それからしばらく経って夏休みが間近に迫ってきたある日、何度かではあるがマンション前の公園に一人でいるアリスを見かけることがあった。

僕が大学の授業を終えて帰るときに通った時に、アリスが公園の奥の方でおそらく同級生と思われる女子生徒たちに囲まれて何か言い合いをしているところを目撃した。

少し遠くから見たので話の内容はわからなかったのだが、少女の一人がアリスの髪を掴んで何か叫んでいた。

子供同士の喧嘩とはいえ暴力はよくないと思った僕は少し近づくと、それに気付いた少女がアリスの髪を掴んでいる少女に何か耳打ちをした。

僕の存在に気付いた少女たちはやや俯き加減でアリスから離れていくと何かを言い残して去っていった。

アリスはずっと黙ったまま動かなかったのだけれど、さっきまでの女子生徒たちもいなくなった。

このまま先に帰ろうかと思ったが、さすがにこの状況で置いて帰ることは出来ないと思って、近くのベンチに腰を下ろしてしばらく待つことにした。

数分経っても動こうとしないアリスを見ていると、小刻みに肩を震わせていたのに気づいた。

僕がベンチに座っていることに気が付いたアリスはいつもより距離を開けてベンチに座ってきた。

なんでも、先ほどの女子の一人が好きな男の子がクラスにいるらしく、その男の子がアリスの事を好きらしいと噂になっていたそうだ。

アリスは同級生に対して恋愛感情は無かったのだが、日本に来た時と比べて多少は慣れたとはいえ日本語もまだ完全に理解することが出来ない。

女子の問いかけに答えることが出来ずにいると、その態度に腹を立てた女子たちが生意気だという事でイジメの対象になってしまったらしい。

両親にも僕の親にもソフィアさんにも心配をかけたくないとの思いから、誰にも相談できずに過ごしていたのだが、イジメの現場を目撃した僕に打ち明けることにしたらしい。

日本語と英語が混ざった説明を聞いていると、イジメられたことは辛い事ではあったがその男の子の事は仲の良いクラスの友人としてしか見ておらず、恋愛対象ではないと伝えたいのだが上手く日本語で伝えることが出来ないでいる。

それで上手くいかなくて困っているので助けてほしいと言われた。

助けることは問題ないとしても、小学生の喧嘩に関係ない大人が入っていってもいいものかと思っていたのだけれど、アリスがこれ以上傷つく事は僕も悲しくなりそうだ。

アリスは明日の放課後に先ほどの女子たちと例の男の子をこの公園に呼ぶという。

そこで、ちゃんと説明したいので上手く伝えられなさそうだったら手伝ってほしいとの事だった。

明日は講義も午前中だけなので問題ないと伝えると、アリスは嬉しそうに微笑んでくれた。

アリスの後ろで今にも沈みそうな太陽が赤く輝いていて表情や読み取れなかったのだが、

先ほどとは違って笑顔だったことはわかった。

「今日の事は誰にも言わないでね。解決したら、自分で全部説明するから」

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