第35話 アリスと巨乳と体力測定 後編

二人で手を繋いで外に出ると恭子が腕を組んで待ち構えていた。


「二人とも待っていたわよ。アリスは今のところどうなのかしら?愛華は頑張ってそうね」


「うん、私なりには結構いいと思うけど、愛ちゃんには負けっぱなしかも」


「そ、そうなのね。それは私も同じようなものだわ」


「えぇ、二人の方が凄いと思うよぉ。私なんてダメダメだし」


「大丈夫よ。世の中は運動能力より素晴らしいものがあるわ」


「愛ちゃんは選ばれた民だと思うし、きっといい事あるよ」


「ありがとう。ダメダメな私を励ましてくれる二人が大好きだよぉ」


そう言いながら愛ちゃんは二人を抱きしめていた。


私は柔らかいものに包みこまれて幸せな気持ちになってしまっていたが、恭子と目が合うとお互いに気まずい気持ちになって目をそらしてしまった。


ソフィーもよく抱き着いてくるんだけれど、愛ちゃんに抱き着かれた方が気持ちいいと思う。


「最初は五十メートル走だね。アリスちゃんと恭ちゃんのどっちが早いんだろうねぇ?」


「陸上部の意地にかけても恭子には負けないように頑張るよ」


「私だってバスケ部の意地があるわよ」


「ちょうど一緒に走れるし楽しみだねぇ」


私と恭子は二人でスタートラインに並ぶと一言二言言葉を交わしてスタートの合図を待っていた。


スタート音とほぼ同時にスタートを切った私はあっという間に恭子を置き去りにしてゴールラインを駆け抜けていった。


私よりも一秒ほど遅れて恭子がゴールラインを超えた。


「私も足の速さは自信あったんだけど、スタートが苦手なのよね。今回は完敗ね」


「今回は最高のスタートを切れただけだよ。こんなことって大会とかでも滅多にないからさ。隣に恭子がいたからかも」


さあ、二人で愛ちゃんのゴールを見届けよう。


愛ちゃんと一緒に走るのは恭子と同じバスケ部の好美さんで、小柄でスピード自慢の生徒だ。


タイム的な勝負では愛ちゃんに勝ち目はないのだけれど、あのお胸の力があればもしかしたら、何て考えてしまう。


スタートの合図を聞いた好美さんは愛ちゃんを気にすることもなくあっという間に加速していった。


隣に愛ちゃんがいたおかげで目立ってはいなかったが、好美さんも立派な物をお持ちのようで、ゆさゆさと左右に揺らしながらゴールラインに迫っていた。


一方の愛ちゃんも上下だけではなく左右にもバインバインと揺らしながらゴールラインに向かっていた。


私のタイムよりは少し遅れて好美さんがゴールラインを駆け抜けると恭子とハイタッチをしていた。


愛ちゃんがみんなのタイムから遅れてゴールラインを超えるとその場に座り込んでいた。


「もう無理ぃ。最後に持久走あるのがつらいよ」


「持久走は少し時間もあるし、他の種目も頑張ろうね」


「アリスちゃんも愛ちゃんもごめんね。恭ちゃんがワガママ言って勝負みたいになっちゃったんだもんね」


「ちょっと好美、私達の勝負に水を差さないで頂戴よ」


「大丈夫だよぉ。私もアリスちゃんも恭ちゃんの事好きだからさ。ね、アリスちゃん」


「う、うん。恭子の事は嫌いじゃないよ」


「素直じゃないなぁ。でも、好美ちゃんの事も好きだよ」


「ありがとう、他の種目も頑張ろうね。恭ちゃん行くよ」


「あ、待って。私も二人の事は好きなのよ。またあとでね」


昔はちょっとだけ嫌なことがあったけれど、みんな根はいい人達だし、真面目過ぎるんだよね。


恭子たちはハンドボール投げの方に行ったみたいだし、私達は立ち幅跳びに向かうことにしよう。


「次は立ち幅跳びにしようか?」


「そうだね、次は跳んでみよう!」


きっと大きな跳躍になるんだろうね。


私達は立ち幅跳びに挑戦することにしたのだけれど、結果を見るまでもなく私の方が遠くへ跳んだ。


私の方が遠くへ跳んだのだけれど、精神的には私は愛ちゃんよりも全然跳んでいなかった。


「立ち幅跳びって跳躍力にお胸の揺れも利用できるんだね」


愛ちゃん独特のフォームを見た私は無意識のうちに呟いていたらしい。


近くにいたクラスメートも何人か同調してくれていた。


誰も何も悪い事をしていないのに、この場にいるたくさんの人達の胸に謎のトラウマを植え付けた愛ちゃんは罪深い女だった。


私を始め大半の生徒は腕の反動を利用して跳んでいたのだけれど、愛ちゃんは腕の反動でお胸を大きく揺らして他の人よりも勢いよく跳んでいた。


