第十話 現在の壊与と過去の壊与②了

 まだ夢は続くようだ。小学生の頃の三人組。僕と壊与と、女の子。ぼんやりと思い出したが、いつも三人でいた気がする。だが、女の子の名前とか、そういうのが思い出せない。


「うえーん!」


 壊与は転んだあと、ずっと泣いている。そうそう、壊与は今みたいに荒々しい感じじゃなく、泣き虫だった気がする。中学で何があったんだろう。


「ほら、泣くな」

「はい、絆創膏~」


 僕が近くのベンチに座らせ、女の子が水道で濡らしたハンカチで膝の傷を拭き、絆創膏を貼っている。確か、女の子が三人のリーダーで、僕と壊与を引っ張ってたような。ダメだ、記憶が薄い。


「ありがとう、翔琉、──ちゃん」


 さっきから気になっているが、女の子の名前がノイズがかかったように全く聞こえない。名前を聞けば思い出せそうなのに。


「もう、今日は帰ろっか」

「そうだね。壊与、歩ける?」

「う、うん。っ!」

「ほら、無理しないで。肩貸すよ」

「ありがとう、二人とも」


 なんだろう、この光景を見ていると、胸の奥が暖かくなってくるような、不思議な感覚が……


 帰って行く三人組。すると、急に女の子が振り向いて言った。


『もうすぐ会えるよ』


 どういう意味だ? と考えたところで、視界が白くなっていった。



 ◇



 目が覚めたようだ。結局、女の子のことは思い出せないままだった。母に聞いても、はぐらかされた。なんでだろう。


 今日は修了式。明日からは春休み。彼女がいなくなった僕は、ぐだぐだと過ごすのだろう。


「おっ、翔琉。明日以降で会える日はあるカ?」

「ロイ。たぶんずっと暇だけど?」

「ああ、知らないのカ」

「え? 何を?」

「ごめん、こっちの話ダ」


 なんだろう。何か隠してる気がする。気になるけど、あちらから話してくれるのを待つしかないかな。


「四月に入る前でいいから、連絡をくレ」

「わかった」

「じゃあ、まタ」

「じゃあね」



 ◆



 家に帰ると、母がいた。この時間は働いているはずなのに。


「おかえり。早く荷作りしちゃって」

「え?」

「ルームシェアの話。明日には業者が来るから、今日のうちに準備して」


 そういえば、ルームシェアの話があったんだっけ。誰とかが気になる。


「わかった。すぐやるよ」

「お願いね。母さんも楽しみよ」

「え? 何が?」

「あっ、こっちの話よ。オホホホホ」


 普段の笑い方と違う。明らかに動揺している。気になるけど、まあ楽しみにするのも悪くないか。


「うふふ、どんな反応をするか楽しみね」

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