短編 中学生アリス編体力測定
第34話 アリスと巨乳と体力測定 前編
私がシャンプーを変えたとしても、すぐ気付く友達がいる。
彼女は私の些細な変化にも敏感に反応してくれているんだけど、過敏すぎて少し怖いところもある。
そんな彼女は今日も私の席の前に座ってこちらをニコニコしながら見つめていた。
「アリスちゃんって本当に可愛いよねぇ。こんなに可愛いなら小学校の時に勇気を出して友達になればよかったなぁ」
このセリフは週に二十から三十回は聞いていると思う。
たぶん、心から思っていてくれているんだろうけど、若干ひく。
「愛ちゃんも可愛いよ」
最初は何となくお返しに言ってみただけだったのだけど、返ってくる反応が本当に可愛いので毎回続けることにしている。
何より、愛ちゃんは褒められるのに慣れていないようで、このやり取りをする事で会話を変えることが出来る。
もしも、私が愛ちゃんを褒めなかったとしたら、家に帰るまでいろいろな言葉と形容詞を用いて褒めてくれるはずだ。
過去に何度か体験しているので間違いないと思う。
「今日は体力測定だけど、アリスちゃんは運動神経良いから余裕そうだよねぇ」
「愛ちゃんも普通にやれば人並みの成績になりそうだけれど、ちょっとハンデあるもんね」
ハンデなのか長所なのか特徴なのかわからないけれど、愛ちゃんは私が手にすることが出来ない武器を抱えている。
「私はあんまり自信ないけどぉ、今年も一緒に測定しようね」
「うん、今年は真面目に最後までやってね」
「去年も真面目にやってましたぁ」
愛ちゃん本人はいたって真面目にやっているのだけれど、去年の成績は群を抜いて悪かった。
私は人並みより少し良い程度だったのだけれど、愛ちゃんの成績と比べた時は申し訳ない気持ちになってしまった。
それくらい彼女の成績は酷かった。
酷いのには理由があるのだけれど。
「そうだ、今日は午前中で学校が終わるし、家に来てご飯を一緒に食べようよぉ」
「いいけど、私は何も準備していないよ?」
「大丈夫大丈夫。今日は夜まで誰もいないから二人っきりで過ごせるよぉ」
「うーん、その言い方だと遊びに行くのやめようかな」
「ごめんなさい、調子に乗りすぎました。一緒にご飯食べるだけで何もしません。運動して汗かいたからって一緒にお風呂に入りたいとか思ってません。本当です。信じてください」
愛ちゃんは基本的に良い子で可愛いんだけど、時々妄想が暴走して口から出てしまうんだよね。
そんなところもあるけど、私に本音で付き合ってくれている感じがして悪い気はしない。
少しは気持ち悪いと感じているけど、本質的には嫌いになれない。
私が小学生の時に軽いいじめに遭っていたって知った時は、大粒の涙を流してくれていた。
それから毎日のように朝は家まで迎えに来てくれるようになった。
私の家と愛ちゃんの家は学校が中間地点になるくらい離れているのに、雨の日も雪の日も毎日のように迎えに来てくれている。
高校は当然のように同じところを受験する予定でいるけれど、私はともかく愛ちゃんはもっと進学にも就職にも有利な学校を選べるだけの成績はとっているはずだ。
「でも、今日はアリスちゃんの好きなお好み焼きを作ろうと思っているよぉ。一人で作れるのがお好み焼きくらい何だけどさ」
「前も食べたことあるけど、愛ちゃんのお好み焼きは美味しかったよ。ソフィーが作るお好み焼きはバラバラになってたからさ」
私の姉は普段はそうでもないのだけれど、料理になるとせっかちになる事が多い。
きっと、食欲旺盛すぎて待ちきれないのだろう。
普段からあんまり料理はしないけれど、たまに何かを作ると失敗することがほとんどだったりする。
「お好み焼きの他にはホットケーキとか出来るよぉ」
「材料は揃えてあるの?」
「うん、昨日の夜にお母さんと買いに行ったの。お母さんにお好み焼きなら上手に出来るからいいねって褒められたよぉ」
愛ちゃんの周りの人も愛ちゃんを褒めて伸ばすスタイルらしい。
「でも、その前に体力測定やらなきゃね。愛ちゃんは去年の成績超えられるかな?」
「うーん、私は越えたらいいなって思っているけれど、実際はそんなに成長したかわからないかも」
「愛ちゃんは去年より成長しているんじゃないかな。たぶん、私よりも成長スピード早いと思うよ」
「えへへ、アリスちゃんに褒められるとうれしいねぇ」