しかし、あまりにも大きすぎるお胸は重力に逆らうことが出来なかったようで、途中で地面に吸い込まれるように落下していった。


まるで、悪魔がお胸を掴んで引っ張っているように感じるほど、勢いが落ちていたのも大きなお胸が原因なのかもしれない。


「もっと遠くまで跳べそうな気がしていたんだけど、思ったよりも跳べなかったよぉ」


「地球の引力には人間は勝てないから仕方ない話だよ」


「引力ってどうしようもないよね」


そう言いながら地面をペシペシ叩いている愛ちゃんは可愛らしかった。


私は自分の胸を見ながら何か悲しい事を考えてしまっていたが、空を見ると雲一つなかったので、晴れやかな気持ちになれそうでいた。


「あらあら、アリスが落ち込んでいるってことは、また愛華が凄い事を成し遂げたのね」


そう言って話しかけてきた恭子に対して私が出来ることは、頷いて立ち去る事だけだった。


大きなものを揺らしながら後を付いてくる愛華が私の手を取って、そこそこの人が並んでいるハンドボール投げの列に並んだ。


持久走まではまだ時間に余裕があったので、ハンドボール投げを終わらせたら少し休みたいなと思っていた。


愛ちゃんも同じ考えだったらしく普段は行動テンポがゆっくり目なのだが、今回は意外とキビキビと投球を終えていた。


お胸の力がボールに乗り移ったのかはわからないが、私より八メートルも遠くに飛ばしていたのがさらに意外だった。


今日の体力測定で試合にも勝負にも負けたのは初めての事だった。


「やったぁ、いっぱい遠くまで跳んだよぉ。アリスちゃんより遠くまで跳ばせた」


そう言って喜んで飛び跳ねているお胸を見ると、私は本当に負けたんだなと自覚するしかなかった。


「おめでとう。最後は持久走だから時間まで少し休んでようか」


「うん、アリスちゃんも疲れているだろうし恭ちゃん達をさがしてみよう」


「恭子なら多分、職員玄関の近くにいるんじゃないかな?」


「そうなんだぁ、そこにいるといいな」


愛ちゃんは私の腕に柔らかいものを押し付けながら抱き着くと、そのまま職員玄関の方へと歩き出した。


この子は天然で押し付けているのか、計算で押し付けているのか、そんなことは重要ではなく、私が同性だとしても嬉しい気持ちは隠せなかった。


悲しい気持ちは隠し通せていると思うけれど。


グラウンドから見える職員玄関付近に恭子はいなかったのだが、いつもの場所にはきっといるはずだった。


「あれれ?恭ちゃんいないねぇ」


私は玄関を越えてさらに奥に進んでから、奥の方を指差した。


「恭子ならこっちにいると思うよ」


「そうなんだ、恭ちゃんはよくこっちにいるのかなぁ?」


「たまにいるみたいだよ」


壁伝いに歩いて行って最初の角を曲がると、そこには一本の木が生えていて、その近くに恭子と好美とおそらく女子バスケットボール部の部員と思われる人達がいた。


「あ、本当に恭ちゃんたちいたよぉ」


愛ちゃんが驚いていると、恭子たちも驚いていた。


「なんでアリスがここに来るんだよ」


「持久走までまだ時間あるし、いいじゃない」


「まあ、ここは私達専用の場所じゃないから文句はないけどさ。愛華はどこに居たっていいんだからな」


職員玄関裏には一本の桜の木が生えていて、五月の半ばになると毎年綺麗な花を咲かせているのだった。


この学校が出来た時には他にも何本か桜の木があったらしいのだけど、校舎を増改築した時にこの一本を残して伐採されたらしい。


「この桜は、女バスの先輩たちも大事にしててさ、私達も何かあるときはここに来たりするんだよな」


「何か伝説でもあるの?」


「そう言うのは無いけれど、冬を乗り越えて毎年綺麗な花を咲かせているのを見ると、私達も頑張ろうって気持ちになるんだよね」


桜の幹を優しく撫でながら恭子はそう言うと、周りの女子バスケットボール部部員たちも頷いていた。


「そうなんだ、それなら大事にしないとだね。アリスちゃんの陸上部でもそう言うのあるの?」


「うちは特にそう言ったことはないけれど、私も小学生の時にこの桜を見てから何か感動してた記憶があるよ」


「私だけちゃんと桜見てないのかぁ。来年はみんな高校生になってるけど、桜の花を見に来ようよ」


愛ちゃんがそう言うと、恭子以外の部員たちも賛同してくれていた。


学校の敷地なので宴会のようなことは出来ないけれど、フェンス越しに見るくらいなら大丈夫だろう。


