第十三話 華奈と料理

 それから、しばらく話をした。華奈の友達の話が中心だった。あの男友達がどうとか、あの女友達がどうとか。僕は黙って話を聞く置き物と化していた。思い出した記憶と比べても、華奈がおしゃべりなのは変わっていないようだった。あの頃から変わっていないものを見つけて、安心している自分がいた。


 そうこうしているうちに、日が暮れていた。昼は軽食で済ませていたので、お腹がだいぶ空いていた。


「あ、夕飯どうする? 私、作れるけど」

「え、華奈って料理できたっけ」

「失礼な! いつも作ってくれてたお父さんが天国に行ってから、もともとお母さんはほとんど家にいなかったし、自分で作るしかないでしょ?」

「あ、えーと、ごめん」

「謝らなくていいよ。どうしたって事実は変わらないんだから」

「うん……」


 余計なこと言ったかな、と思ったけど、華奈は気にしてないみたいだ。華奈は強いな……。


「じゃあ、手伝うよ」

「え、翔琉って料理できるの?」

「一応ね。赤崎がしなかったから」

「あ、そうなんだ……」


 赤崎は僕より料理がうまいのにしなかった。もしかしたら世話人みたいな人が欲しくて、僕と付き合ったのかな……。壊与も中学の間に料理できるようになったのかも。それで、僕よりおいしかったから、とか。考えられなくはないな。


「今日はカレーにしようかな。作り置きしておけばいつでも食べられるし、明日は翔琉の荷物を部屋に置かないと」

「そうだね」



 ◆



 手を洗い、料理しようと思ったとき、華奈が眼鏡を持ってきた。


「コンタクトだったの?」

「違うよ。これは玉ねぎ対策の伊達眼鏡」

「それで防げるの?」

「まあ見てて!」


 華奈はそう言うと、ラップを取り出して目の覆うようにつけて、眼鏡をかけた。


「玉ねぎの成分が目に届くと涙が出るんだよ。ラップで防げるから、眼鏡で固定すれば大丈夫!」

「ほんとだ。涙出てない。すごいね、そういう知識。主婦の知恵って奴?」

「ちょっと! まだ結婚してないでしょ! ……翔琉とは結婚したいけど」

「え?」

「ななな何も言ってないよ!? ほら作っちゃおう!?」


 なんかすごい慌ててるけどどうしたんだろう。僕、変なこと言った?



 ◆



 しばらくして、カレーは完成した。ルーを数種類混ぜて、程よい辛さにした。


「いただきまーす」

「……いただきます」


 家族以外と食べるのは久しぶり。そして、共同作業で作ったとはいえ、出来に緊張する。


「……どう?」

「おいしいよ! 翔琉も食べなよ」

「うん。……おいしい」

「翔琉もけっこう料理できるねー。毎日交代でご飯作ることにしようよ!」

「うん、いいよ」

「うふふ、楽しみー」


 華奈は変わらないな、なんて思いながらカレーを食べた。

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