第六話 母の考えと変えられない過去
『学校だけは転校しないでね?』
母に、今のまま生活するのが苦しいこと、学校にいたくないこと、どうにかして彼女から離れたいこと、すべて伝えた。伝えたはずなのに、母の口から出た言葉は、残酷なものだった。
「な、なんでそんなこと……」
『いい? 過去は変えられないの。どう頑張ったって、自分が今までやって来たこと、自分がされたこと、すべて、変えられない。変えることはできない。過去に戻れる何かが存在すれば、話は別だけど。そんなもの、この世には一切存在しない』
「そんなことは、わかってる。けど」
『無理よ。すべて忘れるなんて。……私も、父さんに対して、後ろめたいことの一つや二つはあるのよ?』
「……え?」
初耳だ。今でも、近所では知らない人はいないほど、仲良し夫婦の両親に。
『私の話はいいの。今は翔琉の話。まずは、勉強の話。成績落ちたでしょ?』
「……うん」
赤崎は頭がいいので、同じ高校に行くために勉強は頑張った。まあ、赤崎の彼氏にふさわしい人間になろうとした、ってところだ。
『努力した過程がどうであれ、努力したって事実は変わらないの。自分がした努力なんだから。今から成績を戻して、そこから成績を上げて、いい大学入って、いい企業に就職しな。そしたら、緋ちゃんのことを見返せるでしょ?』
母はすごい。人生をしっかり見据えてる。僕の弱い部分も知ってる。家族って、こういうところがいいよな。
『それともう一つ。どうせアパートにある物は使い物にならないでしょ?』
「うっ」
自暴自棄になったときに破壊衝動に駆られて物を壊すのは小さい頃からの癖。いつまでも直らない。小学生のときは音楽室のピアノを壊したこともあった。両親が一グレード高いピアノを買ってきて学校に置いた記憶がある。
『まあ、家具・家電は買い替えればいいよ。あと、アパートの件だけど、三月中に契約が切れるから、一旦家に帰ってきな。うちが家賃払ってたからどうとでもなるよ』
「……わかった」
『そうそう、二年生からは、新しいアパートに住むことになるから』
「は?」
え? もう新しいアパート借りたの?
『もうすでに人が住んでるけど気にしないで。ルームシェアだから』
「ちょっと、どういうこと? 知らない人と住むってこと?」
『いや、あんたも知ってる子よ? じゃあ、そろそろ昼休み終わるし、三月までのお楽しみ、ってことで~』
「あ! ちょっと、待って……」
母はたまに突拍子もないことをやる。これからどうなるんだ……。
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