第十九話 転校生と幼馴染の妹①

「どういうこと!?」

「こいつのどこがいいんだよ!?」

「キャー! 甘酸っぱーい!」


 教室がさらに喧噪に包まれる。なんでそんなこと言ったの、と抗議の視線を華奈に向ける。


(えへへっ)


 曇りのない笑顔を向けられる。……それじゃあ僕は何も言えないじゃないか。


「はいはい、そのぐらいにしとけ。後で個別で聞きな。福住もちゃんと答えてやれよー。青木もな」

「はいっ!」

「はい……」


 気が重い……。今も殺すような視線が背中に突き刺さってる。もう帰りたい。あ、それはそれで尾行されて一緒に住んでることがバレそう。……耐えるか。



 ◆



 すごかった。あんなに人に話しかけられたのは初めてだと思う。学校は午前だけで終わるはずなのに、もう少しで二時だった。疲れた……。昼ごはんは、どこかで食べよう、という話になった。


 二時前だから、隣のクラスのいつもイチャイチャしている三人組ですらもう帰っていた。あんな時期が僕にもあったんだな、と思う。今は、人とつきあうなんて考えたくもない。華奈はおそらくそれを理解している。あんなに好きと公言しているのに、つきあおうなんて一言も言わない。すごいな、華奈は。


「ん? どしたの?」

「……いや」


 無意識に華奈の顔を見つめていた。やっぱりかわいい。なんで僕なんだろう。吊りあわないのに。


 そんなことを考えていたら、不意に話しかけられた。


「……翔琉さんですか?」

「え、はい」


 女の子だった。おそらく一年生だろう。なんで僕の名前を知っているんだろう。


「わたしのこと忘れましたか?」

「翔琉、この子誰?」

「あれ、華奈さんも覚えていませんか?」

「え?」


 本当に心当たりがない。


「壊与兄さんの妹の、真唯マイです。覚えてませんか?」

「え、マイちゃん?」

「はい」


 うちの高校に入学したんだ。壊与とは一切話さないから知らなかった。話したくもないけど。

 真唯ちゃんは壊与の一つ下の妹。小学生のとき、一緒に遊んだこともある。華奈がいなくなってからは、壊与ともあまり遊ばなくなったし、壊与は私立の中学に行ったから、接点がなかった。


「壊与兄さんから話は聞いてます。……ご迷惑をおかけしました」

「え」


 話……って……。


「壊与兄さんが翔琉さんから彼女を奪ったって話です」

「……は?」


 奪った? 奪ったって、僕から、赤崎を?


「ちょっと、マイちゃん、こっち来て」

「え、あ、はい」


 華奈が真唯ちゃんを連れてどこかへ行く。僕は、廊下の真ん中で立ち尽くすことしかできなかった。

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