第23話 役立ちたい
僕の持つ魔物寄せのスキルは戦闘民族である彼女たちから評価され、感謝された。そのおかげか、僕はアマゾン国で快適な生活を送ることが出来ていた。
けれども、あまりに快適すぎる今の環境に落ち着かない気持ちになっていた。魔物寄せというスキルが役立っていると言われても、家で待っているだけの僕には実感が薄くて段々と、いつ、このような状況が終わってしまうのだろうか、と考え込み恐怖を感じてしまうぐらいだった。
もしも、魔物寄せのスキルが効果を失ってしまったなら。もしかしたら彼女たちが心変わりして、今まで感謝されていたこのスキルも、いつか厄介だと思われてしまう時期が来るかもしれない。
そう考え、別の方法で自分が役立つ人材だと示さないといけないと僕は思うようになっていた。
僕は、自分のスキルをデメリットだと思っていたから。いくら周りから評価されても信じることが出来なかった。だから僕は。
「アディ、相談があるんだ」
「うん? どうした?」
アディと2人きりで夕食をとっている最中、僕は思い切って彼女に尋ねてみることにした。自分に何か出来ることはないか、と。
「何か、僕に出来るような仕事をくれないかな」
「ノアはそのままで良いんだよ。家でゆっくりとしてな」
相談して聞いてみれば、彼女の答えはそんなものだった。今のままでも魔物寄せのスキルが皆のために十分、役に立っているから。
何もしなくて大丈夫なんだと、アディから諭されてしまう。だが僕は、何か他の事で役に立ちたかった。役に立っているという実感が無いと、危機感を抱いてしまう。
ただ居るだけで発動するなんてスキルだけでは無く、自分の手で何か手伝える仕事がないだろうか考える。
この国で評価される方法と言えば、やはり戦闘力だろう。そして僕は思い出した。勇者というスキルを、あの死にかけていた時に得た能力について。
旅の間は落ち着いて考える時間がなかったから、今まで忘れていた。けれど確かに僕は、勇者なんて言うスキルを取得していたはず。
なにか戦闘に関するスキルじゃないだろうかと思い、アディが外へ狩りに出かけている間、1人になった時に調べてみる事にした。
そして、自分ひとりで出来るところまでやってみる。そうしてから、アディにもう一度相談してみようと僕は考えていた。
まず、家の中に置かれてホコリを被っていたアディが使っていない剣を借りてきて振ってみる。ずっと昔に剣術を習ったが、もう忘れてしまった。ちょっと前に、街にある門前で自衛のために剣を持った時もあったが、結局は使わなかった。
だから僕は、ほぼ初心者の剣士だ。
旅の間に見た、アディが大剣を振るっていた様子を思い出す。他にも、ジョゼットやドリィ、みんなが魔物と戦っていた場面を思い返して、自分なりのイメージで実践してみる。
ブォンと、振った剣が風をきる音が聞こえてきた。その成果に、僕も驚いていた。思った以上に、上手に剣を振れている気がする。
「これは、意外といけるんじゃないだろうか?」
素人である僕でもそうだと思えるぐらいに、剣がイメージした通りに振れていた。縦に横にと、縦横無尽に剣を振ってみる。
剣を振り続けみると、なかなか腕が辛くなってくる。最初は楽勝だと考えていたけれど、段々と疲れていくごとに剣が重くなっているように感じた。
アディが森へ魔物を狩りに外へ行っている間に、彼女が帰ってくるまでずっと剣を振る。
疲れが溜まって動けなるぐらいまで僕は、必死になって剣を振り続け、剣に慣れ、身体を鍛えていく。
どんどん止まることなく剣を振り続けて、目標ではアディやジョゼット、他の旅を一緒にした彼女たちに混じって戦闘が出来るぐらいまで自分を鍛えるつもりだった。
***
一ヶ月も続けていると、剣を振るのに体力がついてきた。独学だが、なかなか良い感じだと自己を評価をする。
勇者というスキルのおかげなのだろう、成長していくスピードも早かった。一ヶ月程度でも、かなりの成長を遂げていると自分ではそう感じていた。1人きりで修行を続けてきたので比較する対象がなく、どれぐらい戦闘能力が高まったのか分からないが。
ただ、一ヶ月前には比べ物にならないぐらいには成長しているだろう。
今まで隠していたアディにも、相談するべき時がようやく来たのだと悟った僕は、修行の成果を打ち明けることにした。
「アディ。実は、君が外へ魔物を狩りに行っている間に、僕もちょっと鍛えてみた。今の実力を、見てくれないかな?」
「ん? そう言えば、最近、体が良い感じに変わってきてたな。なるほどな、鍛えていたのか」
アディに修行について告白すると、体をがっしり触られた。修業によって鍛えられた体つきを、触って確かめられる。と言うか、打ち明ける前に既に、僕の体の変化に彼女は気付いていたようだ。
「よし、分かった、見てみよう」
アディはそう言って、僕を外へと連れ出した。早速、修行の成果を見てもらえるらしい。僕はウキウキとした気分で、アディの後をついて行った。
「使う武器は、剣か?」
「うん、家にあるのを貸してもらって振っていたんだ」
「そうか、ではノアのチカラを見せてみろ」
「こう?」
最初からアディを驚かせるつもりで、不意打ちを狙い思いっきり剣を振ってみた。上段の構えから、一気に下段へ振り下ろす。なかなかの剣速だろう。
「おおっ!」
アディの反応は良さそうだった。僕の狙った通りに驚いてくれたようだし、彼女に評価されたことは、この一ヶ月の頑張りが報われたと思えるような瞬間だった。
「なかなか良いじゃないか。それじゃあ戦ってみよう」
「え!?」
そう言って武器を持つアディ。刃物の刃が欠けてボロボロになっている、切れない大剣。
まさか、こんなにすぐに対人戦をすることになるとは思っていなかったので、僕は驚く。というかアディは、本気で戦うつもりなのか。
「さぁ、構えな」
「う、え。ちょっと」
「待ったなし。さあ、いくぞ」
そのまま、突っ込んでくるアディに向かって僕は防御するために剣を構える。そのまま突っ立ったままだと、本当に危ないと感じたから。そして、その予想した通りにアディは容赦なく大剣を振り切った。
「うっ!」
鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。僕は何とか目の前で剣を構えて防御、彼女の攻撃をギリギリで受け止めることが出来た。一撃で、腕が痺れるほどの衝撃を受ける。
剣を落としてしまいそうになるが、踏ん張る。瀬戸際だった。
「よし、ちゃんと守ったな。次はどうだ?」
容赦なく、続けて大剣を振るうアディ。大剣が振るわれるスピードは、僕の目でも遅く見切ることは出来るが、パワーがとんでもない彼女の攻撃に対応するのがやっとの僕は、防戦一方。
ただ防御を続けているだけ。彼女は、嬉しそうな笑顔を浮かべて情け無用に大剣を振るっていた。
「それじゃあ、最後にコレはどうだ?」
「やっと最後ッ……」
どれぐらいの時間が経ったのか分からないぐらいの一時、僕はアディからの攻撃を捌いて自分を守り続けられていた。最後という言葉を耳にした瞬間、ようやく終わりかと安堵する。ソレがダメだった。
「あっ、ヤバ」
「きゅう……」
アディの声が聞こえた瞬間、腕と頭に大きな衝撃があった。
痛みを感じる間もなく、気が付いたら目の前が真っ暗になっていた。僕は、アディから繰り出された最後の攻撃を受けきれず、武器ごと押し切られた攻撃が頭に当たり気絶したのだった。
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