第30話 価格と交渉

 セレストの指示で、周辺の街に出向いて素材の値段を調査しに行っていた者たちが情報を持って帰ってきた。各地で集めてきてくれた価格に関する情報を確認しながら僕とセレストの2人は、いつもの仕事部屋で商人との今後の取引についてどうするか話し合っていた。




「なるほど。適正価格は、こんな感じなのね」

「調べてもらったけど、驚くほど違いがあったね」


 セレストは、取引の実態を初めて知った。そして、今まで知らなかったとはいえ、問題を放置してしまっていたことを深く後悔していた。


 実際に足を運んで周辺にある店まで出向いて、調査してもらった情報。調べたからこそ分かった事実。価格について詳細を記録してまとめてある情報を目にして、僕も驚いていた。


 そこに記されている値段と、アマゾン国が今までに取引していたという値段と比較してみると、なんと1000倍ぐらいの違いがあったから。これは、いくらなんでもぼったくりすぎだろう。


 僕が最初に指摘してみたものの、適正価格を知っているわけではなかった。ただ、素材の量に対して受け取る金額が少ないかもしれないと感じる程度の違和感だった。まさかこれほどまで、適正価格と違っているとは予想していなかった。


 ちゃんと調べてみたから判明した、法外な取引内容に驚くばかりだ。


 商人たちは儲けるために必死で商品を仕入れて、客となる人間に価格を提示して、商品を売りつける、というのが彼らの仕事だ。。


 その時に商人としては、仕入れと売値の差額で出来る限り儲けるための価格設定をしている事は理解できる。けれども、これではあまりにも不当な値引きがありすぎるように思えた。


 商売として成り立たせるために、商品となる素材を集める人、仕入れてきて求めるお客の手元まで運び売る人、そして商品を買うお客の3つがあると思う。けれども、今の価格設定のままではアマゾン国が大きな損を請け負っているに過ぎない。商品を買うお客が得をしているというわけでも無いと思う。ただ、中間に入っている行商人が無慈悲に金品を貪るように収入を得ているだけだ。


 いや、もしかしたら行商人は低価格で売っているかもしれないから交渉の必要性があるかも。けれど、今までのように低すぎる値段で売ることは今後無いだろう。


 次からは、集めた情報を元にして設定した適正価格を商人に提示して、公平な取引を目指す。


 商人との交渉のためにまとめた情報は、セレストよりも更に上の権限を持っている地位にいるジョゼットに知らせた。面白そうだという表情を浮かべ、今後の商人との話し合いの時に新しい金額を提示してみると彼女は約束してくれた。


 商人と交渉の場に出るのはジョゼットである。操縦するのはセレストと僕の2人。



***



 アマゾン国が取引している商人が、素材を仕入れにやって来る日がきた。年に数度ぐらいの頻度でアマゾン国に商品を仕入れにやって来る。商隊を指揮している男の名は、テゲルというらしい。護衛も多く引き連れて、街にやってくる。


 商人を迎えるために僕たちが待ち受けていたのは、森の外縁部。森の中では商品を運ぶための馬車が入ってこれない。


 そのため、アマゾン国の住人が森の外縁部にまで商品を運び出して商人が受け取りやすいようするため、森の入口に用意した素材を並べて商人を待ち受けるのが決まりだった。


 だがしかし、今回は僕の持つスキル、アイテムボックスという能力によって1人で森の外縁部まで商品を全て運び出すことができる。手間が省けて、アマゾネス達から感謝されていた。


 彼女たちは力が強く、物を運ぶことはそれほど困難な仕事でもなかった。けれど、単純で面白みに欠けるような作業はやるだけでも疲れを感じるくらい嫌い。彼女たちにとっては、出来れば荷物運びというのは面倒でやりたくない仕事であったらしい。


 そんな仕事を僕が全て請け負って、能力を使って終わらせてしまった。もう誰も、面倒だと思う仕事から解放されて、感謝されたというわけだった。


 森の入り口で待つジョゼット、取引を行うためにやって来たという馬車の集団が、遠くの方に見えてきた。あの中に、商人テゲルという人物がいるのだろう。


 僕の視線の先には、馬車を何十台も連ねて走っている軍団が目に見えている。どうやら、あの近づいてくる集団が今日の取引する相手。


 そして、到着して馬車が止まると中から1人の男性が降りてきた。


 50代ぐらいの年がいった中年男性だった。見た目から行商人だとわかりやすい。テゲルは中年という感じだった彼は、作り笑いを浮かべた表情で揉み手をしながら、いかにもという雰囲気を醸し出している。


 そんなテゲルの後ろには、屈強な男たちが武装をして従って歩いている。テゲルの表情や下手に出る態度は、卑屈だと思えるぐらいに腰が低い。けれども、後ろにいる屈強な従者に守らせてコチラへの警戒は緩めていない、という感じだろうか。


 警戒を緩めずに、取引をするために集めた魔物の素材を並べて置いてある場所に、近寄ってくる。近寄って、しゃがみこんで目の前のモノを一つ手に取ると、目の前に近づけて状態をチェックしている。


「いやー、今回はいい商品を揃えてくれましたね。ありがとうございます」

「いえいえ」


  なごやかに商人テゲルに対応をするジョゼット。この後に、色々と交渉しようとしている事には気付いていない様子のテゲル。2人が向かい合っていた。

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