第42話 金髪と会長と美少女 その7(全7話)

「そう言えば、会長さんは美波ちゃんとどうなりたいんですか?」


「バカ、この金髪。齋藤の前でそんなこと言ったらまずいっしょ」


「あ、葵先輩が美波の事好きだろうってみんな知ってますよ」


「そうね、それを気付いていないのって咲良と鈴木さんくらいだと思うわよ」


葵さんは頬を膨らませて怒っているようだった。


西野さんと齋藤さんを睨んだ後に、僕もなぜか睨まれていたが、ソフィアさんの方に怒っている顔を向けることはなかった。


「葵先輩って美波の事を中学んの時から知ってましたよね?でも、なんで私達が高校に入るまでそんなそぶり見せなかったんですか?」


「いやいや、そんなの言うわけないっしょや」


怒っていた葵さんは照れてしまっているようで、今は俯いてしまっている。


「そうね、私も咲良が鈴木さんの事が好きだって知ってはいたけれど、そのきっかけが何なのかは知らないわね」


「えっと、本当に些細なことで気になっちゃったんだよね。中学の時からちょくちょく陸上の応援に来ていたのは知っていたんだけど、その時と高校に入ってからの鈴木さんは別人かと思うくらい綺麗になってたべさ」


「美波ちゃんってスタイル良いし、高校に入ってから髪型変えて大人っぽくなったもんね。会長さんもそんなところに惚れたんですか?」


「ばか、そんなこと言うなって。確かに、中学の時と髪型が変わって大人っぽくなってたけれど、それだけじゃないっしょ。新入生代表と在校生代表で一緒に並んだ時に、今まで嗅いだことのない良い匂いがしたんだべさ」


「良い匂いってそれだけで惚れちゃうのわかるかも。それに、美波って見た目も性格も良いから葵先輩の隣にいても違和感ないですよね。葵先輩と西野先輩と美波が並んで歩いていても、違和感とかなさそう」


