第20話 旅の終わり

 ジョゼットが恐る恐るという様子で、女王と呼んていた女性。見上げるほど大きな背丈の美女。


 彼女の姿をもう一度よく見てみると、見た目はそれほど年を重ねた感じではなく、若そうに見えた。だいたい20歳半ばぐらい、だろうか。


 服装に、金や宝石など様々な派手目の装飾が施されていてるのがひと目で分かる。女王と呼ばれるくらいだから、このアマゾンの国で一番偉い人なのだろう。見た目で分かるような格好。


 そして何よりも、アディ達がいままでに見たことがないような様子を見せていた。緊張しているのか背筋をピンと伸ばして直立している。旅の間に見てきた彼女たち、普段はずっと緊張感の無かったセレストまでもが今までに見たことのないキッチリとした態度を取っている事に驚く。


「ジョゼット、予定よりも早い帰りだが何かあったのか?」

「いいえ、ニト王。問題はありませんが、収穫は有りました」


 低く威厳のある声。ニト王と呼ばれた彼女に問いかけられたジョゼットは、緊張をしているのが明らかな声で答える。


「収穫とは?」

「はい、コレです」


 そう言ってジョゼットが指し示したのは、後ろに立っていた僕だった。ニト王から注目を浴びてドキッとした。視線だけでプレッシャーを感じる。どうするべきなのか分からず、とりあえず黙って立っておく。


 目の前の女性は偉い人であり、勝手に話しかけては無礼に当たる可能性もあったから。礼儀作法で下手をしたら死につながる。


「なんだ、男じゃないか。どこで拾ってきたんだ?」


 怪しがるようなニト王の鋭い視線が、僕の方へと向けらていた。観察されている。その時、アディが僕の身体を後ろから覆い隠すように抱きついてきた。


「実は彼は、私達にとって夢のような凄く便利なスキルの持ち主なのです」

「なに?」


 ジョゼットがニト王に対して僕の持つ魔物寄せというスキルについて、詳しく説明をした。


 実際に、リスドラの森で森の主と呼ばれていた大型魔物まで彼と居る時に遭遇することができて、そのスキルの力は実証済みだと語る。


 ジョゼットの話を聞いていたニト王はとても興味津々になって、説明を聞いている間に怪しむ表情から段々と笑顔を浮かべるようになっていった。


「居るだけで魔物が寄ってくるなんて、そんなスキルがこの世にはあるのか。ソレは確かに私達にピッタリの能力だな! 良し、特別にそいつをココに置いておく許可をやろう」

「ありがとうございます!」


 アディはニト王の下した判断に対して、深々と頭を下げて感謝を述べる。


 どうやら、役立つスキルの持ち主として彼女に認められたらしい。彼女に認められなかった場合は、ココから追い出されたというような雰囲気だった。危なかった。


 僕は、アディと一緒にココに居ていいんだと認められたらしい。


 僕も、なんとなく頭を下げてニト王に対して感謝の意を示す。まだ、話しかけても大丈夫かどうか分からず余計なことはしない方が良いと判断して、僕は黙ったままで頭を下げた。


「遠征の成果については了解した。ソレの存在も、とりあえずは様子見で置いておくことは許可する。それじゃあ解散して良し」


 いきなり目の前に現れて、確認したかったことだげを確認すると、そのまま颯爽と去っていったニト王の背中を僕たちは見送る。


「良かったわね、アディ。ちゃんと、その子の世話は見なさいね」

「ありがとう、ジョゼット」


 ニト王が去って、緊張が解けたらしいジョゼットとアディが会話を交わす。そして他の皆もニト王が居なくなって思い思いに気を緩めた。


「それじゃあ、私達は言われた通りココで解散ね。私は今回の遠征について、記録をまとめに行くわ。セレストも一緒に来て」

「えー、私は疲れました。今日は休みましょう」


「嫌なことは早めに片付けておきましょう、文句を行ってないで来なさい」


 子供のように不満を言うセレストの腕を、容赦なく引っ張って行くジョゼット。


 身長的に言えば、子供のように背の低いジョゼットが引っ張られて、大人のように背の高いセレストが連れて行く方が見た目には自然だと思えるだろう。しかし、実際は役割が逆である。


 背の低いジョゼットが手を引いて、身長が高いセレストが連れて行かれる、という見た目に奇妙な感じを残して、2人は去っていった。


「ジョゼットが行っちゃったから、私も帰ろ」

「せっかくだから、帰ってこれた記念に酒でも飲みに行かないか」


「良いね、付き合うよ」


 ドリィとニアミッラの二人は、仲良さそうに酒を飲みに行く約束をして2人で一緒に街の中に消えていった。


 この深い森の中にある街にも、やはり酒場等のお店はあるのかと感心した。そして相変わらずニアミッラは酒に夢中のようだ。


「アディ。アンタとの旅は大変だったけど、まぁ楽しかったわよ。また、一緒に遠征しましょう。ばいばい」


 恥ずかしいのだろうか、目も合わせずに早口でそれだけアディに伝えると、返事も聞かずスゴイ速さで何処かへと走り去って行ったミリアリダ。


 そして、その場に残されたのは僕とアディの2人だけとなった。


「みんな、どっかへ行っちゃったから私も家に帰ろう。ノアは、今日から私と一緒に生活だからね」

「えっと、うん。よろしくお願いします」


 こうして、森のなかで死にかけていた所をアディに助けてもらった僕。その後も、半ば強引に、しかし行く宛のない僕は彼女と旅を一緒にすることなった。


 そして今は、遠く離れたアマゾン国という場所に辿り着いていた。そこで何故か、アディと一緒の家で生活する事となった。

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