第40話 金髪と会長と美少女 その5(全7話)
葵さんが鈴木さんの良いところ一つ言うと、なぜかソフィアさんも張り合って鈴木さんの良いところを一つ上げていた。
このままだと何も進まないんではないかと思っていた時に、生徒会副会長の西野さんがやってきた。
「咲良、ちょっと大変なことになってるんだけど、生徒会室に行ってもらってもいいかしら?」
「え?何があったの?」
「鈴木さんと島崎君がちょっと揉めちゃっているの」
「わかったわ。島崎君を注意してくればいいのね」
そう言うと同時に葵さんは外へ飛び出していった。
なぜか西野さんは葵さんの後を追うことはなかった。
「咲良が二人に迷惑かけてごめんなさいね。あの子も自分じゃわかっていないんだけれど、ちょっと変わった趣向を持っているのよね」
「あ、あの、同性を好きになるのはちょっとわかるかもしれないけれど、今の時代はそう言うのも認めてあげないといけないって言うか、私も美波ちゃんとかナナが好きだけど、私の好きと会長さんの好きは違うような気がしています」
ソフィアさんが珍しく歯切れの悪い事を言っていたのだけれど、西野さんはソフィアさんの事を気にせずに続けた。
「それもあるんだけど、もう一つ面倒なことがあるのよね。私に対してはそんなこと無いんだけれど、見えないところで被害に遭っている人もいたりするのよね」
西野さんは先ほどまで葵さんが使っていた湯呑にお茶を淹れると、一息ついてゆっくりと語りだした。
「最初は何だか変だなって違和感を感じたんだけれど、本当はもっと前から何かあったのかもしれないの」
西野さんは湯呑の縁を指の腹でなぞりながら何かを思い出そうとしているようだった。
「私と咲良は幼稚園の時から友達なんだけれど、咲良は昔から顔もスタイルも良かったのよ。でも、普通だったら誰かに嫉妬されたりすると思うんだけれど、誰からも嫉妬されることはなかったと思うわ。私が知っている限りではあるけれどね」
「それは何となくわかります。私も美波ちゃんとかナナと比べると羨ましいなって思う部分はたくさんあって、見方を変えたらそれは嫉妬なんじゃないかなって思います。でも、会長さんを見ていると、嫉妬とか憧れとかではなく、崇拝に近いものを感じているような気がします」
確かに、葵さんは入学式の時から外見だけではなく成績も良かったので、他の生徒たちよりも目立っていたような気がする。
いろんな中学校から生徒はやってきているのだから、全員が葵さんの事を知っているはずがないのだけれど、葵さんはどこか特別な生徒のような感じがしていた。
僕は葵さん達のクラスを担当したことが無いのでわからないけれど、葵さんのクラスを担当した教師は一人の例外もなく葵さんを褒めていた。
時々開かれる会合などでも、葵さんのクラスを担当している教師からいろいろな噂を聞くことが多かったので、一年生の後期から生徒会長に選ばれたことは特別違和感を感じていなかったと思う。
それがカリスマ性なのか産まれ持った人徳なのかはわからないけれど、葵さんと話した感じではどこにでもいる田舎の高校生と言った印象を受けた。
「咲良は見た目も良いけれど、中身はもっと素晴らしいのよ。でもね、一つだけ理解出来ない事があるのよ。それは咲良自身も気付いてはいないと思うのよ」
「それってマイナスなことですか?」
「本人は無自覚なんだけれど、相当なマイナスだと思うわ。でも、本人も周りもそれに気付いていない人の方が多いと思うのよ」
生徒だけではなく教師からも愛される生徒会長である葵さんにある、ずっと一緒にいる西野さんでも理解できない事とはいったいどんな事なんだろう?
ソフィアさんもそれが何なのか気になっているようではあるが、葵さんに出す予定のお菓子を西野さんに出していいのか悩んでいるようだった。
先ほどから、購買で買ったお菓子を何度も確かめている姿がこちらからは確認できているのだ。
「あのね、咲良は本人には全く自覚がないんだけれど、周りの人が咲良の望むように行動しているような感じを受ける時があるのね。いわゆる、忖度ってやつだとは思うんだけれど、それはみんなが自発的に行っているのではなくて、咲良の知らないところで自然と勝手に行われている事が多いと思うの」
「それは教師も生徒も関係なくあるのかな?」
「そうですね、たぶん、教師も生徒も関係なくやってしまっているんだと思います。私は幼稚園の時から咲良とずっと同じクラスなんです。もしかしたら、ただの偶然かもしれないんですけれど、その偶然すら誰かが無意識のうちに咲良の望むように決めていたのかもしれません」
「副会長さんの小学校の時のクラスは何組まであったんですか?」
「私達の時は五組まであったわよ。一クラス大体三十人くらいだったけれど、高校に入学するまでの間、ずっと私と同じクラスだった生徒は咲良一人だけだったわ」
小学校や中学校がどのようにクラス割を決めているのかわからないけれど、高校の三年間を含めても十二年間ずっと同じクラスだったというのは偶然にしては出来すぎている気がしていた。
「偶然だとしても、誰かが決めたことだとしても、私には何かが咲良のために動いているんじゃないかって思うの。金髪のソフィアさんだっていつもなら買わないようなお菓子を買っているんじゃないかしら?」
「そう言えば、会長さんが好きそうなお菓子って何だろうって思いながら選んでました。いつもなら、私が自分で一番食べたいお菓子を選んでいるので、そこは無意識だったと思うけど、会長さんの事を考えていたとは思います」
ソフィアさんが買ってきたお菓子を西野さんが確認すると、そこには葵さんが好きなお菓子が入っていたらしい。
それはキノコとタケノコを選べるお菓子で、ソフィアさんと僕はタケノコが好きだ。
いつもならソフィアさんはタケノコを選んで買っているのだけれど、ソフィアさんが勝ってきたのはキノコだった。
「こういう小さい事の積み重ねで咲良の望む世界になっていくのかもしれないのよ。もちろん、咲良本人の努力があっての話だとは思うんだけれど、何か良くない事が起こりそうな予感がしているのよ」
「それは何か理由があるのかな?」
「人の不幸は蜜の味って言うじゃないですか。これも咲良は気付いていないと思うんですけど、咲良はハッピーエンドよりもバッドエンドの作品の方が好きなんです」
「それって会長さんが人の不幸を願ってしまったら、誰かが不幸になるってことですか?」
「これは、前に咲良が言っていたんだけれど、好きな物が誰かに取られるのは耐えられないって言っていたんです」
「その気持ちはわかるけど、具体的に何かわかったりするのかな?」
「咲良が今一番好きなのは鈴木美波さんなんです。生徒会のメンバーは会長権限で決めることが出来るじゃないですか。それで、咲良は入学式の日に鈴木さんに一目ぼれしたみたいです。一目ぼれ自体は良くある話だと思うんですけれど、生徒会に入った鈴木さんは見た目だけじゃなく中身も咲良の好みだったみたいです」
「美波ちゃんは見た目だけじゃなくて性格も良いから、会長さんもその辺を見抜いていたのかな?」
そんな鈴木さんに恋人が出来たとしたら、いったいどうなってしまうんだろう?
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