第29話 回収仕事

 調査して判明したのは、今までのとんでもない低価格で取引していたらしいこと。魔物素材の取引については、もっと価格を引き上げてもらうように商人と交渉をすることに決めたセレストは、次の交渉のための手札として用意しようと動いた。


 これからは適正な価格で取引できるように交渉するため、事前に準備を進める。


 そのために僕は今日、アディたちの狩りに同行する。魔物狩りに一緒に行き、彼女が倒した魔物の死体を丁寧に回収していく、というような役割を務める。


 ちょうどいいと言うべきなのか、新しく身につけたスキルであるアイテムボックスという能力が、今回の魔物素材回収という作業に活用できるから。


 アディが魔物を倒して、戦闘が終わったら僕が倒した魔物を次々と回収していく。ただ絶命している魔物の体に手をサッと触れて、アイテムボックスに収納するというイメージをするだけで作業は終わり。後は、街へと戻るだけで素材を持って帰ることが出来るという簡単な仕事だった。


 この回収方法は、特にデメリットも無い。強いて言うならば、回収するのには必ず僕が手で直接触れる必要があり、取り出すのにも僕を通してじゃないと無理という。それぐらいだった。


 それに比べると、メリットが沢山ある。まずは、アイテムボックスにいくら魔物の死体を収納したとしても、僕は荷物の重さを感じることはない。楽々と、アディたちの狩りに同行することができる。


 アディたちが荷物を運ぶ必要もなくなるので、戦いの最中に動きが阻害されることもない。


 それから、アイテムボックスの中に入れておけば、死体は腐らない。入れた瞬間と同じ状態で取り出せる。つまり素材も劣化しないということで、商品としての価値も上がるだろう。


「終わったぞ、ノア! 回収を頼む」

「了解」


 魔物との戦いが終わって静かになった所で、アディに呼び出されて僕は彼女に駆け寄る。そして、まだ温かさの残っている魔物の死体を次々に触れていき、商品となるそれらを回収していく。


 全て触り終えるのに1分も必要ないぐらいで、あっという間に僕の作業は終わり。待っていたアディに作業終了を報告する。


「終わったよアディ」

「もう終わったのか。相変わらず仕事が速いな。さぁ、次に行こう」


 アディは、僕が魔物を回収している間は、辺りを警戒してくれていた。僕の仕事は終わったと彼女に伝えると、休むことなく次の獲物を探しに向かう。


 仕事熱心と言うよりも、魔物との戦いを少しでも長い時間楽しみたいという彼女。魔物との戦いを趣味のように楽しんでいる、という感じだった。


 アディたちが先行をして、僕がその後を慎重についていく。


 しばらくの間、鍛えていたおかげだろう、今ではアディが森の中をビュンビュンと速く進んでいくスピードにも、なんとかついて行けている。


「だいぶ体力もついて、あたしたちのスピードについてこれている。森歩きにも慣れてきたな。凄いぞノア」

「うん。ありがとう、アディ」


 彼女に褒められることは純粋に嬉しい。鍛え続けてきた甲斐があったと、報われたと思える瞬間だった。


「それにしても。いやー、楽ちん楽ちん。さすがにアタシでも持ち帰れないぐらいの量なのに、ノアは凄いね」


 今までは、どんなに魔物を倒しても2本の腕で抱えるには限度があった。だから、持ち帰る物を選別しないといけない。いくら魔物を狩ったとしても、全てを街に持ち帰られずに、その場に放置するしか方法は無かった、と悔しそうに語るアディ。今は僕が居てくれることで、助かっていると。


「それにしても、ノアは本当にアマゾン国には必要不可欠な人材になってきたなぁ。前に言ってた、皆の役に立ちたいという気持ち、ちゃんと果たせているじゃないか」

「そうなんだ。僕もようやく、皆の役に立てているって実感できてきたよ」


 魔物寄せというスキル、それからセレストの手伝いとして国の運営にも関わる重要な書類整理、更にはアイテムボックスによる魔物の死体回収と、僕でも出来る仕事が沢山増えてきた。


 その結果が自信となって、ようやく僕は自分でもアディたちの役に立てていると、自信を持って言えるぐらいに実感できていた。


「ん。ノア、ストップ。ちょっと待ってろ」

「分かった」


 会話の途中で、何かに気付いたアディがすぐに僕を止めて、そこから息を潜める。僕も彼女に合わせて身を潜めて辺りの様子を伺う。僕だけその場に留まるように指示されたので、短く小声で返事をして頷く。


 僕はじっとしたまま、アディは音もなく森の中へと進んでいく。彼女の動きに合わせて、他の女性たちも一斉に森の中に忍び込んでいく。


 森の鬱蒼としている木々の間に姿を隠しながら、徐々に進んでいく。皆が一斉に、武器を構えだした。戦闘態勢は魔物を発見した証、次の瞬間には鋭い一撃を繰り出す一歩手前。


 けれど僕の目には、何の変哲もない森の緑しか目に入っていない。まだ魔物がいる場所を把握しきれていない。アディたちには何か見えているのだろうか。彼女たちの視線の先に僕も、目を凝らしてみる。やはり見えない。


「ふっ」


 アディが、息を吐きながら力強く大剣を振るうという攻撃を始めて、僕はようやく魔物がいる場所を把握した。熊のような大きく毛に覆われた魔物。


 アディに反撃しようとするが、アッサリと避けられる。その一瞬でアディに反撃を食らって、魔物が地面に仰向けで倒れ込む。


 戦う音を聞きつけたのか、魔物が森の奥から次々に集まってきてアディたちの周りに殺到した。


 僕は、更に身を屈めて木の陰に隠れて見つからないようにする。そうして、彼女の奮闘ぶりを目にした。バッタバッタと倒されていく魔物の群れ。


「終わったぞ、ノア!」


 しばらく行われた、一方的な魔物狩りも終わると呼び出されて、次は僕の出番。次々に倒された魔物の死体を回収していって、終われば再び森の中を移動していく。


 魔物を探し、アディが発見するとすぐさま倒す。最後に僕が魔物の死体をアイテムボックスの中に回収していく、という順番で次の取引で商品となる素材を集めた。


 一日かけて、とんでもない量の魔物の素材が手に入った。上々の結果だった。

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