校内放送で持久走の案内が流れているのを聞いた私たちは再びグラウンドに向かうことにした。


女子の持久走は千メートルなので、中距離が得意な私が一番楽しみにしていた競技でもある。


恭子はバスケで走る事には慣れているかもしれないけれど、連続して走り続けることは慣れていないと思うので、ここで点差を逆転しないと私が恭子よりも下になってしまう。


愛ちゃんは持久走も苦手そうなので、もしかしたら一周差を付けられるかもしれない。


追い抜くときは後ろから声をかけて道を譲ってもらうことにしよう。


持久走はクラスごとに走る事になっているので、私達一組は一番最初に走る事になる。


軽く動きながら体を温めている時も、愛ちゃんのお胸が暴力的に揺れていた。


きっと、私と同じことをしているのだけれど、完全に違う動作が一つ加わっていた。


それを見ていた恭子と目が合ったのだけれど、二人とも目の奥に哀しい光を灯していたと思う。


私はいつものペースで走っていれば十点は確実なのだけれど、問題は恭子との点差が一点しかないので、恭子のタイム次第で逃げ切られてしまうかもしれない。


「二人の点数がほとんど一緒なんだねぇ。同じ点数で終わったら引き分けになっちゃうね」


「そうね、アリスが去年のままだと思っていたけど、身長は変わらないのに体力はついているようね」


「恭子だって去年より凄い成績残しているじゃないの。やっぱり部長だと違うんだね」


「もう、最後なんだからってムキになって無理しちゃだめですよ。終わったら仲良くしなくちゃだよ」


愛ちゃんはその豊満なお胸をアピールするかのように両手を腰に当ててお胸を突き出していた。


私と恭子は若干だけど戦意喪失しかけていた。


愛ちゃんの隣にいる好美さんを見てから自分たちの胸を見ると、有る人と無い人の差が思っていたよりも大きい事に改めて気付くことが出来た。


「さあ、持久走の始まりだ」


何となくアニメっぽい感じで場を切り上げた好美さんに着いてスタートラインに並んだ。


自信のある人からインコースに並ばせてもらえたので、私は一番インコースで隣は恭子だった。


本当は恭子よりも早い生徒がいるのだけれど、私達の勝負の話を知って恭子に譲ってくれたらしい。


スタートの合図と同時に恭子が猛ダッシュを決めて抜け出したのだけれど、半周も走れば追いつけそうな感じだった。


グラウンド中央に作られたコースは一周二百メートルなので五周しなくてはいけないのだけれど、何人か恭子に釣られて飛び出していた。


最初のコーナーが終わるときにチラッと後ろを確認すると、愛ちゃんは最後尾で大きなお胸を揺らしていた。


いつものペースで走っていると、少しずつ恭子たちの集団に追いつきそうになっていたのだけれど、私が近づくと恭子は少しだけペースを上げて離れていった。


私も無理をすれば一週目で追いつけそうだとは思ったのだけれど、後半が辛くなりそうなのでペースを変えずに走る事にした。


これは大会ではなく自分との闘いなのだから、他人と競う必要もないのだ。


私が二週目に入った時には愛ちゃんとの差がそれほどなかったので、意外と愛ちゃんも頑張って走っているようだ。


相変わらずお胸は上下と左右に暴れまわっていたのだが、他のクラスの女子達も愛ちゃんのお胸の動きに圧倒されているようだった。


私は同じペースで順調に走っているのだけれど、恭子たちの集団に追いつきそうになっても恭子以外の人達はあまり加速しなくなっていた。


二週目最後のコーナーで一人を抜くと、直線に入った時には加速するのを諦めたのか、右によって内側を開けてくれていた。


三週目最初のコーナーでコースの先を確認すると、私の前を走っているのが好美さんで、その少し前を恭子が走っていた。


半周くらい先を走っているのが周回遅れになりそうな愛ちゃんだった。


コーナーを抜けて直線に入ると、好美さんはペースを若干落として左側のレーンを開けてくれた。


好美さんを追い抜くときに軽く右手を振ると、好美さんもそれに答えてくれた。


三週目最後のコーナーに入ると恭子はまた加速したのだけれど、最初のころよりは勢いもなくコーナーを抜けるころにはほぼ真後ろの位置まで追いついていた。


それでも頑張る恭子は道を譲ろうとはせずに加速を繰り返していたのだけれど、そんなに何度もスパート出来るはずもなく、四週目最後のコーナー手前で諦めて道を譲ってくれた。


