第24話 役立たず?
「頭がズキズキする」
「ご、ごめん……。ノア」
目が覚めた時に、うろたえた様子のアディが僕の顔を覗き込んでいるのが見えた。一瞬、何事かと記憶が曖昧になっていていた僕も慌てたが、頭に痛みを感じて直前の出来事を思い出した。
そうだった、アディの攻撃を受けきれなくて僕は頭に強烈な一撃食らってしまったのだ。まだ記憶が曖昧で、防御しきれないと気が付いた瞬間からの意識も無くなっているみたいだ。あの後、どうなったのか。
「そうか、僕は負けちゃったのか」
「いいや、凄く強くなってたよ! 最後は、失敗したけれど。でも全然すごかった」
アワアワと慌てながら、慰めるようにそう言ってくれるアディ。でも結局は最後の一撃を食らって気絶してしまったのは事実。口には出さないけれど、僕はそう思っていた。
これでは戦闘力があると示して、役立つ人材だとは主張できない。ただ足手まといだと思われるだけだろう。
けれども、一ヶ月程度の期間をひとりきりで修行してきた成果と考えれば、上出来なのかもしれない。勇者というスキルの効果もあって、アディの攻撃を何度も防御を出来たのは大きいと思う。
そんなネガティブな思いと、ポジティブな考えが交互に頭に浮かぶ。
「本当にごめんなさい、ノア。ちゃんと治療はしたけれど、傷は痛む? お腹は空いてない? 大丈夫? 何か食べる?」
「えーっと、うん。今は大丈夫だよ。ありがとうアディ」
本気で謝って、甲斐甲斐しく世話をしてくれようとするアディ。彼女は、僕が想像以上に出来るようになっていて、攻撃をしても一撃も喰らわずに防御を続けたので、最後の方は手加減を忘れて楽しむように戦いを楽しんでいた。
そんな時に、最後の最後で僕が気を抜いて、しくじってしまった。攻撃が当たってしまったのだ。
熱中していたアディは、寸止めをする暇も無く最後は振り切ってしまった。最後の一撃は、気を抜いてしまったことで招いた結果なのだと僕は考える。
だから、アディのせいではない。大丈夫だと、答えるとアディは今にも泣きそうになっていた。しばらく一緒に過ごしてきたのに、初めて見るような表情だった。
申し訳なく思っている様子の彼女を、なんとか言って落ち着かせる。
ひとまず一旦、アディには落ち着いてもらう為に話題を変えようと思って、彼女に提案する。
「とりあえず、今日はもう家に帰ろうよ」
「そうね、帰ろうか」
街にある病院。普段は、狩りへ出て負傷して帰ってきた女性たちを回復するための施設に僕もお世話になっていたらしい。まだ頭は痛むが、自分で歩けるので帰宅するこちになった。
病院の外に出ると、辺りはだいぶ暗くなってきている。どれぐらいの間、僕は気絶していたのか分からないけれど、かなりの時間が経過していたのだろう。
「お腹は空いてない?」
「うん。ちょっと空いてるかも」
アディが何度も僕のお腹の具合を確認してきたから、彼女もだいぶ腹ペコ状態なのだろうと予想する。僕も腹が減っていたので、正直に答える。
急いで家に帰って、僕たちは食事を取る必要があった。
僕とアディは、2人並んで家路についた。ションボリしているアディを慰めつつ、あれは僕の不注意が招いたことでアディのせいでは無かったと僕は何度でも訴える。
もちろん、急に戦いを挑まれ事にはびっくりしていたし、力の強いアディが手加減を忘れて熱中した事も危なくてダメだったけれど。
そんな帰りの道中で、落ち込むアディに声を掛けている最中で僕は気が付いた。
いつの間にやら新しい能力が発現している、という事に。ふと気が付いた時には、もう既に事が起こった後だった。
”アイテムボックス”という名前のスキルが、僕の中に新しいスキルとして存在している事。
どうやら、この能力は名前の通りアイテムをしまって置ける空間ボックスを持てるという事らしい。そのアイテムボックスの中に物をしまって置けば、いつでも自由に物を取り出せるスグレモノでもあるらしい。
どのタイミングで僕は取得したのだろうか。このスキルは、どんな条件で発現したのだろうか。謎だった。
思い当たる原因と言えば、アディの攻撃を受けて気絶した時。その瞬間に、新しいスキルが出現したのではないかと、僕は予想する。でもなぜ、アイテムボックスなんだろうか。
今までスキルが発現した瞬間を振り返ってみると、1つ目の魔物寄せというスキルというのは生まれた時から持っていた。
2つ目の勇者というスキルを手に入れたのは、僕が死の間際に居た時だった。
そして、3つ目にはよく分からない大食いというスキルを手に入れた。その時には死にかけだった僕に追い打ちをかけるように、アディの手で食料を口に詰め込まれて窒息死しそうな時だった。
4つ目のアイテムボックスを手に入れることができたのは、アディの攻撃を受けて気絶した瞬間だと思う。
という事は僕が新しい能力を発現させる条件は、もしかすると生死に関する出来事が起きた瞬間なのか。
今まで全て、僕が死にかけるような目にあった時に新しいスキルを取得できている気がする。あるいは、気のせいかもしれないけれど。
ただ、その僕の頭に思い浮かんだ考えが当たっているのかどうか確かめるために、わざわざ死にかけるような、そんな無茶な事をする気にはならない。間違っていたら苦しむだけだから、スキル取得条件について今の所は考えを保留にしておく。
とりあえず今回の結果、戦闘能力ではアディ達に役立つ人材であることは示するは出来ない事が分かった。
もしかしたら、もうしばらく長いこと掛けて修行を続けたとしてたらアディにも、役立つ人材だと認められる程度の力を手に入れることは可能かもしれないが、道程は長いだろう。
戦闘能力で役立つ人材を示すことは難しいと判断した僕は一旦、力を示して認めてもらうという方法は諦める。
そして、ちょうど良かったと言うべきか、アイテムボックスという新しいスキルを発現した事によってコレを役立てないだろうかと、新しく発現したスキルで皆の役に立てる方法が無いかどうか、別のアプローチで探してみることにした。
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