籠の中に咲いた花の名は。

 ピアノ教室を開いている主人公の男性は、奇病を持った孫と暮らしていた。孫はピアノと折り紙を好んだ。ピアノではドッビュシーがお気に入りだった。しかし主人公の孫が病んだ「白百合の病」は、徐々に孫の体を変形させ、死に追いやる。もちろん、指も例外ではない。十歳にして成長を止め、心だけが成長する。今、孫は二十歳だ。主人公は自分が孫にしていることは、自分の自己満足なのでは? と思い病み、シャーマンの所に通った。ただ、孫が今幸せなのかを問うために。そして、孫と同じ病で他界した娘(孫にとっては母)は、幸せだったのかを問うために。シャーマンの所に行った日は、よく眠れた。
 孫に直接、今は幸せか? と問うことはしていないはずなのに――。
 そんな中、一人の女性がピアノ教室を訪れた。ピアノにブランクを持つ女性だった。その女性の声を、孫は母と同じ声質だと言う。
 
 病の進行を遅らせるために、小鳥を籠に閉じ込めたのは正解か?
 孫は本当に幸せなのか?
 主人公は答えのない問いを繰り返す。

 これは『白百合の病』の前章にして、表裏一体。

 是非、御一読下さい。

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