第16話 圧倒的
再び、森の中に戻ってきた僕たち。聖女様たちと進んできた道を今度は、アディの仲間である美女達に代わって戻ってくることになった。
今の彼女たちが、これから向かうという目的地は、森を抜けた先にあるのだそう。そこに王国の国境があって、さらに真っすぐ進んでいった先にあるのが、彼女たちが居住している土地だという。
森の中を進んでいる道中、僕の持つ魔物寄せスキルも絶賛効果を発揮中らしくて、森のあちこちからドンドンと魔物が集まってきていた。
ただ、集まってきた魔物を見て楽しそうに笑って迎えているのが彼女たちだった。
「こりゃ、凄いなぁ!」
ジョゼットは喜びの声を上げ、目を輝かせている。集まってきた魔物の群れを目の前にして、笑顔を浮かべていた。嬉々として、魔物の集団に今すぐにでも飛び込んでいきそうな勢いがあった。
「お先に」
「あ、ズルい!」
仲間の1人、ドリィがそれだけ言い残して、真っ先に魔物の群れに向かって突撃をしに行った。
仲間の中でも一番、身長が高そうに見える彼女は、その巨体に見合わぬスピードで魔物の群れに突っ込んでいった。そのスピードの勢いを生かしたままにして、魔物に向かって躊躇いなくロングソードを突き刺していく。
ものの数秒で、全身が返り血で真っ赤になった。
ドリィの進む道の先で立ちふさがっていた魔物が、あちこちに吹き飛んでいった。まるで、ダイナマイトが爆発したみたいにブワッと膨らむようにして方方に散るようにして。
「抜け駆けはズルいぜ、ドリィ! 私も行こうっと」
元気いっぱいなミリアリダが、上半身を隠すぐらいに大きな斧を肩に担いで歩きながらドリィの後について、余裕綽々と魔物に近づいていく。
彼女の持つ斧は見た目の通りの、とんでもない重量なのだろう。担ぎ上げた瞬間に、彼女の露出した背筋が隆起したのがハッキリと目に見えた。先ほどまで胸を露出していた女性と同一人物だとは思えない、凛々しさを感じる。
力任せに、ブンブンと斧を振り回していくミリアリダ。竜巻が起きたような風の音が、少し離れている僕の耳にも聞こえてきた。あの斧が掠めただけでもひとたまりもない、という感じだった。
「ニア、これ守ってて」
「分かったよ。任せて、アディ」
アディがニアミッラに僕を差し出す。そして、守るようにお願いしてくれていた。
酒場では、浴びるように酒を飲んでいたはずのニアミッラは、お酒の匂いは体から漂わせつつ受け答えはちゃんとしている。意識もしっかりとしているのだろう、頼りになるような答えをアディに返す。
「大丈夫だから、じっとしててね」
「はい、えっと、お願いします」
アディと代わって、ニアミッラに抱きしめられるような体勢で守られながら耳元で囁かれる。アディに抱かれている時とは別の安心感があった。ただ残念なのは、酒のニオイを漂わせていることだけ。
魔物の群れを前にしても、何故か心が落ち着いていられる自分。
「ふぅ、疲れた」
セレストは小声で呟きながら、気怠げに戦闘の状況を眺めている。彼女は、他の皆とは違って戦闘に積極的ではないのかな。
アディから聞いた話によれば、彼女は物知りで頭も良いらしい。それで頭脳担当と呼ばれているらしい。
「ドリィ、ミリア! 逃げ出している魔物はしっかりと止めを刺しなさいよ。アディ、そっちの魔物をお願い。ニア、その子が怪我しないように注意して。セレスト、休んでないでちょっとは参加しな」
ジョゼットが拳を武器にして魔物に殴り掛かるという、すごく原始的な戦闘を続けながら各々に指示を出していく。
彼女たちにとってリーダー的存在なのは、やはりジョゼットなのだろう。
アディ1人の時でも敵無しだったのに、彼女たちが集まれば魔物が可愛そうだとも思えるぐらいに圧倒的だった。
次々と魔物が駆逐されていく様子を眺める。数分も経たないうちに、魔物の死体の山が築かれて、魔物の姿も見えなくなった。
「凄いね。本当に、魔物寄せのスキルで集まってきたみたいだ」
「アディ、いい拾い物をしたねッ!」
「ホントホント、この子は是非私達の国に持って帰ろう」
前線で戦っていた、ジョゼットにドリィ、そしてミリアリダが戦闘を終えて戻って来ながら僕のスキルについて絶賛している。
「これはあたしのだからね。それは忘れないように」
アディが「ありがとう」とニアミッラにお礼を言いながら、僕の体を受け取った。離さないようにと、僕は強く抱きしめながら皆に見せつけるように宣言する。これは自分のモノだということをアピールしているようだ。
「いや、アンタから取りはしないよ。安心しな。そんなことより、森のなかに魔物がこれほど大量に潜んでいたとはね」
「私も昨日、いっぱい倒したけど王国ではホントに魔物の数が増えたみたい」
ジョゼットが戦えたことに満足した表情を浮かべながら、答える。確かに、周りにある魔物の死体に目を向けてみると、僕の想定していた以上の数だった。
アディも同意見なのだろう、ちょっと前にあった森での出来事について皆に伝えて満足そうだった。
会話を交わしていた時に、体が震えているかのような感覚に気がついた。
いや、これは地面が揺れているのか?
次第に森の中で聞こえてくる、木々がざわめくような音が大きくなっていく。風に吹かれて出ている音じゃない、別の原因によって起こっている音だと分かる。
時間が過ぎると共に、ドンドンと大きく聞こえる。
「なんだ?」
「何か近づいてくる」
ドリィも異変に気がついて辺りを見回していると、アディは音の原因に気がついたのか、ある方向に目を向けて視線を固定した。
「アディ、あっちか?」
「うん。デカイよ」
ジョゼットの問いかけに、アディは頷いて肯定する。次にドシン、ドシンと大きな足音が聞こえてきた。
「うわっ、デケェ!」
ミリアリダが何かを見て叫ぶ。
みんなが同じ方向へ視線を向けると森の奥、木の上に大きな顔が現れた。今までと比べて一味違う、巨大な魔物が森の奥から現れたようだった。
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