「齋藤も金髪ちゃんがいても違和感はないと思うっしょ。でも、そこに先生がいたら違和感ありありだべさ」


「マサ君先生と一緒にみんなで遊んだら結構ヤバめかもね」


僕はおそらくこの子達とどこかに遊びに行ったりはしないと思うけれど、アリスとは最近でも何度か遊んだりしているので、もしかしたらその可能性があるのかもしれない。


「でも、金髪ちゃんも甘くて良い匂いしてるっしょや。普段から甘いものばっかり食べてたりして」


葵さんがそう言いながら笑っていると、ソフィアさんは褒められているのか貶されているのかわからなくて困っている表情だった。


外を見るとまだまだ雨は弱くなる気配を見せてはいなかった。


いつの間にか風が出てきたのか、窓に当たる雨粒の数が増えていた。


「ところで、私は鈴木さんに何て言えばいいとおもうかな?仲の良い二人なら何とかわかるんでないべか?」


「そうですね、美波ちゃんにはハッキリと伝えるのは良くないかもしれないです。友達としての好きなら大丈夫だと思いますよ」


「それはどうしてそう思うのかな?」


「前に美波ちゃんが言っていたんですけど、大学を卒業して生活に慣れてくるまでは恋人とか必要ないって言ってたよね?」


「うん、私もソフィーと同じことを聞いているので、恋人同士ってのは難しすぎると思いますよ」


「それなら今まで通りか少しだけ距離を詰めてみるか悩むね」


どうにかして僕の関わる人たちが幸せになってほしいのだけれど、物理的にも精神的にもそれは難しそうだった。


葵さんと鈴木さんが並んで歩いている場面を想像してみると、なかなか絵になっているカップルにも見えていた。


葵さんが幸せになったからと言って鈴木さんは幸せになれるかわからない。


それでも、鈴木さんは葵さんと仲良くなっても二人だけでどこかに出かけたりはしなさそうだった。


「じゃあ、鈴木さんに告白はしないんだけれど、今よりも仲良くなるためには何かした方がいいべか?」


「美波ちゃんのタイミングもあるだろうし、会長さんの気持ちもありますもんね」


「そうだ、ハッキリとではなくそれとなく伝えるって言うのはどうでしょう?」


「そんなことは毎日してるのよ。咲良って恥ずかしがり屋なところもあるんだけれど、恥ずかしがり屋が嘘だろうって勢いで、鈴木さんの事を褒めちぎっているわ」


そう言えば、生徒会役員のあいさつ回りの時にも、葵さんは鈴木さんのどこかを必ず褒めていたような気がしていた。


他にも新しく生徒会に入った生徒もいたのだけれど、鈴木さんの近くにいつも葵さんがいたような気がする。


鈴木さんは見た目だけではなく雑務なども見事にこなしていて、今のように会長と副会長が生徒会室に居なくても仕事が滞る事はないようだ。


「今は生徒会室に葵先輩も西野先輩もいないけど、他の人達に任せっきりで大丈夫なんですか?」


「それは大丈夫でしょ。私が色々やった事を纏めてもらうだけだからね」


「それが一番大変なんじゃないのよ。咲良って何でも出来る方だけど、何でも出来すぎちゃうから、どこから手を出せばいいか迷っちゃうわよ」


「そんなこと言われたって、目の前で問題が起きていたらどうにかしたくなるっしょや。そりゃ、みんなが楽出来たらいいとは思うけれど、私達は他のみんなのために何かできるんだから、何かしなくちゃいけないっしょや」


「そうなんだけれど、咲良は出来ることをやるだけで、報告書にまとめたりするのは苦手なのよね。そんなので大学受験は大丈夫なの?」


「うう、そこを出されると何も言い返せないけど、何とかなるっしょや。ダメでもなんとかするって」


「もう、そろそろ次の生徒会長を決める時期なのに、このままじゃ引き継ぎも出来ないじゃない」


「次の生徒会長って今の生徒会役員の中から決めるんですか?」


「そんなことは無いわよ。生徒会長選挙はこの学校の生徒なら誰でも立候補できるんだし、金髪ちゃんだって候補の一人よ」


ソフィアさんが生徒会長になったらと考えてみると、きっと今みたいな時間は無くなって僕が自由に出来る時間が増えるんじゃないだろうか。


もしかしたら、今みたいにソフィアさんをサポートする役目が新たに与えられて忙しくなるかもしれないな。


「でも、私の中では葵先輩以外が生徒会長って違和感しかないですけどね。中学の時も高校の時も、葵先輩ってずっと会長でしたもん」


「まあ、そうなんだけど、私だって普通に会長じゃない時期もあったっしょや。齋藤が生徒会長に立候補すればいいっしょや」


「私は陸上で一杯一杯なんで葵先輩みたいにはなれないと思いますよ。勉強だってそんなにできているわけじゃないですからね。美波じゃダメなんですか?」


「鈴木さんは何の問題もなく出来ると思うんだけど、鈴木さんの魅力が今以上に発揮されたらみんな好きになっちゃうべさ。そうなったらライバル増えちゃうっしょや」


鈴木さんならライバルが増えたとしても葵さんとの仲を優先させそうだとは思うんだけど、恋愛よりも友情優先な感じなので、葵さんの熱い思いは届かなそうではある。


その時、勢いよくドアが開かれると、鈴木さんが視聴覚準備室内に入ってきて、葵さんと西野さんの前に仁王立ちしていた。


「会長!!会長がいないと仕事が終わらないんですよ!!副会長もです!!早く戻って仕事を終わらせて帰らせてください」


そう言って鈴木さんは葵さんと西野さんの腕を引っ張っていた。


「ごめんなさいね。ちょっとだけ咲良がみんなに相談あるみたいだから、もう少しだけ許してちょうだい。私は先に戻るからさ、鈴木さんも行きましょう」


怒っている鈴木さんを見るのはずいぶんと久しぶりな気がしていた。


鈴木さんに手を引かれながら生徒会室に向かう西野さんはこちらに向けて軽く手を振っていた。


それを見ていた葵さんは少しだけ嬉しそうな表情をしていたような気がする。


ソフィアさんも齋藤さんも鈴木さんが怒っている姿を見るのは久しぶりだったのだろう、少しだけ驚いているように見えた。


そんな中、葵さんは誰に話すでもなく言葉を発していた。


「あぁ、鈴木さんが困っている姿を見られるのもあと少しだけなのか」

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