第十七話 桜の木と金髪

 まさか華奈が転校してくるとは……。そこまでして僕に関わろうとするのはなぜだ? 理由がわからない。そんなことしても華奈にはメリットがあるはずがない。


「どうしたの? 早く行こう!」

「あ、うん」


 華奈に急かされた。……考えるのはあとにしよう。



 ◆



 クラス替えの表が張り出されている場所に着いた。華奈は転校生なので、名前は書かれていない。ただ、理系ということは教えてくれた。


「お、翔琉。華奈モ」

「おはよう、ロイ」

「おっはよう、ロールくん!」


 ロイと合流した。ロイは文系なので、別のクラスになる。


「華奈がいるなら安心だロ」

「ん? どういうこと?」

「赤崎も壊与も文系だったってこト」

「よかった……」


 壊与と同じ空間にいるだけで気持ち悪くなりそうだったから。


「ただ……」

「どうしたの?」

「……あいつらと同じクラスになっちまっタ」

「……ああ」


 それは気まずいだろう。ロイはこっちでいろいろあったことを知っているし。顔も合わせづらいだろう。


「……ン? おい、あレ」

「え? ……あ」


 校内に一本だけある桜の木。まだこの辺りの地域は開花時期ではないので、花は咲いていない。その根元に、女子が一人、立っていた。


「金髪だね」

「ここの校則ってあれ大丈夫なの? 私は地毛で茶髪なんだけど」

「派手じゃなければ大丈夫だったはず。地毛証明書があれば金髪もオッケー」

「よかったー。よく知ってるね」

「生徒会は真面目にやってるから」


 ……もう行く意味もないけど。生徒会長に頼りにされてるし、家に帰ってもやることがないから、続ける予定ではある。


「ところであいつっテ」

「……うん。わかってる」


 僕には最初見たときからわかっていた。四年以上も顔を知っているし、立ち方でもわかる。あれは──赤崎だ。

 赤崎は、艶やかだったロングの黒髪をばっさり切り、ショートカットになっていた。そして、金色に染め上げていた。清楚と呼ばれていた頃の面影はない。


「……」


 だが。美人であるのには変わりなかった。ギャル風になったものの、周りの注目を集めるほど、美しかった。


「……ダメだ」


 僕は裏切られたんだ。あの美人に。きれいな薔薇には棘があるように。見惚れてはいけない。


「ん?」


 誰かが赤崎の側に行った。……壊与だ。


「あの二人付き合ってるのかな!?」

「お似合いだよね!」


 新入生が騒いでいる。何も知らない人が見ればそう思うのだろう。だけど、僕は複雑な気持ちだ。


「……もう、行こう」

「そうだね」


 耐えられなかったので、校舎に入った。



 ■



「……」


 そのとき、赤崎が翔琉を見ていたのに気付いた人はいなかった。

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