私達がそんな話をしていると、クラスメイトの前田恭子が突然割り込んできた。
「アリス、今年もあなたの成績を超えて見せるわ。愛華、おはよう」
「恭ちゃんおはよう。」
「超えるって言われても、恭子は女子バスケットボール部の部長だし私より背も高いんだからさ、勝負するとしたらハンデちょうだいよ」
「いいわよ、去年の差をそのままプラスしていいわ。私の成長をその身で感じて震えるがいいわ。愛華はあんまり無理しちゃダメヨ」
「恭ちゃんありがとう、私もがんばるよ」
「去年の差ってほとんど無いじゃん。もうちょっとちょうだいよ」
「駄目よ、アリスは私のライバルだし、過小評価なんかしないわ。それに、あなたはもっろ凄い人になると思うもの。愛華は本当に可愛いわね」
「えへへ」
「まあいいや、私もそれなりに部活を頑張ってきたし、そんなに悪くはないだろうからね」
「あなたのそう言ったところは好きよ。でも、私は絶対負けないわ」
「じゃあ、負けたら何か罰ゲームとかする?」
「アリス、あなたは何を言っているの?私達の仲に罰ゲームとか必要だと思うの?」
「いや、そう言うのがあった方が達成感があると思ってさ」
「そこまで言うならいいわよ。そうね、負けた方が家でお菓子を振舞うっていうのはどうかしら?」
私達のやり取りをニコニコしながら見ていた愛ちゃんが元気に手を挙げていた。
「はーい、私もその勝負に参加します。手加減しちゃだめだよ」
「うん、三人で勝負だね。愛ちゃん、私はクッキーでいいよ」
「一位の人が一番多く食べられるって事ね。愛華、私もクッキーでいいわ」
「あれれ?」
これから始まる勝負は今年も三人で行われることになった。
去年はどら焼きを作ってくれていたっけ。
帰りに餡子を買っていけばまた作ってもらえるかも。
「愛ちゃんは勝てると思う?」
「うーん、私は勝てないと思うけど、二人が争うのはあまり好きじゃないからさ」
見た目も中身も愛ちゃんはこの三人の中で一番大人だ。
改めてそう思った。
「今日は制服じゃなくてジャージで登校したから変な感じだよね。アリスちゃんはジャージだとスタイルの良さが際立つよね」
「愛ちゃんは制服でもそうだけど、ジャージだとより女性っぽさが強調されているよ」
お互いに軽く褒め合ったところで、体育館に移動する時間になっていた。
恭子と勝負することになってしまったけど、同じクラスなのでお互いの結果が毎回わかってしまうので、何となく優勢なのはどちらかわかってしまう。
愛ちゃんには悪いけれど、二人がお菓子を作る事が無いのは決まっている。
「みんな順番に並んでいるみたいだね。愛ちゃんは何からやりたい?」
「えっと、十一時から持久走が始まるからそれまでに他の種目を終わらせないといけないんだよね?それなら、得意なやつからやりたいんだけどいいかな?」
「私は反復横跳びからやりたいな」
「疲れるのからやった方がいいかもねぇ」
反復横跳びは私自身はそんなに得意ではないけれど、体育館内で出来る種目の中で一番疲れそうだ。
「じゃあ、私からやるので愛ちゃんは数えててね」
「うん、しっかり見ておくよ」
陸上部の練習で何度かやったことはあるけれど、私はどちらかと言えば長距離の方が好きなのであまり得意ではない。
二十秒がこんなに長かったのかと思ったけれど、成績は思っていたよりも良かった。
去年の四十回を超えられたのは褒めておこう。
「次は私の番だね。アリスちゃんに負けないように頑張るぞぉ」
開始の合図とともに一斉に左右に動く生徒たちの中でも、愛ちゃんは一番視線を集めていた。
愛ちゃんが左右に飛び跳ねる動きに少し遅れて弾むように揺れる大きな二つの山々。
おそらく、日本の女子中学生の上位数パーセントに位置しているであろう大きさの胸は、ブラジャーでは抑えることが出来ないようで、体の左右の動きに遅れて飛び跳ね続けていた。
体育館に男子がいたら大変なことになっていただろうけれど、体力測定も普段の体育も男女別なのでその点は安心である。
愛ちゃんの弾む大きな胸を見てると自分の小ささに改めて気付いてしまう。
隣で見ていた私と同じ平原に佇むものが印象的な言葉を呟いていた。
「愛華の胸の動きを利用したら発電とか出来そうね」
きっと意味はないのだけれど、私も心の中でそれに同意してしまった。
