第四話 高校一年のバレンタインデーと中学一年のバレンタインデー④了
周りからブーイングが止まらない。どうにもならない。赤崎さんが告白を撤回してくれる様子はない。しょうがない。袋叩きを覚悟だ。
「……わかりました。付き合いましょう」
彼女のチョコレートを受け取った。
「……うれしい!!」
そう言う赤崎さんは本当にうれしそうで。満面の笑みを浮かべる彼女に、周りのギャラリーも、文句を言う気力がなくなったようで、帰っていった。
「じゃあ、恋人になったからこういうことをしてもいいよね?」
そう言って、僕より少し背の低い彼女は背伸びをして、唇同士のキスをしてきた。彼女の甘い香りと柔らかい唇。僕は何も考えられなかった。
◆
「へっくし!」
雪で冷えたな。こたつこたつ。
回想終了。赤崎さんは、その後も猛烈なアプローチをしてきた。それに必死に応えた。勉強があまりできない僕に勉強を教えてくれて、同じ高校に行こう、なんて言って。高校に入ったら同棲しよう、なんて言われて。今、僕がいるアパートは、二人で住んでいた部屋だ。もうここに彼女の荷物はない。僕の右手の指輪。いつだったか、ペアリングを買った。僕には呪いの指輪に見えた。指輪を外し、ゴミ箱に放り投げた。
今日はもう寝よう。頭が熱い。考えるのをやめて、部屋着に着替え、ダブルベッドに横になった。
昼間の夢を見た。バスケ部の部室で、赤崎さんが男に抱かれていた。生徒会の仕事をするために、部室棟の前をたまたま通ったときだった。
「ああっ、そこ、いいのっ」
嬌声が聞こえた。緋の声だ──そう思った僕は、バスケ部の部室を覗いた。そうしたら。
「今日ってあいつとお前らが付き合って三年だったんじゃないか?」
「昔の男なんてどうでもいいのっ早くっ」
「しょうがないな、おらっ」
「あっ、あっ!」
僕の幼馴染の、
昔の男、というのは、冬休み中に、別れて欲しいと赤崎から言われて、別れていたから、僕のこと。冬休み中に彼女の荷物は新しく借りたアパートに移動された。
壊与は、簡単に言うとイケメン。美女の赤崎さんとは釣り合うな、と思い、その場を離れた。
「……ぶはっ!」
寝ている最中に呼吸が続かず、起きてしまった。思い出したくもない。手元にスマホを手繰り寄せる。時間を確認すると、夜中の三時だった。ロック画面…… 赤崎とのツーショット。ロックを外し、実家の犬のマロンに切り替える。アルバムを開き、赤崎が写っている写真をすべて削除した。
「……はあ」
ベッド。彼女と寝ていたダブルベッド。もうここでは寝られないな。ソファーに移動する。彼女と寄り添ってテレビを見たソファー。どこに行っても彼女の思い出が出てくる。結局、学校に行く時間まで寝られなかった。
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