幼馴染と元カノ ─幼馴染に彼女を奪われていた─

嬾隗

プロローグ

恋人の終わり

第一話 高校一年のバレンタインデーと中学一年のバレンタインデー①

「……はあ」


 ため息しか出てこない。


 今日は朝から晴れていたのに、夕方になってから雪が降り始めた。近年稀に見る大雪、とかいう奴だそうだ。それに加えて吹雪いてるし。まるで僕の心を表現しているかのようだ。


 今日はバレンタインデー。女子からチョコレートをもらえるかもらえないかで世の中の男子が一喜一憂する日。もらえたとしても、本命か義理かで葛藤するのだ。毎年、ハートたっぷりのチョコレートをもらえたら勝ち組。そいつは好かれていることになる。よかったね。さっさと告ってギシギシアンアンしとけ。


 ……はあ。心の中で毒づいても意味がないことはわかってるんだ。僕の恋路があっけなく終わったことを、受け入れるべきなんだ。まあ僕から告白した訳じゃないからまだ気が楽だけど。……心の中ではどうとでも言えるけど、結局、あの子に未練があるってことだ。


 僕の通っている高校は、僕の家から自転車で三十分。でも大雪のせいで徒歩で帰っている最中。……ダルい。早く帰りたい。足元の雪がまとわりついてくるから、足が重い。なんでスニーカー履いてるかなー。


 うだうだ考えても意味がない。さっさと帰って暖まろう。



 ◆



「……ただいまー」


 ……反応がある訳がない。でも返事がくることを願っている自分が居る。煩悩に悩まされる。……自分の煩悩をあの子に伝えられていれば、今回のようなことは起こらなかったんだろうか。


 僕の彼女、いや元カノか。赤崎緋アカサキアカとの出会いは中学校。一年生のバレンタインデーのときだ。……今日で三周年になるはずだったのに。




 中学一年生のバレンタインデー。中学生で彼女がいたら勝ち組、みたいなところがある。でも、友達と言える友達がいないぼっち同然の僕は何も関係ないと思ったし、周りがうるさいだけで自分には何も関係ないと思っていた。


 ダルいな、と思いながら、下足箱を開ける。何か赤いものが見える。違う人の開けたかな、と思って一度閉める。……僕の下足箱だ。もう一度開ける。赤い手紙がある。ハートのシールで封がされてある。


「……イタズラかな」


 そう思った僕は、宛名を確認した。「青木翔琉アオキカケルくんへ」。……僕の名前だ。この学校には同姓同名はいないはず。どうして僕が、という考えが頭の中を支配した。手紙を開けてみると、「放課後、体育倉庫前に来てください」という意味の文章。どうせ嫌がらせだろ、男がノコノコやってきた僕を笑うんだろ、と思いながら手紙をカバンに突っこみ、昇降口を後にした。

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