「普段あんまり運動しないから疲れちゃったよぉ。アリスちゃんは二回目頑張ってね」
私はなるべく平常心を心がけようと思って二回目に臨んでいたのだが、結果は振るわなかった。
隣のレーンで同時に行っていた恭子も同じような結果だったらしい。
持つべきものを持たない二人の心はまだ折れてはいない。
「アリスちゃんの記録は一回目の方が良かったからつけとくね。私もアリスちゃんに追いつけるように頑張るよ」
「うん、愛ちゃんなら私より凄いと思うから頑張って」
愛ちゃんが激しく動くと同時にお胸も大きく動いている。
どんな感覚なのかわからないけれど、あんなに立派な物を携えていたとしたら、私は陸上をやっていなかったかもしれない。
おそらく、恭子もバスケをやっていなかっただろう。
大きなお胸を必要以上に弾ませていた愛ちゃんではあったが、回数的には私達二人よりも少ない結果に終わっていた。
最終的に私は六点、愛ちゃんは五点で恭子は満点だった。
しかし、もろもろの状況を加味すると、試合に勝って勝負に負けてしまったようで、軽く落ち込んでいたのだけれど、恭子も私と同じ感想を抱いていたようだった。
「愛華の胸の破壊力は相変わらず凄まじいわね。スタートから私の心はえぐり取られたようよ」
心だけではなくお胸も抉り取られていると言おうと思ったが、その言葉がそのまま自分に帰ってきそうな予感がして、その言葉は深く深く飲み込むことにした。
今日は一日愛ちゃんの胸の暴力に悩まされてしまうだろう。
そんな一日があったとしても、私の日常は変わらないと思う。
愛ちゃんのお姉ちゃんも巨乳ではあるけれど、愛ちゃんは中学生にしてそれを遥かに超える物をお持ちでいる。
私の姉であるソフィーはお世辞にも立派な物は備わっていないので、私の未来もそれほど大きく開けていきはしないだろう。
「次は何をやる?」
「えっと、上体起こしにしようかな」
上体起こしならあの凶悪な物体に悩まされることはないと思っていた。
少なくとも、始まるまではそう思い込んでいた。
私は普段から腹筋を鍛えているせいか、最高点を取ることが出来た。
恭子も同じく最高点を取っていたので差は縮まらなかった。
愛ちゃんのお胸の暴力は上体起こしでもやってきた。
あまりにも大きすぎるお胸を持つ者の宿命なのかわからないが、肘と膝を付けた回数をカウントするのだけれど、胸の前で腕を組むと肘が膝に付かなくなってしまう。
もう一度言うが、胸の前で腕を組んだとしても、肘が膝に付く角度に固定出来ないでいた。
上体起こし自体は出来ているのだけれど、肘と膝が付くことは一度も無く終わった。
「愛ちゃんごめん、肘と膝が一度もついていなかったよ」
「ちょっと、苦しかったよぉ。今年はもう少しでいけそうだったんだけどね」
私と恭子は満点だったため二回目の計測は行わなかった。
「肘と膝をちゃんとつけるように」
時間を計測しながら先生の厳しい言葉が飛んでいた。
愛ちゃんがやっていた時は言っていなかったことを、その時初めて気付いた。
二回目の挑戦でも愛ちゃんは肘と膝を付けることは出来なかった。
一応先生に確認してみたのだけれど、回数は無しだった。
今後の種目を考えたところ、愛ちゃんが逆転する事は無理な気がしてきた。
点数的には私と恭子が愛ちゃんに勝っているのに、なぜか勝てる気がしなかった。
「次は握力にしようか?」
「うん、握力やってみたかった」
握力測定ならあのお胸も暴れることが無いだろう。
お互いに二回ずつ計測して終わったのだが、当然のようにお胸が暴れることはなかった。
「アリスちゃんも恭子ちゃんも運動やっているから握力凄いんだね。私も握力を鍛えるように何かした方がいいのかな?」
愛ちゃんの場合はそのお胸を揉むだけでも結構なトレーニングになりそうだなと思った。
恭子も同じようなことを考えていたのか、愛ちゃんの胸のあたりをじっと見ていた。
私の視線に気付いた恭子と目が合うと、お互いにはにかんでしまった。
「今回も私の勝ちね。でも、何だか勝っている気がしないのよね」
私と恭子は握力を確かめるように握手をしていた。
お互いに視線は愛ちゃんの胸元に注がれていた。
「次は長座体前屈だねぇ。私は体が硬いから自信ないけど大丈夫だといいな」
「うん、愛ちゃんの場合は柔いのか硬いのかわからないね」
「そうね、愛華は柔らかいけど硬いわ」
