起き上がった瞬間、ジョゼットたちの会話に割り込んできた。あまりにも自然に会話に入ってきて、内容もちゃんと理解しているようだし、もしかして彼女は寝たふりをしていたのかと僕は疑う。
そして、彼女の指摘に僕は動揺する。魔物寄せの効果によって、王国のバランスが崩れる事態を巻き起こしているなんて。つまり、いまの状況は僕のせい……?
いや、そんな筈はないだろう。たった1人の人間でしかない僕のスキルが、そんな広範囲に効果を発揮するとは思えない。多少の影響はあるかもしれないが。だから、僕は考えないようにする。
「じゃあ、その子を連れて帰ったら私たちの国にも魔物がいっぱい!?」
「そりゃあ、良いね。試してみる価値がある。早速、明日にでも国に戻ってみよう。それで役に立てば万々歳だな」
高身長のドリィと背の低いジョゼットの二人に挟まれて、逃げられないように頭と身体を掴まれる。逃げるつもりもないけれど。
というか、彼女たちは僕を男性だとは見ていないのだろうな。際どくて、近すぎる接触が多すぎる。
「それじゃあ早速、帰る支度をしないとね」
話している間に、酒も料理も十分に堪能したのだろう、ジョゼットたちは満足して椅子から立ち上がって、思い思いに店から出ようとする。
しかし、その動きを呼び止める女性が1人。
「待って下さい、アディさんと仲間の皆さん!」
店から出ようとしていたジョゼットたちを呼び止めたのは、一緒に街へと来ていた聖女様の声だった。
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