第39話 金髪と会長と美少女 その4(全7話)

サッカーに詳しくない三人が集まっているのだから、サッカーの話題が広がるわけもなく時間が過ぎていた。


「ソフィー、私はもう行くけど、生徒会の仕事が終わったらまた来るから。その時は一緒に帰ろうね」


「うん、美波ちゃんも頑張ってね」


鈴木さんが視聴覚準備室を出て生徒会室に向かっていったのだけれど、肝心の葵さんがまだやってくる気配は感じられなかった。


「会長さんの悩みって何だろうね?」


「さあ、わからないけれど、もう少しで本人が来るだろうしその時にわかるんじゃないかな?」


ソフィアさんは日本文化を纏める用のノートを棚から取り出すと、携帯を片手に何かを纏めているようだった。


具体的に何を研究するのかは決まっていないのだけれど、その時のために色々な物をファイルにまとめるのはいい事だと思った。


ノートにまとめる作業は思っていたよりも捗らなかったようで、いったんペンを置くと窓辺に移動して外を眺めていた。


サッカー部の福原君が気になるように、ソフィアさんは美少女と言ってもおかしくないと思う。


齋藤さんではないが、このような天気の時だと普段の明るいソフィアさんではなく、愁いを帯びて今にも崩れ落ちそうな儚さまで感じ取れてしまいそうだった。


僕が思わず写真を撮ってしまうと、ソフィアさんはいつものような笑顔を向けてきた。


「もう、写真を撮るなら行ってくれないとだめだよ。今は完全に気を抜いていたんだから私らしくないと思うんだ」


そう言って僕に向かってピースサインを作るソフィアさん、僕はその写真を撮っていた。


先ほどとは違う晴れ晴れとした表情が外の天気とミスマッチしているのだけれど、外の天候と反比例するかのようにソフィアさんの明るさが強調されているような気もした。


「私の写真をマサ君が隠し撮りしたってアリスが知ったらどうなるんだろうね?」


「さあ、アリスも写真を撮ってほしいって言うんじゃないかな?」


「マサ君は大人なのに何もわかっていないんだね。アリスはきっと隠し撮りしていたことを悲しむと思うよ」


「それは大変だな。でも、齋藤さんじゃないけれど、とてもいい写真だと思うんだよ」


僕は先ほど撮った写真をソフィアさんに見せると、ソフィアさんは自分でも見たことが無いような表情をしている自分に驚いているようだった。


「これは私っぽくないけど、私だよね。一瞬だけど、未来の私の写真みたいに大人っぽい表情をしてるって思っちゃった」


ソフィアさんはいろんな表情を作りながら写真を見ているのだけれど、その表情はどれも写真とは違うものだった。


やがて、表情づくりに飽きてしまったのか、今度は日本史の辞典を取り出してきて何かを探しているようだった。


パラパラと辞典を最後まで捲っていたソフィアさんは、一度目次を開くと、今度は目当てのページを探しているようだった。


何かを見つけてノートに纏めているようではあるのだけれど、それが絵なのはどうしてなのかわからなかった。


何かを口ずさみながら絵を描いているソフィアさんはご機嫌なようで、その歌声は少しずつ大きくなっていき、普通に歌を歌っている時に誰かが扉をノックした。


歌っていたことが恥ずかしくなったのか、ソフィアさんは少し上ずった声で返事をすると、扉を開けたのは生徒会長の葵さんだった。


「いやいや、遅れてしまって申し訳ない。私から先生にお願いしたのに待たせてしまったみたいで。したっけ、金髪ちゃんはご機嫌に歌ってたみたいだけれど、何かいい事でもあったのかい?」


ソフィアさんの歌声は普通に外の廊下まで聞こえていたらしい。


ここは音楽室じゃないので防音対策はされていないので、当然と言えば当然なのだけれど、ソフィアさんはそれを指摘されるまで思い出していないようだった。


「えっと、いい事って言うか、新しい自分を発見できたからって言うか、とにかく、会長さんの話を聞かなくちゃ」


「先生に何かされたいのかい?先生は良い人そうだけど、なんか変わったこともしてそうだから気を付けた方がいいべか?でも、私は先生を信頼してるっしょや」


「うん、私もマサ君先生を信頼してるっしょ」


ソフィアさんにも方言が移ってしまい、少しだけこの場が和んでいった。


ソフィアさんが葵さんのお茶を用意していると、葵さんはソフィアさんに聞こえない程度の音量で話しかけてきた。


「あのさ、先生って他の先生達よりも女子の気持ちがわかりそうだから聞くんだけど、好きな人が出来たけど、絶対に気持ちを伝えてはいけないときってどうしたらいいと思う?」


「絶対に伝えられないなら伝えないんじゃない?」


「でも、私は鈴木さんの事が好きな気持ちをこれ以上は抑えられないって思っちまうんだべさ。どうしたらいいか今日は考えて欲しいっしょ」


後半は音量を抑えきれずにいたようで、お茶を出したソフィアさんの目が今まで見たことが無いくらい泳いでいた。


僕はソフィアさんが新しく淹れなおしてくれたお茶を啜ると、外はまだ雨が強く降っていることを再確認した。


なるべくなら早めに帰りたかったけれど、今日は遅くなりそうな予感がしてきた。


「よし、まずは、会長の気持ちが本当に恋愛感情なのか確認するところから始めよう」

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