第八話 ホワイトデーと元カノ②了

 バスケ部の部室から聞こえてくる赤崎の声に、立ち止まってしまった。生徒会の仕事に戻ろう、と思っても足が動かない。聞きたくないのに。


「緋はもうデレデレだな」

「壊与がこんなにしたんだよ? 責任取ってよねっ」

「しょうがねえな、おらっ!」

「あはっ、そこっ!」


 また、盛りあっていた。元カノと幼馴染がやっている姿は、興奮する人もいるのかもしれない。けど、僕は違う。吐き気がだんだんこみ上げて来た。


「──うっ」


 近くの木の根元に吐いてしまう。生徒会の仕事は、続けられそうにない。涙目になりながら、会長にメッセージを送る。


『具合が悪くなったので、帰らせてください』


 すぐに返事がくる。


『いいよ~明日まとめてやってね~』


 とりあえず、一安心。あとは、二人が出てくる前にここを立ち去るだけ。でも、足が動かない。


「そろそろ部活に戻らないと」

「早く行こ?」


 マズイ、動けない、見ていたことがバレる、マズイ──


 ガチャッ──



 ◆



「わざわざ盗み聞きするなヨ」

「ご、ごめん」


 ロイは、僕の居場所を知ってた。倒れかけている僕にブルーシートを被せてごまかしてくれた。


「先に帰ってなかった?」

「今日は赤崎の日だったかラ、お前が来そうだと思っテ」

「え?」

「ああ、ごめン。こっちの話サ」

「ああ、うん」


 気になるけど、ロイがそう言うなら。ロイからウエットティッシュをもらい、顔を拭く。


「もう、無茶はすんナ」

「ありがとう、ごめん」

「気をつけて帰れヨ」

「うん、また明日」


 もう、ここには近付かないようにしよう、そう思いながら駅に向かった。



 ■



「……はあ、ヒヤヒヤしたゼ」


 ロイヤルは、ブルーシートと翔琉の嘔吐物を片付けながらひとりごちる。


「まだ、赤崎に未練があるんだろうナ」


 ブルーシートは、部室棟の用具室に片付ける。


「赤崎、なア……」


 用具室からスコップを持ってくる。


「壊与の秘密は言えないよなア……」


 嘔吐物を、近くの土を集めて埋める。


「翔琉にだけは、バレないようにしないト……」


 スコップを用具室に戻して、終わり。


「ン……?」


 部室棟に赤崎が走ってきた。とっさにロイヤルは身を隠す。


「何してんダ?」


 何かを探している赤崎。


「……」


 やがて、探し物を見つけたようで、帰っていった。


「なんだったんダ?」


 首を傾げながら、ロイヤルも帰ることにし、その場を立ち去った。



 探し物を見つけた赤崎の手には、光る物が握られていた。ロイヤルはそれに気付かなかった。

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