不思議そうな顔をしている愛ちゃんではあったけど、ツッコむと悲しくなりそうだからやめておこう。
長座体前屈は体の柔らかい私にとって一番楽な種目なのだけど、愛ちゃんは柔軟体操でも辛そうにしていたのを見たことがあるので、本当に苦手なんだろうな。
私達の前でやっていた恭子たちは軽く悲鳴のようなうめき声をあげていたが、それなりに良い成績を残していた。
「はぁはぁ、少しきつかったけどこんなもんね。アリスはその貧相な物が邪魔にならなそうだから余裕そうね。愛華は、まぁ、頑張って」
恭子は私たちが終えるのを見届けずにグラウンドへ去っていった。
何か言っていたような気がするけど、私の方が恭子より多少立派な物のような気がする。
胸囲だけなら負けているかもしれないけれど、身長とかバストサイズとかで比べると私が勝っているよね。
「アリスちゃんは体が柔らかいから羨ましいな。やっぱり毎日ストレッチとかしているの?」
「うん、お風呂上がりにやったりしているよ。愛ちゃんも毎日ケアしてるの?」
「ん?ケア?」
「お肌とか綺麗だから何かしてるのかなって思ってね」
「私はお姉ちゃんに貰った化粧水と乳液くらいかな。アリスちゃんは何か使っているの?」
「私もお姉ちゃんに貰ったやつを使っているくらいかなぁ」
「愛ちゃんのお姉ちゃん美人だから美容とかも詳しそうだよね」
「うん、お姉ちゃんは美人だし優しいから自慢だよ」
愛ちゃんも可愛いし自慢出来る物をお持ちでございます。
「もうすぐで私たちの番だね。アリスちゃんから先にやってよ」
「わかった、今回も限界に挑戦してみるよ」
さて、靴を脱いでさっそく一回目の挑戦だ。
ゆっくり深呼吸しながら体を前に倒していくと、体が足にぴったりと付いた。
「アリスちゃん凄いねぇ。これ以上ないくらいくっついていたね。私もそれくらい柔くなれたらいいのにな」
「毎日十何してたらそのうち出来るようになるんじゃないかな」
愛ちゃんは少し前かがみになっただけでもお胸が付いちゃいそうだなと思った。
「よし、私もアリスちゃんみたいに記録出せるように頑張ろうっと」
愛ちゃんが座っただけでもそのお胸は揺れていた。
深呼吸とともに少し動いていたお胸も、愛ちゃんが前に倒れていくと動かなくなった。
なんてこった、豊満すぎるお胸がストッパーになって愛ちゃんの体が倒れなくなってしまっている。
愛ちゃんは一生懸命に前に倒れようとしているのだけれど、お胸が邪魔して少しだけしか倒れることが出来ていなかった。
「んんんん、もう、無理かもぉ」
何とか頑張って計測台に触れた愛ちゃんではあったが、計測台は一センチも動いていなかった。
私は二回目の記録を取る必要もなかったので、愛ちゃんは少し休憩して二回目の測定に挑んでいた。
今回は横からではなく正面からどんな動きをしているのか見てみることにしよう。
「えへへ、正面にアリスちゃんがいると照れちゃうねぇ。ちゃんとみててね」
「うん、しっかり見ておくよ」
愛ちゃんは二度ほど深く深呼吸をしてからゆっくりと倒れ込んできた。
正面で見るとその破壊力はすさまじく、愛ちゃんのお胸がムチムチとした太ももに触れるとゆっくり左右に広がっていった。
右と左のお胸がぴったりくっつくと前方にも飛び出してきたのだけれど、それ以上に両サイドを攻めていた。
「あぁ、さっきより辛いかもぉ。もう少しで届きそうなのに、もう少しだけ手が動けば」
ああ、愛ちゃんは一生懸命にチャレンジしているんだけど、私は少し違うことを考えていたようだ。
「んっ、届いた。もう少しだけ、もう少しだけ奥まで、行けそうかも」
愛ちゃんの二回目の結果も変わらず計測台は動いていなかった。
今回も勝負に負けた気がするけど、きっと気のせいだと思う。
恭子は不戦敗ね。
「はぁ、今回は行けそうだと思ったのにぃ。全然動かなかった」
愛ちゃん、愛ちゃん自身は凄く動いていたんだけど、計測台には届かなかったんだね。
「お疲れ様。あとは外のやつやっちゃおうね」
「うん、アリスちゃんは私がダメダメな感じでも笑わないから好きだよぉ」
「私も愛ちゃんが好きよ」
運動靴に履き替えながらそんなことを言っていた。
愛ちゃんは紐靴を履くのが苦手なんだよね。
理由は考えないでおくことにしよう。
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