第49話 ギャルが夏休みに体験してしまったこと その5(全7話)
「夏休みにそんな経験をしちゃったんですよ」
小林さんがそう言うと、いつの間にか僕の隣に移動していたソフィアさんが腕に抱き着いていた。
「その声の主ってなんだったの?」
僕が訪ねても小林さんは腕を組んだまま考えているみたいで、ソフィアさんは小刻みに震えていた。
「ばあちゃんが言うには、その土地にいる神様の一種なんじゃないかって話なんですけど。神様って言っても、人にとって良い神様と自然にとって良い神様は別らしいんですよ。それで、その時に来たのは自然の方に良い神様だったみたいです。あたしも詳しく聞かないで体験したんで怖かったんですけどね」
夏休みに小林さんが変わった経験をしたのは本当だろうけど、いったいどうやって助かったんだろう。
この場に小林さんがいるのだから最悪の事態は避けられたとしても、何か大変なことになっていなければいいのだが。
「ねえ、ヨーコはそのあとどうやって助かったの?」
僕が気になっていたことをソフィアさんはストレートに聞いてくれた。
「助かったって言うか、もともと何か悪い事をされる感じじゃなかったらしいんだよね。よくわかんないんだけど、神様を呼び出すのってあんまりよくないんだっってばあちゃんが言ってた。で、近くの村の人とかその道で有名な人を呼んで集まって貰ったんだって。そうして、神様を呼ぶ儀式をやったって言ってたよ」
小林さんがそう言うとソフィアさんは少し安心したみたいで、僕から離れてお菓子に手を伸ばしていた。
「それで、その神様は何で小林さんを探していたの?」
「あたしは覚えていないんですけど、小さい時に四国に遊びに行ったときに山道を探検してて、その途中で手入れされていない祠を見つけたらしく、ばあちゃんの家ににいる間はそこに遊びに行って掃除したり、摘んできた花を供えたりしてたみたいなんです。でも、その祠って道沿いにあるのに、あたしがお花を供えるまで誰も気付かなかったみたいなんですよ。不思議ですよね」
小林さんは今でも教室にある花瓶の水をこまめに変えたり、掲示物が外れかかっていたら直したりしているので、昔からそういった事が自然にできる人なんだと思った。
「それから村の人達もその祠を定期的に手入れしたり、お供え物をしてみたり夏に祭りをしたりしていたみたいなんです。そうして何年か経って今年の春になると、ばあちゃんの夢にその神様らしき人の声が聞こえてきたらしいんですよ。でも、ばあちゃんは何って言っているのか聞き取れなかったみたいで、あたしをここに呼ぶように言われていただけは理解できたみたいです。それで、霊能力者みたいな人達を集めてからあたしを呼んだって話です」
「でも、ヨーコにとって良い神様なのにそんなに人を集めなくちゃ呼べないもんなの?」
「ばあちゃんはあたしを呼べって部分しか理解できてなくて、悪い霊があたしを呪うんじゃないかって思ってたの。それで、あたしを守る結界を作る人を十人呼んで、霊とお話し出来る男の人が一人きたの。神様が来る時間はあらかじめ分かっていたので、それまでにどうにか結界を完成させなくちゃいけなかったらしく、あたしに説明している時間は無かったんだって。で、悪霊だとしたら怖がってしまって弱った心に付け込まれると思って黙ってたのもあるらしいんだけど、あんだけ壁とか叩かれたり足音聞こえたらビビるよね」
小林さんはそう言って笑っていた。
「結界を作っていた人達はどうかわからないんだけど、男の人は途中で悪霊じゃないって気付いたんだって。それでばあちゃんに何か言うと、あたしの周りで結界を作っていた人達が離れて、さっきまで一生懸命に作っていた結界を壊そうとしていたみたい。その人達が笑いながら、『自分たちで作った結界を壊すのは初めてだ』って言ってたのがちょっと面白かったな」
小林さんはわざとソフィアさんを驚かせるように脚色していたのだろう。
それに気付かない純粋なソフィアさんは小林さんが無事だった事を心から喜んでいるようで、綺麗な瞳にうっすらと涙を浮かべていた。
本当は怒っているのかもしれないけれど。
「で、その男の人が扉越しに神様に説明したんだけど、結界が邪魔して中に入ってこれなかったみたい。そんなわけで、結界を作った人達と神様の力で結界を壊そうとしていて壁とか天井から音が聞こえていたみたいよ。でも、その音を聞いたのはあたしと男の人だけなんだって。ばあちゃんも結界を作っていた人達もそんな物音は聞いていないって言ってたから」
「足音もヨーコしか聞いてないの?」
「うん、足音はあたししか聞いてないみたいで、男の人も姿までは見えないって言ってたよ。それに、靄がかかって音が聞こえない空間って、神様の世界と一時的に繋がっていたらしく、あたしの姿は見えていたけど外から見ているとコマ送りみたいな動きをしていたってさ」
「それで、神様は小林さんを呼んで何をしたかったのかな?」
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