第19話 森の中にある国
国境を超えていき、王国から離れて進んだ先にあるのは森林地帯。再び、森の中を歩いて行くアディ達に僕もついていく。
この森林地帯は、アディたちが住処としているアマゾンと呼ばれる場所だという。深い森に踏み入った時にジョゼットが説明してくれた。
偶然なのか、この世界にもアマゾンと呼ばれる場所があるのか。説明を聞いて、僕は思った。
「私達、アマゾネスは人からの支配を受けたくないから独立した。そして、この森を頂いて国を作った」
貴族生活をしていた頃に、少しだけ聞いたこともあった。女性だけで生活している一族についての話。まさか、彼女たちがそうだとは思わなかったが。
アマゾネス達が保有している領土はかなり大きそう。この森が広がる土地が支配圏だという。
「人口は少ないけど大きな領土を持って、みんなでなんとか管理している」
その森の中にある街で私達は生活しているんだと、アディも詳しく教えてくれる。これだけと言うけれど、森林地帯はどれぐらいの大きさか分からない。でも、かなり大きそうだった。
そんな森の奥に視線を向けてみると、多分森のちょうど中央辺りには樹が見える。天まで登れそうな程に背が高く、立派な大樹が生えている。あれだけで、この土地を持つ価値がありそうだった。巨大なシンボル。
遠くからでも、全体を見渡すのに見上げないといけないぐらいの大きさ。その樹の足元に開けた場所があって、そこに街があるそうだ。
「あたしの家も、その森の中央部に有るから。今日から一緒に住むし、覚えるように」
「アッ、ハイ」
アディの道具であるということを受け入れている僕。そして、当然のように一緒に住むのだと告げる彼女。
そんなアディ達に連れられて、森の奥へと突き進んでいった。道中にはチラホラと自然と同化したような感じで、かろうじて家だと分かる程度に隠れている建物が見えてくる。
木造建築物で、本物の樹に隠すような感じで建てられているので目を凝らさないと見つけるのは難しそう。そんな建物がポツポツと、森の中にいくつもある。
「あそこは森への侵入者を監視する場所だから。不用意に近づかないで、危ないし。視線も向けないようにね」
「は、はい。分かりました」
ジョゼットに忠告される寸前、確かに建物の中に誰かが居るのが見えて目があったような気がした。急いで視線を外して、前を向く。
ようやく中央部とアディが言っていた、森の真ん中までやって来た。遠くからでも大きいと思っていた大樹は、近づけばさらに大きく見える。見上げても、全長が見えないほどに巨大過ぎるぐらいだ。
てっぺんを見上げようとすると、クビが痛くなるほどに上方へと顔を向けないと見えないぐらい。いや、一番上までは見上げても見えないか。
大樹の足元には開けた空間があって、森の中とは思えない。けれど自然と調和しているという感じの建物が立ち並ぶ。人が住んでいると分かる街になっていた。
そこで生活しているアディ達の仲間だろう、彼女たちがそんな街の中を普通に歩いている。歩いている誰もが、アディ達と同じように鍛えられた筋肉を持っているのが見えた。
そして不思議なことに街の中には男が1人も居なかった。いや、アマゾネスは女性だけの一族であり、男性は外に出されるか奴隷にされるのか。
思い出してしまった僕は、とんでもない所に来てしまったと、その風景を見て今更ながらに悟った。
「ノアって言ったっけ。コイツの事は、女王に知らせておかないとマズイだろう? 早めに話しに行かないと」
ジョゼットが僕に視線を向けながら、そうアディ達に確認するように言った。僕が居ると”マズイ”のだろうか。
「それに予定していたよりも早く遠征から帰ってこれたから、その報告もしないと」
セレストが付け加えるように言って、皆に確認を促す。どうやら、これからこの国の女王をしている人に会いに行くらしい。王、というだけあってやはりアディ達より格上の存在なのだろう。
彼女たちが旅から帰ってきて何をしなければいけないのか、確認をするように話し合っている最中。地面に高速に動く黒い影が見えた。それは、空に動く物体の影。
その謎の物体が何なのか理解する前に、僕たちの側近くへ大きな音を立てて何かが着地した。僕は突然の事態に驚き、何かが着地した時にまるで地震が起きたかのように地面が揺れるのを感じながら、一体何事かと視線を向けた。
目の前に立っていたのは、大きな人だった。
身長が2メートルを超えているように見える大女。えっ、と僕は再び驚く。空から降ってきたように思えるけれど、彼女が?
アディ達を超えるようなキレキレに鍛えられたボディ。大きな胸に、丸太のように太く鍛えられて血管さえ浮き出ている腕。そして、相変わらず露出しているお腹から見える、シックスパックを超えたエイトパックの割れた筋肉。
アディやドリィの姿を見た時にも女性とは思えない凄い体つきだと思ったけれど、目の前に突然現れた大女を目にして僕は度肝を抜かれた。
そして、突然現れた女性を目の前にしてアディ達が見たこともないほどに緊張していた。もしかして、偉い人なのだろうかと僕が予想していると、やはりそうであったらしい。
「……じょ、女王様」
威圧されながら、ジョゼットが辛うじてという様子でなんとか言葉を口に出した。目の前の彼女がどうやら、アディ達がこれから話をしに行こうとしていた女王本人であるらしい。
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