第22話 スキルの影響
僕がアマゾン国にやって来たことによって、この国は賑わいを見せていた。というのも、しっかりと僕の持つ魔物寄せというスキルが発動したことにより、アディたちの思惑通りに魔物がこのアマゾン国のある森を目指して殺到していたから。
ここに住む女性たちは誰もが、とにかく戦闘が大好きだ。魔物がどんどん集まってきたとしても大歓迎。
自分が住む場所なのに魔物が引き寄せられ集まってきたとしても嬉しそうな笑顔を浮かべて、武器を手に持ち襲い来る魔物に向かって戦いを挑みに行く。
僕の持っている魔物寄せのスキルは、以前まで忌み嫌われて存在を消されて、監禁までされるほどだった。なのに、この場所ではありがたがられている。
場所や人が違えばこんなにも対応が変わるのか、と僕は思った。
そして、もしかしたら僕はこのアマゾン国にやって来る為に生まれてきたのだろうかと思えるような状況だった。
「おかえり、アディ」
「お迎えご苦労。いやー、今日も大漁だったよ」
アディが街から狩りに出て、森の中で魔物と戦いを繰り広げている間。僕は彼女のように戦うことは出来ない。なので、アディが魔物討伐に行っている間はアディの家の中で静かにお留守番だった。
そして彼女が帰ってくる時間に合わせて、僕は外に出迎えに行っている。アディが無事に帰ってくるのを待っていた。
アディはいつも嬉しそうに満足したという表情、大量の魔物を倒して獲得した肉や素材をたんまりと持ち帰ってくるのが日常だった。
アディの他に、魔物との戦いに赴き戦利品を持ち帰って来る女性たちも多く居た。そんな狩りの成果を彼女たちは、街に戻ってきてすぐ地面に並べると誰のモノが一番大きいのか比べ合っていた。
「ほら、しっぽを伸ばしたらコレが一番大きいわ」
「ちょっと待って、固まった手と足の筋肉を伸ばしたら私のほうがデカイかも」
「私が狩ったコレが見てよ! ひと目で分かるぐらいにデカイでしょう。しかも他のに比べてコレは珍しいから、私の勝ち」
各々が狩ってきた得物の大きさや個体の珍しさなどを主張して、誰が一番かを競い合っていた。
彼女は大きさをコレでもかと自慢し合っているが、僕にはどれもが恐ろしいほどにデカく見える。一番小さな物でも僕の身体と比べてサイズは倍ぐらいだろうか、それ以上あるかもしれない。
あれが生きて動いてるとしたら、人間の力で倒すことが本当に可能な魔物なのかと僕は疑った。しかし、実際に死体を持ち帰っているのだから本当なのだろうと信じるしか無く、驚くばかりだ。
長い話し合いの結果、今日一番の成果が決まった。ドラゴンのような見た目をした大きな翼と、鉄のような暗い青緑色をしている鱗に覆われた体を持つ魔物。サイズも家一軒分ぐらいは有るだろうか、かなりデカイ。
「ほう、アースリザードか。あれは、なかなか良い獲物を狩ったな」
その魔物は、アディが唸るほどの代物らしい。傍らで、僕と一緒に獲物を比較する様子を眺めていたアディは、羨ましそうに彼女たちの今日一番と言える得物に視線を向けていた。
アマゾン国では戦闘力が高ければ高いほど、国の中での影響力が高くなるらしい。つまり、強いやつが偉いという理論ということ。
アディは、地位的に言えば結構上位に位置する人物だという。出会った頃に、森を進む道中で見せられた戦闘力、旅の間に彼女の強さを生で目にしている僕にとっては納得できることだった。
一緒に旅をしていたジョゼットたちや、他の皆も上位の地位に位置している。国の中では偉いと言われるような人物の集団だったらしい。
というのも、アマゾン国から外へ遠征に行く許可が下るのは、戦闘力が一定の水準以上に達している者達だけ。国に認められている、選ばれた少数の人間しか国の外へ遠征に出かけることは許されていないそうだ。
遠征に出ていたジョゼットたちは、水準をクリアして外へと出かけることが出来るぐらいの戦闘力を有していた、という訳だ。
このアマゾン国の最上位者であるニト王からも名前で覚えられていたジョゼット。そんな偉い人に名前を覚えられていたという事実からも、ジョゼットの地位の高さが分かるだろう。
***
ニト王と言えば、僕の魔物寄せの効力が発揮してアマゾン国に魔物が殺到して来た時に、直々にお礼を言われるという出来事があった。
「まさか、本当にスキルによって魔物がこの国にやって来るとはな」
両手を前で組み僕を見下ろしながら、しみじみとした口調で噛みしめるように言うニト王。
「以前、我々が森の中に生息していた魔物を狩り尽くしてしまって、それから魔物は寄せ付かなくなったから、わざわざ遠征に行かせる必要があったというのに」
だから、アディ達は遠征という旅をしていたのかと知る。話を続けるニト王の言葉を、僕は静かに聞き続けた。
「これからは戦士達を、わざわざ国の外へ行かせる必要も無くなった。ありがとう、確かノアという名前だったか。覚えておこう」
「光栄です、ニト王」
そう言って、アマゾン国の王である彼女から直々に感謝の言葉を伝えられた。
ニト王には名前まで覚えられたらしい。ありがたいことだけれども、女王に名前を覚えられたという事実は、なかなかに重そうだった。プレッシャーを感じる。
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