第3話 金髪姉妹と地味な男(全10話)

僕は遮光カーテンを二重にして寝るくらいなので明るい部屋で寝ることには慣れていなかった。


たまに寝落ちしてしまうことはあったのだが、ほとんどそのようなことは無く、昨晩もしっかりと電気を消した記憶は残っていた。


眩しさに目が慣れてくると、聞きなれた声が聞こえてきた。


「おはようございます。今日は動物園に行くのに良い日です」

「おはようございます。もう少しだけマンガ見てます」


僕が寝ている部屋に侵入してマンガを読んでいる二人の少女は隣に住むイギリス人姉妹だ。


姉のソフィアさんは最初から人懐っこい感じで接してくれていたのだが、妹のアリスさんは先日の自転車の練習以降は僕に懐いてくれているようだった。


もっとも、気まぐれな猫のような感じで僕から近付くと身構えることが多々あったのだが。


僕が何か行動をするよりも早く、ソフィアさんはカーテンを全開にしてくれていた。


アリスさんはそれから少しの間を開けて、電気を消してくれていた。


部屋を出て洗面所に行ったのだが、今の我が家には我々三人しかいないようだった。


寝癖を整えている時にソフィアさんがこちらにやってきた。


「ママさんとパパさんはお買い物に行ってくるそうです。お弁当作るからお昼は食べなくていいって言ってました」


そう言うと、ソフィアさんは僕の背中をパチンっと叩いて去っていった。


この前も背中を叩かれたような気がしていたので、ソフィアさんの中では背中を叩くブームが来ているようだった。


出来ることならブームのまま終わっていただきたい。


キッチンに行くと置手紙があったのだが


『二人の分の水筒が冷蔵庫に入っています。』


とだけ書かれていた。


僕は自分の分のドリンクを作るって部屋に戻った。


ソフィアさんは窓から外を見ては動物図鑑を見て外を見るという行動を繰り返していたのだが、アリスさんはずっとマンガを読んでいた。


文字を読んでいないんじゃないかというくらいの速さでページを捲っていた。


軽く朝ご飯を作って食べようと思って冷蔵庫を物色していると、二人が僕に抱き着いて冷蔵庫の中を見ていた。


何を食べていいのかわからなかったので、具が少ない焼きそばを作る事にした。


二人が手伝ってくれたお陰で具沢山の焼きそばが出来上がったので、三人で食べきれない分は僕の両親にあげることにした。



やや曇りがちではあるがところどころ晴れ間の覗く絶好のサイクリング日和だった。


目的地の動物園まではサイクリングロードまで行けば問題がなさそうなので、今日はゆっくりとサイクリングを楽しむことにしよう。


アリスさんもあれからちょくちょく自転車で出かけているようで、練習の時よりも格段に上手になっているとの事だ。


サイクリングロードに行ってしまえばほぼ危険もないのだが、そこにたどり着くまでは幹線道路なども通っていくのでヘルメットと防具一式を身に着けるようにと二人に手渡すと、アリスさんは相変わらずグローブだけは自分ではめないでいた。


家にいるときに確認したのだが、二人が背負っている小さいリュックの中はお菓子ばかりなので、僕は自分のリュックにタオルや水筒を詰め込んでおいた。


出発する前に自転車の確認をしていると、アリスさんのヘルメットの紐が緩んでいることに気が付いて軽く閉めなおしてあげることにしよう。


僕はアリスさんの前に立ち止まると目線が同じになるようにしゃがんで、アリスさんの頬に両手を添えた。


そのままゆっくりとヘルメットの紐を確認しながら、苦しくない程度に閉めなおしてあげた。


閉めなおしてあげると目線が同じになっていたからなのか、アリスさんは僕の首に両手をまわして抱き着いてきた。


それを見ていたソフィアさんも僕に抱き着いてきたのだけれども、二人が被っているヘルメットの縁が当たって少し痛かった。


二人が離れると、そのまま自転車に乗って出発することにした。


ソフィアさんを先頭にして、アリスさん、僕の順番で進んでいった。


しばらく進んで学校に差し掛かると約束していた二人が待っているのが見えた。


約束の時間まではまだ少し余裕があったのだけれど、みんな時間を守れる良い子たちだと思った。


それだけ動物園に行きたかっただけかもしれないのだけれど。

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