「左から失礼」


そう言いながら恭子を抜くと、恭子は何か言いそうな顔をしていたが疲れていて何も言い返してこなかった。


恭子を抜いた後も私はペースを変えなかったのだけれど、恭子との差は少しずつ開いて行っていた。


さあ、この種目で唯一の目標である愛ちゃんを射程圏に捉えたのだけれど、後ろ姿なのに暴れているお胸の動きが見え隠れしていた。


私はなるべく平常心で近付いていくと、愛ちゃんが私に気付いたようで、両肩がビクッと上がっていた。


後ろを軽く振り返った愛ちゃんが私の姿を確認すると、少しだけスピードを上げて離れようとしていた。


「アリスちゃん、私より先に行っちゃだめだよぉ。私も頑張るから一緒に行こうよ」


「ごめんね、愛ちゃん。私は先に行かなくちゃ気が済まないんだ。だから、先に行くことを許してね」


愛ちゃんは悲しそうな目で訴えてきていたが、コーナーに入りそうだったので後ろに付くことにした。


軽く後ろを確認すると、恭子はもうスピードを上げずにペースを保って走っていた。


「愛ちゃん、コーナーを抜けたら私は左から行くね」


「え、まって、一人で行っちゃイヤだよ。私もアリスちゃんと一緒に行きたいよ」


「ごめんね、私と愛ちゃんじゃコレの経験数が違いすぎるからわかるんだけど、私の方が先に行けないとおかしいんだよ」


「そんなぁ、私もアリスちゃんと一緒がいいよ」


「大丈夫、愛ちゃんは自分のペースで行けばいいんだからね」


「一人でなんて嫌だよ。一緒に行こうよ」


「もう少しでコーナーも終わるから、直線になったら右に寄ってね」


「え?え?本当に行っちゃうの?行っちゃイヤだよ」


「ごめんね、自分勝手化もしれないけれど、恭子との勝負に負けちゃうからさ。愛ちゃんならわかってくれるよね?」


「もうコーナー終わっちゃうよ。アリスちゃんが先に行っちゃうよぉ」


コーナーが終わって直線に入ると愛ちゃんが少しだけ右側に寄ってくれた。


私はそのまま内側を走る事が出来た。


「左から失礼」


そう言いながら右手を軽く上げると、愛ちゃんの暴れるお胸が右手の甲に当たった。


「あぁ、アリスちゃんが一人で先に行っちゃうぅ」


寂しがる愛ちゃんの声を聞きながら私はラストの一周に向かった。


ラスト一周もペースを乱すことなく走り切った私は予定通り満点を獲得したので、恭子がどれくらいのタイムでゴールするのかが勝敗を分けることになった。


点差が一点なので恭子が四分三秒以上のタイムだと私の勝ちが決まるのだ。


肩で息をしながら走っている恭子を見ていると、ペースは変わっていないのだけれど、最終コーナー手前で好美さんに抜かれていた。


普通に自分のペースで走っていればそんなことはなかったと思うので、前半から中盤にかけての無理な加速がここにきてダメージを与えているようだった。


恭子を交わした好美さんはそのままのペースを保ったまま恭子に抜かれることなくゴールラインを越えて、恭子は少し遅れてゴールしていた。


結果として私の方が点数が上になったので、二人の勝負は私が勝つことが出来た。


