第41話 金髪と会長と美少女 その6(全7話)

「ちょっと、島崎君って鈴木さんに対する当たりが強くない?いつ見ても心配になってしまうべさ」


そう言いながら視聴覚準備室に入ってきた葵さんは、当然のように西野さんの隣に座って、今は西野さんが使っている湯呑のお茶を飲んでいた。


その直後にキノコのお菓子を見つけて葵さんは嬉しそうにお菓子を口に運んでいた。


「このお菓子買ってきたのはアヤメかい?あら、金髪ちゃんが選んできてくれたって?いやぁ、本当に嬉しいっしょ」


そう言いながら葵さんはソフィアさんにウインクをしていた。


僕ら二人がタケノコ派だと伝えると、葵さんは嬉しそうにキノコを独占していた。


「普段はあまりお菓子食べないようにしているから、こうやってもてなされるのは嬉しいもんだねぇ。先生も金髪ちゃんもありがとうね。生徒会に遊びに来たときは何かお礼するしかないべさ」


「お菓子を選んだのはソフィアさんなんで、ソフィアさんが遊びに行くといいんじゃないかな。お友達の鈴木さんもいるし、ちょうどいいと思うよ」


「え?う、うん。今度誘われたら行ってみますね」


あれだけ有ったキノコがあっという間に狩りつくされていたのだけれど、今度はしょっぱいお菓子を見つけた葵さんのテンションはさっきよりも上がっているようにかんじた。


ソフィアさんが袋に入っているお菓子をお皿の上に並べると、それを葵さんと西野さんの前に差し出した。


「いやぁ、こんだけもてなされるってありがたいねぇ。一杯あるんだからアヤメも呼ばれたらいいっしょや」


「そうね、私も一ついただくとするわ。その前にお茶貰ってもいいかしら?」


「あ、はい。みんなの分も新しいお茶を淹れますね」


ソフィアさんがお茶の用意をしていると、葵さんがそっと隣に立ってソフィアさんのお手伝いをしていた。


その様子はどこか甲斐甲斐しくもありいつまでも見ていられるような安心感もあった。


二人が淹れてくれたお茶は心なしか先ほどよりも美味く感じていた。


「ねえ、マサ君先生はお茶を淹れるのに最適な温度と蒸し時間があるって知ってた?」


「何となく聞いたことはあるんだけれど、正確なやつはわからないかも」


「私は会長さんに聞いたからわかったんで、今度みんなにお茶を淹れる時にも試してみるから、他のみんなには内緒にしておいてね」


ソフィアさんは教えてもらったお茶の入れ方を忘れないようにメモにまとめていた。


お茶の入れ方を教えたことによって、次からソフィアさんの入れるお茶は葵さんの好みになっているのだろう。


西野さんが言っていた無意識のうちに葵さんが望むように周りが変わっていくとは、こういう小さな変化の積み重ねなのかもしれない。


葵さんがお茶請けのお菓子を食べ終わって一息ついた時に、部活を終えた齋藤さんが入ってきた。


「外が使えないと思いっきり走れないからストレス溜まっちゃって、いつもより筋トレしちゃったよ。って、葵先輩と西野先輩じゃないですか。こんなところでどうしたんですか?」


「ノックもしないで入ってくるのは良くないと思うよ。中学の時にちゃんと教えたっしょや。礼儀は大事なんだっていつも言ってたべさ」


「そうね、齋藤さんはちょっと豪快なところがあるんだけれど、それも彼女の魅力の一つだとは思うわ」


「うん、ナナは女子力高いんだけどそう言うところが残念だよね」


部屋の入り方一つで齋藤さんはソフィアさんにまで怒られていた。


僕も何か言おうと思ってはみたものの、特にこれと言って何も思い浮かばなかった。


「ごめんなさい、今度から出来るだけ気を付けます。お詫びじゃないんだけれど、昨日作ったクッキーあるんで食べてください」


お茶請けが無くなって少し寂しそうにしていたソフィアさんと葵さんの目が一瞬にして輝くのがわかった。


「ナナって本当によく気が利くよね。夏休みとかも色々助けてもらったしね」


「そうだね、齋藤は本当に気が利くと思うよ。中学の時の部活でもタオルとかよく持ってきてくれてたべさ」


「ええ、齋藤さんは他の人達よりも早く私達に何かしてくれていたわね」


先ほどとは一変して、齋藤さんの評価が三人の中で急上昇しているらしい。


ほとんどお茶請けを食べていない西野さんが喜ぶのはわかるけれど、ソフィアさんと葵さんは食べすぎなのではないかと心配してしまった。


僕も一つ食べてみたのだけれど、今日のクッキーは隠し味に何かが入っているらしく、ほのかに抜ける甘い香りが心地よい感じになった。


齋藤さんはバリバリの体育会系女子ではあるのだけれど、休日の日はお菓子作りをしてみたり、流行の店に行ってみたりと、この部活のメンバーの中でも一番女子力が高いと思われる。


「ナナのお菓子ってお店で売ってるやつよりも美味しくてカロリーも低いから大好きだよ」


そう言いながら齋藤さんの腰に抱き着いているソフィアさんの頭を齋藤さんは撫でていた。


あっという間にクッキーが無くなってしまったのだけれど、齋藤さんはもう一袋あったクッキーをお皿の上に並べてくれていた。


「こっちはちょっと焼きすぎて失敗したんで先生にあげようと思っていたんですけど、良かったらみんなで食べましょう」


齋藤さん、多少であれば焼きすぎてもあなたの作るクッキーは美味しいから僕は大丈夫ですよ。

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