第15話 悩める鈴木さんと金髪少女と先生 その5(全14話)

自分の席に資料などを置いて視聴覚準備室の鍵を取りに行こうとすると、芳野先生と目が合った。


「芳野先生お疲れ様です。うちのクラスの生徒に聞いてみたんですが、田村さんの事を何か知っている生徒は今のところいないみたいです。力になれずにすいません」


「いえいえ、ありがとうございます。何かわかりましたらよろしくお願いしますね」


その後も軽く会話のやり取りをしていると、三組の生徒が芳野先生を訪ねてきた。


職員室を出て視聴覚準備室に向かう途中に生徒会室の前を通ると、話し声が聞こえてきたので会議はまだ終わっていないようだった。


視聴覚準備室に着くとすでにソフィアさんが待っていて、両手に袋をぶら下げていた。


僕の姿を見つけると、おそらくお菓子が入っている方の袋を掲げて左右に振って見せつけてきた。


やっぱりお菓子は買っているんだなと思ったのだが、五百円分にしてはお菓子が多すぎるような気がしていた。


「お待たせしたね。おや、その両手に持っている袋の中身は何かな?」


「もう、マサ君先生はのんびり屋さんなのかな?待たせてはいけないと急いでお菓子選んできたのに結局私が待つことになっちゃったね」


「おやおやおや、五百円を全部使っちゃったのかな?」


「うん、マサ君先生がくれたお金はちゃんと考えて使ったよ」


「そんなにたくさんお菓子かって五百円で足りたのかな?」


「えっと、甘いお菓子としょっぱいお菓子で悩んでたんだけど、その二つは買えることに気付いたのね。でも、新発売のグミが気になってしまって、グミを買うには百円足りなかったの」


「うむうむ、ではどのお菓子を諦めたのかな?」


「えっとね、お菓子は諦められなかったの。中学の時の先生が言ってたんだけど、日本には一期一会って言葉があって、その時その時の出会いを大切にしなくちゃいけないんだよ」


「つまり?」


ソフィアさんは持っていた袋を二つとも僕に手渡すと、僕の耳もとに向かって優しく


「ごめんなさい。マサ君先生のジュースは買えませんでした。でも、美波ちゃんが美味しいお茶を淹れてくれるので大丈夫です」


そう囁くと青い目をした金髪の悪魔は先ほどまで持っていた荷物と引き換えに、僕の手から奪った視聴覚準備室の鍵を使って中へ入っていった。


締め切られた空間は予想以上に熱くなっていたのか、入り口で一瞬だけ立ち止まったものの何か罪悪感のようなものを感じていたのだろう、こちらを一瞥するとそのまま入り口横のエアコンのスイッチを入れた。


生徒は知らない事なので仕方ないが、職員室にある管理パネルでもこの部屋のエアコンを動かすことは出来たのだった。


普段の夏だと窓を開けるだけで風が通って涼しい事もあり、エアコンを使う機会がほとんどないため忘れていた。


室温が下がるまではもう少し時間がかかりそうではあるが、鈴木さんはまだ会議が終わらないだろうし少しだけゆっくりしておこう。

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