「お疲れ様。恭子は自分のペースで走ればもっとタイム良かったと思うよ」


私の問いかけに答えようとしているようだが、息が整っていない恭子は軽く返事をするだけで精一杯のようだった。


「恭ちゃんはさ、アリスちゃんの事になるとムキになっちゃうもんね」


好美さんがそう言うと、恭子は好美さんを睨んでいたが、首を横に振っていた。


「はぁ、はぁ、確かに、アリスとの勝負で、勝てるかもと思ったけど、やっぱり、バスケと陸上は、違うわね」


私に笑顔でそう言うと、恭子はその場に座り込んでしまった。


「ってか、左から失礼ってなによ?」


息も整って落ち着きを取り戻した恭子が訪ねてきたので、私は何となく言ってみたかったと答えると、恭子は「あっそ」とだけ返してきた。


そんな恭子は昔から勝負事が終わると、どんなことでも水に流して仲良くなることが出来る人だった。


恭子の横に座ってまだ走っているクラスメートたちを見守っていると、愛ちゃんが最後のコーナーに入るところだった。


走っている時は後ろ姿しか見ていなかったのだけれど、正面から見ていると、愛ちゃんのお胸が上下と左右に激しく揺れているのがはっきりと分かった。


最後の直線に入ると愛ちゃんのお胸がさらに上下に揺れていて、見ている私達も自然と顔を上下に動かしていた。


恭子がゴールしてから一分以上遅れてゴールした愛ちゃんは、当然のように勝負で最下位になっていた。


持久走の結果を見るまでもなく最下位は確定していたのだけれど。


ゴールしてから私たちの姿を見つけた愛ちゃんは走ってはいるのだろうけど、歩くのとほとんど変わらないスピードでこちらに向かった来た。


スピードは遅くてもお胸は激しく揺れるんだなと思っていると、愛ちゃんは座り込んでいる私に正面から抱き着いてきた。


座高もそれほど高くない私に倒れ込むように抱き着かれれると、その大きなお胸が私の顔を包みこむことになった。


以上に柔らかく大きいお胸に包まれた私は思うように呼吸が出来ず、持久走や反復横跳びの時よりも息苦しくなっていった。


「もう、イヤだって言ったのに一人で先に行っちゃイヤだよぉ」


そう言ってきつく抱きしめてくれていたのだけれど、私は息が出来なくて意識が遠のきそうになっていた。


もう少しで意識が飛びそうになっている時に、誰かが愛ちゃんの肩を叩いて私を助けてくれた。


「ごめんね、でも、勝負に負けたくなかったからさ」


「うん、それはわかっているけど、一人はイヤだよぉ」


今にも泣きそうな愛ちゃんの頭をポンポンと叩くと満面の笑みを浮かべていた。


「今日の体力測定も終わったし、もう少しで帰れるね。ねえ、アリスちゃんはご飯とお風呂ならどっちを先にしたい?」


「えっと、一回帰ってからシャワーを浴びようかな」


そう答えると愛ちゃんは私の肩を強く掴んできた。


「アリスちゃん、私は一人はイヤだなぁ」


そう言っている愛ちゃんの目は笑っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る