第二話 高校一年のバレンタインデーと中学一年のバレンタインデー②
バレンタインデーに手紙が下足箱に入っていた。その事実がずっと気になり、授業は上の空になっていた。
「おうおう、バレンタインだからって浮かれてんじゃないぞ~」
授業中に指名されて答えられない僕を先生が茶化す。周りは、「もらえる訳ないのに」「帰ってママからもらってな」なんてひそひそ話が聞こえる。……僕は『本命以外はもらうな』という母の方針で、義理すらもらったことがない。そんな環境で、手紙が気にならない訳がない。浮かれているに決まってる。でも、浮かれていることをバカにされるのも嫌なので、黙っていた。
昼休み。友達は他のクラスにいるし、自分のクラスには友達がいない。給食の班でも一言も話さず、黙々と食べる。そのとき、遠くから少し大きめの声が聞こえた。
「え、赤崎、告白すんの!?」
緋、いや、赤崎さんとはクラスが同じだった。赤崎さんは、整った顔立ち、さくら色の柔らかそうな唇、黒のストレートヘア、控えめな胸が、清楚系女子の代表、なんて呼ばれるに足る容姿をしていた。入学当初から人気が高く、告白を何度も受けていた。でも、なぜかすべて断っていた。好きな人がいるのでは、という話は後を絶たなかった。
「放課後、体育倉庫でね」
「好きな人いたっけ?」
「……実はいたんだ」
『えええええ!!』
うるさい奴らだ、と思いながら、ふと気付く。今、体育倉庫で告白すると言っていなかったか? もしかして……。
その日は日直だったので、日誌を持っていた。クラス全員の筆跡が見られる。制服のポケットに手紙を隠し、日誌を持ってトイレに向かった。手紙を見られる訳にはいかない。
トイレの個室に入り、鍵をかける。手紙を開けてみる。『放課後、体育倉庫前に来てください』。間違いなかった。これは体育倉庫前への呼び出しだ。でも、赤崎さんとは断定できない。体育倉庫前で告白する人は少なくない。日誌を開き、赤崎さんの書いたページを探す。
「……マジか」
手紙の筆跡、そして日誌の筆跡。ほぼ同じ筆跡に見える。つまりこれは、赤崎さんが僕に放課後告白するということになる。
「……マズイな」
校内でトップクラスに人気の彼女が、ぼっち同然の僕に告白なんてしてくるだけでもマズイ状況なのに、僕がOKなんてしてしまったら、袋叩きにされる。病院送りだけは嫌だ。看護師の母に治療されるのは避けたい。
「どうやって断ろう」
断る方法を延々と考えながら、午後の授業を過ごした。
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