第7話 金髪姉妹と地味な男(全10話)
アリスが目を覚ましたのは午後二時を過ぎていたころだった。
僕の両親は戻ってきていたのだが、絵を描きに行った三人はまだ戻ってきていなかった。
寝ぼけ気味のアリスではあったが、僕達がみんなでアリスを見ているのに気付くと後ろを向きながら立ち上がって僕の手を引いていた。
「ママ、私はもう少し動物を見てきたいのでマサと一緒に行ってくるわね。私のお菓子は食べないでね」
アリスに連れられて僕は園内を回る事になった。
アリスの小さい手が僕の手をグイグイと引っ張っていくのだけれど、いつものアリスよりは元気な気がしていた。
食事と睡眠で体力を回復したからなのだろうが、大好きな動物を見ているといつもよりもアリスはテンションが高かった。
興奮したアリスは僕にでもわかる簡単な英語で感想を言っていたのだけれど、猛獣舎に差し掛かると少しだけ声のトーンが下がっていた。
檻の中にいても恐怖は感じているようで、檻の中で一定のコースをクルクルと周回しているライオンを見ている時も、寝ているトラを見ている時も僕の後ろに隠れていた。
同じ猛獣でもホッキョクグマは平気らしく、外柵に額を張りつけて動きの一つ一つを熱心に観察していた。
その後もペンギンやキリンを見たり、少し移動した先にある池で鯉に餌を与えたりして過ごした。
不思議なことに絵を描いている三人にはなかなか出会わなかったのだが、三人とも入り口近くの動物をスケッチしていたからだった。
ソフィアさんはふれあい広場のウサギを描いていて、美波ちゃんはふれあい広場近くのレッサーパンダを描き、ナナちゃんは入り口近くのアルパカを描いていた。
三人とも独特のセンスではあるが特徴を上手くとらえた絵を完成させたようで、僕達に絵を見せてくれていた。
五人で仲良く戻ると、それぞれが持ち寄ったお菓子の交換会が始まった。
アリスが僕にお菓子を一つ分けてくれると、それに続いて美波ちゃんも僕にお菓子を分けてくれた。
それを見ていたナナちゃんもお菓子を一つわけてくれたのだが、ソフィアさんはお菓子を分けてくれなかった。
お菓子は分けてくれなかったのだけれど、ソフィアさんは僕の似顔絵をプレゼントしてくれた。
眼鏡と髪型くらいしか似ていないような気がしていたが、その絵を見て触発されたのか絵を描いていた二人も僕の似顔絵を描きだした。
アリスはスケッチブックを持っていなかったのだけれど、ソフィアさんから借りると二人に続いて似顔絵を描き始めた。
三人の絵が完成したころには閉園時間が迫っていたようで、食べかけのお菓子を慌ててカバンに詰めていた。
帰りが少し心配だったアリスの体力も食事と睡眠である程度は回復していた。
女子小学生たちのカバンを車に載せて軽量化し、僕が人数分の水筒を自分のリュックに入れて帰る事にした。
アリスは車に自転車を載せてそのまま帰る事も出来たのだけれど、せっかくなのでと帰り道も自転車で頑張る事にしたらしい。
太陽が沈みかけていて空が青と赤のコントラストを描いている中を、一組の丹頂鶴が滑空してサイクリングロード脇の畑に降り立っていった。
その様子に見とれていると、太陽が完全に沈みそうになっていたので僕らは名残惜しさを感じつつも家路へと急いだ。
サイクリングロードのスタート地点に戻った時には太陽が完全に沈んでいたのだが、ここからは街灯も整備されているので後は安全に気を付けて帰るだけだった。
美波ちゃんとナナちゃんを一旦僕の住むマンションまで連れていき二人の荷物を回収してから家までお見送りして帰ると、夜の七時を過ぎていた。
僕は駐輪場に自転車を止めて自分の家まで戻ると、そのまま着替えを用意してシャワーを浴びることにした。
シャワーから出ると晩御飯はアリスのお父さんがご馳走してくれるという話を聞いた。
そのまま外出する準備をしてアリスの家に行ったのだけれど、家の中に入るのは初めてのような気がする。
僕の住む家と似たような間取りではあるのだけれど、どこか洋風な感じにまとまっていた。
大きなテレビの横にはたくさんのアニメのボックスセットが収納されているのを見て、二人がアニメ好きになった理由が分かった。
アリスのお父さんが作る料理はどれも美味しく、そのままお店でも開けそうな感じだった。
感想を伝えると、アリスのお父さんはまんざらでもないと言う表情で胸を張っていた。
お互いにお礼を言い合うとアリスのお父さんは僕に力強く言った。
「次にどこかへ行くときはムービー撮ってきてね」
僕は動画を一度も撮っていなかったことにその時初めて気付いた。
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