第28話 仕事の日々
前々からずっと僕は、少しでもアマゾン国の人々、特にアディ達の役に立ちたいと考えていた。そんな僕の考えをジョゼットに相談してみると、彼女から仕事の手伝いを任されることになった。今では、セレストの仕事部屋に通う日々が続いている。
僕の仕事内容とは、セレストの書類処理を手伝うこと。彼女が処理する書類、主にアマゾン国の食料関係や経済に関する事柄を管理するために記録しておく書類を作成したり、過去に作成された書類を確認して整理したりする事務仕事だった。
食料ついて、いまアマゾン国にどれ位の食料が蓄えられているのか。毎日どれ位の収穫が出来ているか、消費されているか。外から購入をしいないといけない食料が、どれ位の量あるのか、必要な購入費用はどのくらいなのか。色々な事を、しっかりと把握できるように書類にまとめる。
経済については、アマゾン国のお金の動きが分かるようにする資料作成だ。収入と収支について、国庫の状況を記録しているような書類。
どちらも、僕のような外部から来た人間が目にしても良いのだろうか。心配になるほど、重要な情報が記載された書類に触れている。
これは僕が目にしても、本当に大丈夫なのだろうか。一応、念の為にもセレストに聞いてみたところ、気にしないでいいという返事。
「それだけ、今の仕事を任せられる人材が他に居ないのよね。だから辞めないでね」
「はい、頑張ります」
幸いなことに、監禁されるよりも前の過去に少しだけ貴族として教育を受けていた頃の経験があって、その時に学んだ知識が今になって役立っていた。
僕は即戦力として頼られることになり、今やっている書類作成もセレストの補助をしつつ、順調に上手く対処することが出来ていた。セレストからも、助かっていると涙を流して感謝されるぐらい、うまくやれている。本当に大変だったようだ。
「今まで、ずっとずっとずーっと、私以外にやろうとする人が居なかったからねぇ。まさか君のような役立つ人間が助っ人に来てくれるなんて。心の底から助かったよ、って私は思ってる。ありがとう」
「セレストの助けになって、本当によかった」
セレストからの感謝の言葉を聞いた僕は、役立っているという感覚を味わえて満足だった。こうして、僕の役立ちたいという感情は一旦落ち着きを見せることになる。
そもそも、魔物寄せというスキルによる感謝はされていたけれど、やはり働いて、実感出来ないと役立っているとは僕には思えなかった。それが、今では仕事を任されたから実感して味わえているので、大満足していた。
***
仕事をこなして慣れてくると、作業する速さもどんどん上がっていった。更に僕は頼られ、処理する書類の量も増えていった。国の運営に、大きく関わるようになっていく。
ある時、気になる点を発見した。それは、アマゾン国が行っている取引について。僕は口出しをするべきかどうか少し迷ったけれど、仕事に慣れてきた自信もあって、セレストに問いかけてみることにした。
「セレスト、質問したいことが」
「んー? どうしたの」
毎日のように、僕とセレストは部屋の中に二人っきりになって協力して仕事をしていたので、だいぶ仲も良くなってきているように思えた。
それもあって僕は、セレストに気兼ねなく仕事に関する事についてを、聞いてみるということも出来ていた。
僕が疑問に思った点というのは、アマゾン国が取引している商人との素材の売値について。記録されている値段が、売り渡している素材の量に対して、受け取っている金額が異様に少ないと思える。
受け取る金額に対して、山になるような量の素材が取引されていた。素材の適正な価格を知っている訳ではないが、どう考えても安いんじゃないかと思えるような金額だった。
そんな部分を僕は指摘して、どういう事だろうか聞いてみた。もしかすると、何か特別な契約によってそうなっているのか、という可能性を考えて。
「あぁ、これね」
だがしかし、セレストの説明を聞いてみると、どうやらこの金額は商人が設定したという。運搬費と素材の品質が低いという理由で、買い叩かれていた結果だった。
「品質が低い? それに、運搬費?」
品質については、まぁ、アマゾネス達が狩った魔物の死体を持ち帰る時にあまりに気にしないので、傷つけてしまって価値が落ちていると言うことなら納得ができる。
だがしかし運搬費なんて、買い取りに来た商人が担うべきだろう。それを値引きの理由にされる考えが理解できなかった。
「それにしても、この金額はあまりにも低すぎると思う」
「そうかな、考えたことがなかった」
どうやら、あまり気にしていなかった部分を僕は指摘したようだった。セレストも今まで気にしていなかったらしい。彼女たちは普段、あまり金銭には執着していないようだったから仕方のないことかもしれない。
僕が、この取引は損をしているかもしれないという事を伝えてみて初めて、真相が明らかになった。
セレストの考えは一転して、彼女は商人に負けるのは気に食わないと感じたよう。取引内容を見直すことにしたようだった。
「ちょっと調べてみようか」
「手伝います」
セレストは、やる気になり他の街での取引価格がどれくらいか調べることにした。今まで、どのくらい商人から買い叩かれているのかも詳しく調査する。そして価格をどのぐらい修正するべきなのか、見積もりを出す。商人と交渉するための、判断材料となる情報を調査する。
それに今は、アマゾン国を目指して集まって来る魔物の数も増えてきている。
つまり、狩って持ち帰ってくる死体の量も多くなって得られる素材も増えてきた。だから、今のうちに一度売値の見直しも必要じゃないだろうか、という僕の考えを、セレストは理解してくれた。
さっそく他の街ではどうか、市場調査のために他の街ではどのぐらいの値段で売買されているのか、誰かに調査しに行ってもらうようだった。
その間に、僕は魔物素材のクオリティを損なわないように、狩って持ち帰ってくる魔物の取り扱いについて丁寧にするように皆に周知したりすることにした。
取引相手の商人が、値下げ材料として指摘してきた問題点を解決しておく。これで値下げ交渉は出来ないようにしておく。
もう一つ、僕のスキルであるアイテムボックスという能力も、思い切って駆使することにした。
僕も一緒に狩りについていって、魔物を回収する手伝いをする。アイテムボックスの中に収納してしまえば、素材を腐らせたりせずに、品質が落ちないようにしてから持って帰れるから。
これで、商人との値段交渉の事前準備は完璧だった。
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