第9話 金髪姉妹と地味な男(全10話)

翌日、午前中の講義を終えて図書室で時間を潰していると携帯にアリスからのメールが届いた。


『みんな公園に行きます』


件名にそれだけが書かれたのみで本文のないメールに顔文字のみで返信すると、数秒後にそのメールがそのまま送られてきた。


大学から昨日の公園までは歩いて三十分くらいの距離なので少し待たせてしまうかもしれ

ないが、小学校の授業が終わる時間を考えるとちょうどいい時間に着くかもしれない。


もう少し図書室で時間を潰しておこうかとも思ってはみたものの、イジメられているアリスを待たせるのも悪いかなと思って余裕はまだまだあるが公園に向かうことにした。


予想以上に早く公園に着いてしまったため、先ほど図書室で借りた本を読むことにした。


借りてきた本を半分ほど読み進めたところで聞き覚えのある声が聞こえてきた。


声のする方を見るとアリスを先頭に昨日見た女子生徒たちと見覚えのない男子が二人歩いてきていた。


僕の姿を見つけたアリスはこちらに駆け寄ってくる。


昨日の現場を見られていた女性生徒たちは気まずそうにしているが、一緒にやってきた男子二人は知らない大人がいることに対して緊張していた。


さて、どうやって説明したらアリスの気持ちがみんなに伝わるのかと考えてきたのだけれど、答えは出なかった。


小学生とはいえ女子たちは恋愛に関しては僕より進んだ考えを持っているかもしれないので、ここは大人の余裕を見せる意味も含めて静観することに決めた。


僕と小学生たちの間に入ったアリスは


「私は、ハジメ君の事は友達としか思ってないです。仲良くしたいとは思っているけど、好きとは違うと思います。でも、キョウコさん達とも仲良くしたいです。どうしたら、仲良くなれますか?」


どちらの男子がハジメ君なのかはわからなかったのだけれど、一人の男子が肩を叩かれていた。


「は?ハジメ君の事が友達として好きなの?友達って言っても抱き着いたりするんだ」


女子の一人がそう言うと、そうだそうだと周りの女子たちも囃し立てていた、ハジメ君は相変わらず肩を叩かれ続けていた。


「普通は好きでもない人に抱き着いたりしないもん。アリスちゃんはハジメ君の事好きだって認めなよ」


女子たちはさらに囃し立てていた。


ハジメ君は女子の言葉を聞いて顔を真っ赤にして俯いていた。


もう一人の男子は肩を叩くのをやめていた。


アリスが僕の方に近づいてきて、腰に手をまわして抱き着いてきた。


それを見た小学生たちは一瞬にして固まっていた。


僕も固まってしまっていた。


「嬉しい時とか、何かいい事があった時、私の国では、ハグします。でも、そのハグはちょっとだけ。好きな人とするハグは、それより長くする。今は、ハジメ君にハグした時より、長いです。私の好きな人、ハジメ君じゃない、信じてくれます?」


その言葉を聞いたハジメ君はちょっと涙目になっていたように見えた。


女の子に免疫のない男子小学生が女子に抱き着かれたら好きになってしまうこともあるだろう。


ハジメ君は両肩を落として友達に慰められていた。


アリスは相変わらず僕に抱き着いたままだった。


「えっと、二人は好き同士なの?」


キョウコさんがそう質問するとアリスは黙って頷いた。


アリスは腰から離れると同時に、両手を僕の首の後ろに回して頬にキスをした。


その光景を目の当たりにしたハジメ君は両肩を落としたまま友達と帰っていった。


頬にキスをするのは欧米では挨拶の一つらしいのでそんなに気にすることも無いぞ。


そう思ってはいたものの、僕は少しドキドキしている事に気付いていた。


落ち込んでいるハジメ君と違って、女子たちは一気にテンションが上がっていた。


「もう、アリスちゃんって好きな人いるなら早く言ってよね。私たち勘違いしちゃったじゃない。なんか、いろいろ酷いことしてごめんね」


そう言ってキョウコさんが頭を下げると、周りにいた女子たちも謝りながら頭を下げだした。


アリスも頭を下げて


「私が、ちゃんと日本との違い、理解してなかったのが、原因です。みんなに、いやな気持させて、ごめんなさい」


と言うと、なぜか女子たちが抱き合って「今までごめんね」と繰り返していた。


ハジメ君一人だけが不幸な結末になってしまったが、アリスにたくさんの友達が出来たことは喜ばしい事だった。


その後も女子たちは恋愛トークに花を咲かせていて、六時を告げる町内放送が鳴り響いているころにはキョウコさんとハジメ君がお似合いだという結論に落ち着いていた。


キョウコさんはアリスと別れのハグをした後に、僕に向かって深々と頭を下げてからみんなと帰っていった。


たぶん、同年代の日本の友達が出来たのはアリスにとって初めての事だったのだろう。


嬉しそうにしているアリスは僕の手を握ってマンションに向かって進みだした。

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