第14話 悩める鈴木さんと金髪少女と先生 その4(全14話)
空よりも綺麗な青い目の少女はちょっとだけ意地悪な笑顔を見せながらこちらに駆け寄ってくると、僕の手を掴んで教室の外へと連れ出した。
「早く部活の教室に行かないと美波ちゃんが待ってるかもよ!!」
ソフィアさんの手は透き通るような白さなのに、意外と温かく柔らかかった。
夏の暑さがソフィアさんの体温を上げているのだろう。
握っていた手を放して立ち止まったソフィアさんは、いつもより赤みがかかった頬を伝う汗をハンカチで拭うと
「マサ君先生のせいで汗かいちゃった。美波ちゃんも会議で大変だろうし何か飲み物買ってから部活の教室に行くことにしようかな。でも、今日はお金を持ってきていないんだった。このままだと、みんなのどが渇いて倒れちゃうかもしれないな」
「視聴覚準備室に行くとお茶があるよ」
「日本のお茶は美味しいんだけど、こう暑いと冷たいものの方が美波ちゃんも嬉しいんじゃないかな。きっと、ね」
小銭入れを探ってみることにすると、運の悪いことに五百円硬貨が一枚入っていた。
他に小銭は百三十円しかないので五百円硬貨を渡すことになってしまった。
「マサ君先生ありがとう、大好きだよ」
そう言ってソフィアさんは購買のある一階へと降りて行った。
その姿を見ていてもお金は戻ってこないことを知っているので、僕はそのまま何も考えずに職員室へと向かった。
資料を机の中に入れてから視聴覚準備室の鍵を借りてこよう。
出勤前にアイスコーヒーにするかアイスカフェモカにするか悩んでいた時の自分に伝えられるとしたら、今日だけはアイスカフェモカにしておけと伝えたい。
そうすればソフィアさんに渡すお金は五百円硬貨ではなく百円硬貨三枚で済んだはずなのだ。
五百円ならジュースを三本買ってもお釣りでお菓子が買えてしまう。
ここの購買にはソフィアさんが好きなチョコの入っているお菓子があるので、きっと、おそらく、たぶん、かなりの確率でそのお菓子としょっぱいお菓子を買ってくると思われる。
せめて、部活用の領収書を貰ってきてくれたなら何とか心は平穏を取り戻せるだろう。
もちろん、部活の経費としては認められないと思うのだが。
僕はお金のことなど頭の片隅にすら思い浮かべずに職員室の自分の席に向かった。
途中にカラスの鳴き声が聞こえてきたのだけれど、余計に財布の中身が寂しくなっていった気がしていた。
僕が飲みたいジュースの指定を忘れてしまったことに気付いたのはずっと先の事であったのだが、それを伝えたところで未来が変わることは無いと理解だけはしていた。
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