第三話 高校一年のバレンタインデーと中学一年のバレンタインデー③

 放課後。科学部に所属している僕は、部活に行きたかった。だが、週二回の部活なので、やっていなかった。さらに、部長がこういう恋愛イベントがある度に、部活を強制的に休みにするので、やっているはずはなかった。


「……はあ」


 ため息をこぼす。赤崎さんはもういるんだろうか、なんて考えながら、重い足を無理やり動かし、体育倉庫に向かう。


「……なんだこれ」


 体育倉庫の周辺はすごい人だかりができていた。それもそうか、赤崎さんは校内で一、二を争う人気の女子だ。誰に告白するのか、気になるに決まってる。


「……無理だ」


 僕が行ったら周りからブーイングがすごいことになるに決まってる。この中に入ることなんてできる訳がない。この人だかりに入る勇気すらない。帰ろう。そう思って人だかりに背を向けた。そのときだった。


「あ、青木くん!」


 赤崎さんの声が背後から聞こえた。一度足を止める。今、赤崎さんが僕の名前を呼ばなかったか?


「おーい、青木くーん!」


 また聞こえた。恐る恐る後ろを振り返る。


「こっちこっち! 青木くん!」


 笑顔でこちらに手を振る赤崎さん。僕を殺意の表情で見るギャラリー。帰りたかった。でも逃げられなかった。赤崎さんがこちらに近づいてきてしまった。


「青木くん! あのね……」


 近くに来て話始める赤崎さん。告白だけは来ないでくれ、なんて願う。まあ告白されるけど。


「一目惚れでした! 付き合ってください!」


 チョコレートが入っていると思われる箱を差し出しながら頭を下げる赤崎さん。まあ、午後の授業中に考えた結論を伝えるだけだ。


「赤崎さん、罰ゲームかなんかで僕に告白してるんじゃない?」


 そう。僕の結論は罰ゲーム。どうせ友達同士でそういう話になったんだろう、と思った。僕に魅力なんてある訳がなかったから。


「……え?」


 ポカンとした表情を浮かべる赤崎さん。周りは、「なんだ罰ゲームか」「当たり前だよな」なんて言ってる。うん、いい線いったのでは?


「……私は本気なのに」

「……え?」


 思わず間抜けな声が出た。周りには聞こえなかったようだが、僕には聞こえた。本気? なぜ? どういうことだ。


「赤崎さん、どういうことか教えて」

「え? うん……」


 赤崎さんは話し始めた。好きになった経緯を。出席番号が一番同士で、席が隣。一目見たときから、好きだったらしい。そこから、時々僕に話しかけるようにしたらしい。なんか話しかけられるな、とは思ったけど。


「だから、私と付き合ってください!」

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