第7話 依頼

 魔物に襲われていた幌付き馬車の集団は、5人組のパーティだった。


 腰から剣を下げ武装した戦士の男に、聖女様と呼ばれている真っ白な格好の少女、それに付き従っている同じようなローブを着た妙齢の女性。


 気を失って地面に倒れている、装備から予想すると魔法使いだと思われる見た目は若い女性。それから、全身鎧の男性。その計5名のパーティーだった。


 おそらく、聖女と呼ばれている少女とローブ姿の女性が依頼者なのだろう。


 戦士と魔法使いと全身鎧で武装している彼らは、護衛の為に雇われている者たち、という感じだろうか。


「ドゥニーヌ、魔物にやられた彼らに回復をお願いね」

「分かりました、聖女様」


 先程の戦闘でやられたのだろう、気絶して地面に倒れている魔法使いと全身鎧姿の二人を指さして、回復するように指示する聖女と呼ばれいてる少女。


 指示された女性は、まず先に魔法使いの女性の側に近寄ってからしゃがみ、両手を地面に倒れている彼女に向けて、掌をパーと広げて突き出した。そして、何やら呪文を唱える。すると、彼女の両手から淡い緑色の光が放出された。遠い昔に見た覚えがある、僧侶などが使っていた回復の魔法。


「改めて、助けて頂きありがとうございました」


 回復を施している様子を眺めていると、聖女と呼ばれた少女が僕の目の前に立って頭を下げてきた。どちらかと言うと助けたのはアディなので、僕じゃなくてアディにお礼を言うべきでは、と思った。


 けれどアディは、僕らから離れた場所に立って黙ったまま何も言わない。会話にも混ざろうとはせずに、関係ないような風にして辺りを見渡していた。


 何だろうか、彼らの前に立って急に話さなくなったアディに僕は違和感を覚える。だが、ここは代わりに僕が話を進めた方がいいのだろう。


「助かってよかったです。それで、近くの街へ向かう道を教えてもられると有り難いのですが」

「それなら、私達とご一緒に行きませんか。報酬も支払いますので、護衛として同行お願いてきませんか」


 その言葉は、確かに魅力的だった。近くの街まで一緒に行って、案内してもらえるようだし、お金も貰える。ただ、僕の一存で決めるわけにはいかないのでアディにも相談する。


 何となく彼らには僕らの会話を聞かれないようにしようと思って、少し離れてからアディに耳打ちをして。


「どうするの、アディ?」

「良いんじゃない、受けても」


 なんだか、全く関心がないような反応で答える。というか、そう思うのなら自分で返事をすればいいのになと思ったけれど、何故かアディは彼らと言葉を交わそうとはしなかった。


「仲間を探さないといけないんじゃないの?」

「どっかで会えるでしょ」


 こんな風に、とても楽観的に考えているらしいアディ。仲間との合流については、特に急いではいないようなので、まずは街へと向かう。報酬も貰えるのなら、依頼を受けるメリットも有る。


 それに街に行けば、アディの仲間が既に待っているかも知れない、街にいる人達に彼女の仲間の目撃情報についてを聞いて回れば、居場所も判明するかも。少なくともアディの勘だけに頼って仲間を探して森の中をさまよい歩くよりかは、見つけ出せる確率は高いだろう。


「じゃあ、彼らと一緒に街に行っていい?」

「うん」


 ということで、僕はアディの同意を得てから近くの街へ一緒に行きましょうという返事を聖女にした。


「街まで一緒に、お願いします」



***



 5人組のパーティーと、僕とアディーが加わった集団で一緒に、近くの街まで行くことになった。


 フェルマンという名前の戦士が、新たに加わった僕らに警戒を強めているのだろうか、背中を見つめられている強い視線を感じる。


 一応、出発する前に互いに自己紹介だけ済ませていた。名前だけ、相手にちゃんと教えておいた。けれど、それ以外の事については説明しなかった。




 そう言えば、僕に公爵家からの追手はいるのだろうか。公爵家には存在していない者として、処刑される筈だったのに事故によって逃げ出してきた。その後、僕が生き延びたのは公爵家に知られているのだろうか。分からない。生きていると知ったら、刺客を送ってきそう。存在していると、公爵家にとってマズイから。


 事故によって、載っていた馬車が横転した。拘束具が外れて、その隙に僕は必死で逃げ出した。


 逃げる時に他に生き残りが居るかどうか、確認していなかった。僕が生き残れたのだから、他にも生き残っていてもオカシクはないだろう。そして、事故があった場所に僕の死体が無いと分かれば、生き延びていると考えるかも。


 いまのところ、そんな刺客も暗殺者も見当たらないし暗殺が起こる気配もない、と思う。という事は、公爵家に僕は死んだと認識されているのか。


 その方が、都合がいいな。


 僕の問題はひとまず置いて、一緒になった聖女達の集団の目的についても考える。

 本人に事情を聞くと、あっさりと教えてくれた。


 彼女たちは、他国から王国に呼び出されたらしい。最近の、魔物が異常に増加する現象の原因を解決するために。聖女様である彼女のお力添えが必要だ、ということを聞かされた。


 魔物が、近隣の国から王国を目指して集まっているらしい、という噂。そして僕の魔物寄せというスキル。これが原因なのだとしたら、僕は早く国を出て、別の場所に向かうべきなのだろうか。


「仲間と合流したら、私達の国に向かう。そうすれば、皆が戦いを楽しめる」


 王国に増加する魔物と、僕の持つ魔物寄せスキルの関連性。そんな事を考えていると、アディが言ってくれた。


 彼女と、その仲間たちは戦いを楽しめる人達らしくて、魔物が押し寄せても問題は無いと。


 むしろ魔物寄せの効果があっても大丈夫、問題はないという国らしいからアディに連れて行って貰えば良いだろう。


 今後の予定も決まったし、後は街に到着するだけ。そこで報酬を受け取ってから、彼女たちとはバイバイ、と言って別れれば良いけれど。


「なんで、こんなに魔物が集まってくるんだッ!」

「愚痴ってないで、手を動かして反撃しろッ! 馬車を攻撃されないでよ」

「うっす」


 戦士と魔法使い、全身鎧の3人が次々に襲撃してくる魔物に苦戦していた。多分、魔物を引き寄せているのは僕のスキルが原因だと思う。けれど黙っていた。


「聖女様……」

「私達の目的は、この増えた魔物の原因を消し去ることです。目的を忘れないで」


 不安そうな表情を浮かべる回復役の僧侶を安心させるように、言い聞かせている。そして、チラッとコチラに視線を向けてくる彼女。もしかして、僕のスキルについて何かしら知られているのだろうか。


 けれど、彼女は意味ありげな視線をコチラに向けるだけで何も言わない。


「なっ、にっ!」

「うそ!?」

「強い」


 苦戦している3人の間に割って入ったアディが、瞬きをする間もなく全てを片付けてしまった。仕事を終えたのに、喜びもせず無言のまま再び僕の側に近寄ってから、身体を密着させてくる。


 アディの圧倒的な戦闘能力の高さに、彼らは僕と同じ様に魅了されているようだ。街に到着してから、アッサリと別れられるだろうか。パーティーに勧誘とかされそうだけど。


 そうこうしている内に、僕たちは森を抜けて、目的地だった一番近くにあるという街に到着していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る