概要
2019年10月11日に完結済みの『白百合の病』
その間奏曲と前奏曲と譚詩曲。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!永久不変に閉じ込めた「愛」の日々
同作者による『白百合の病』のスピンオフ。不治の病に侵された孫を見つめる老ピアノ教師の穏やかで切ないまなざしが全編を包み、『白百合の病』とは違った角度で主人公の少年・ミヨシ君像を浮き上がらせます。
雛鳥のような孫の姿を優しい祖父の目線で見つめる導入部の「間奏曲」。
曜日ごとに区切られた一週間の出来事に主人公の最後のきらめきを切り取った「前奏曲」。
そして「譚詩曲」では、さらに二人の生活を細やかに掘り下げた十年間を描きます。
さりげなくこだわった小道具を配した日常の風景も、心情を代弁するかのようなピアノ曲も、すべてが物語に素晴らしい効果をもたらし、個性的で優雅な筆致がこの透明感のある美しい物語…続きを読む - ★★★ Excellent!!!幸せには、その「長さ」は関係がないのかもしれない。
幸せには、その「長さ」は関係がないのかもしれない。
そんなことを思いました。
この物語は、作者様の作品「白百合の病」のスピンオフに位置付けられる作品です。
主人公であるミヨシくんは、不治の病気である「白百合の病」を抱え、十歳の頃の発症から成長しない体のまま、歳を重ねます。
全身の関節が少しずつ変形し、痛みを増していく病状をただ受け入れ、死に向かって歩くしかないミヨシくんと、孫である彼を深く愛し、その人生に寄り添って歩くおじいちゃん。二人の道のりが、おじいちゃんの視点で描かれています。
病の苦しみと、刻々と迫ってくる死への恐怖に、人知れず悶え苦しむミヨシくん。それでも老齢の祖父にそんな自分…続きを読む - ★★★ Excellent!!!透明な、澄んだ空気に浮かぶ。愛しいものたちへの思いが続いていく。
作者の別作品「白百合の病」のスピンオフ作品です。
「白百合の病」の患者・ミヨシくんの祖父にあたる、ピアノの先生の視点で物語が進んでいきます。
ミヨシくんと先生。
家族の絆だけでなく、ピアノの教師と生徒という立場でも繋がれた二人の会話は、やはりピアノの、音楽の話がとても多く。
文字の流れ、時間の経過が、作中に登場するピアノ曲に沿って進んでいくようです。
悲痛な嘆きではなく、ピアノの音に表現される揺らめきが、二人の空気を形作っています。
ピアノの音が好きな方なら、間違いなく美しい言葉が流れるこの作品に入り込んでしまうはずです。
いつまでも、二人の人生という名の揺らめきを感じていたい。
澄ん…続きを読む - ★★★ Excellent!!!籠の中に咲いた花の名は。
ピアノ教室を開いている主人公の男性は、奇病を持った孫と暮らしていた。孫はピアノと折り紙を好んだ。ピアノではドッビュシーがお気に入りだった。しかし主人公の孫が病んだ「白百合の病」は、徐々に孫の体を変形させ、死に追いやる。もちろん、指も例外ではない。十歳にして成長を止め、心だけが成長する。今、孫は二十歳だ。主人公は自分が孫にしていることは、自分の自己満足なのでは? と思い病み、シャーマンの所に通った。ただ、孫が今幸せなのかを問うために。そして、孫と同じ病で他界した娘(孫にとっては母)は、幸せだったのかを問うために。シャーマンの所に行った日は、よく眠れた。
孫に直接、今は幸せか? と問うことは…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ミヨシ君を綴るおじいちゃんの愛が世界がまた美しい
ミヨシ君がササオカさんに出会うまでの日々がおじいちゃんであるピアノの先生の視点で描かれています。
おじいちゃんのミヨシ君への想いに共感できるとともに、祖父であるからこそ見えるミヨシ君が美しく綴られています。
前作の「白百合の病」がササオカさんの視点からだったのに対して、おじいちゃんからの視点なので、よりミヨシ君を近く感じます。そして、祖父だからこその悲しみが伝わってきます。
今回もピアノの音が溢れていて、そのピアノと響き合うような美しい文章が見事です。
ミヨシ君は決して不幸ではないと思わせてくれるラストが素敵です。
まさにこれこそ純文学。美しい調べをご堪能ください。