第6話 金髪姉妹と地味な男(全10話)

駐輪場に自転車を止めて二人にもソフトクリームを買ってあげると、見覚えのある車が駐車場に入ってきた。


僕の両親が乗ってきた車の後部座先にはアリスとソフィアさんのお母さんが座っていた。


「ソフィーもアリスも無事についてよかったわ。美波もナナもお疲れ様。マサもありがとうね」


的なことを英語で言っていたと思ったが、美波ちゃんとナナちゃんはニコニコしているだけで意味はちゃんと理解していないようだった。


アイス代を親から回収した後はいよいよ動物園の中に入っていく。


ソフィアさん達三人は、園内に入るとどうしても見たい動物がいるらしく奥の方へと走っていった。


僕はアリスと二人でゆっくり園内をめぐる事にしたのだけれど、結構広い園内は入り口近くにアルパカがいて、春に刈られた毛が少しだけボリュームアップしていて少しだけ見栄えが良くなっていた。


生のアルパカを初めて見たアリスはツーショットの写真を撮ろうとしていたのだけれど、アルパカはなかなかカメラを向くことが無く、結局アルパカの横顔とアリスの横顔が同じ方向を向いた瞬間がベストな一枚となった。


アリスが僕とアルパカの写真を撮ってくれたのだけれど、その時はなぜか奥にいるアルパカも集合してきてしまい、なかなか壮観な写真が撮れた。


その瞬間にアリスが寄ってきて二人で自撮りのような形で写真を撮ったのだけれど、小学生のアリスはそれほど腕も長くないので二人を撮ろうとするとアルパカの顔まではとることが出来なかった。


僕がカメラを受け取って後ろを確認した時には、アルパカたちは奥の餌場へと戻って行っていた。


子供動物園に入った時には放し飼いにされているヤギと孔雀がいたのだけれど、アリスは少し怖いらしく足早に抜けていった。


子供動物園を抜けた先にレッサーパンダの飼育場があって、そこにソフィアさん達三人がいた。


どうやら目当てはレッサーパンダだったみたいだ。


僕達が三人に近づくと、三人はこちらを見てからまた奥の方へと駆けだしていった。


レッサーパンダの姿はなかなか見つけることが出来なかったので、アリスと二人で真剣に探してみると、レッサーパンダは葉っぱが生い茂っている枝の根元で寝ていた。


「そう少し背が高かったらもっと近くで見れそうなのにな」


「近くで見たいなら肩車してあげようか?」


「肩車?」


僕が肩車の説明をすると、アリスはやってみたいと言った。


僕がしゃがんでアリスが僕の頭を跨ごうとしているのだが、アリスは躊躇しているようだった。


「大丈夫、アリスくらいの体重だったら支えられるよ」


僕がそう言うと、アリスは僕の頭を叩きながら


「そうじゃなくて、ちょっと恥ずかしくなって」


そんなやり取りをしていたのだけれど、最終的にアリスは自分の目線よりも近くでレッサーパンダを見ることが出来た。


なぜかその様子をアリスのお母さんが写真に収めていた気がするのだけれど。


その後は高いところにいる動物がいなかったので隣に並んで順番に見て行ったのだ。


一通り見てみると、アリスはネコ科の大型動物は怖いらしいのだが、ヒグマやホッキョクグマは好きらしい。


動物をある程度見た後に休憩スペースのある場所まで戻ると、親達がお弁当の準備をしていた。


奥の方にあるお土産屋さんにアリスが行きたいと言って、僕の手を引いてかけていった。


アリスは園内にいなかったコアラのぬいぐるみが気に入って買おうか悩んで、先に見ていたソフィアさんと相談していたのだけれど、二人の所持金では買うことが出来ない様子だった。


僕も値段を確認してみたのだけれど、大人でもちょっと迷うような値段だったのでプレゼントしてあげることは出来なかった。


「ああ、園内を見て回ると冷たいものが食べたくなるわね」


唐突にソフィアさんが僕に言ってきたのだけれど無視していると、三人で僕の服を引っ張ってきた。


「もう少しでお昼ご飯を食べるんだし、アイスばっかり食べてると太るかもよ」


「帰りも自転車だから太らないもん。でも、ご飯食べたいからアイスは後でね」


今日はアイスをよく食べていると思うのだけれど、これくらいの年代の女子はアイスをいくつでも食べられるんだと感心した。


みんなで集まってご飯を食べることになって、席に着くとアリスが僕の膝に乗ってきた。


「テーブル高いから届かないの」


そう言っていたけど、アリスと同じくらいの身長の美波ちゃんは普通にテーブルの奥にある唐揚げを取っていた。


そのタイミングで二人の目が合ってしまい、僕と美波ちゃんはお互いに苦笑いをした。


さすがにアリスの頭越しに物を食べるのは窮屈だったので、隣に移動してもらったのだけれど、アリスは気を使って色々と僕に食べさせてくれた。


その様子もアリスのお母さんは写真に収めていた。


ちなみに、僕の母親が作った基本的に茶色い弁当も女子小学生たちには好評だったみたいで、たくさんあったおにぎりもおかずも綺麗に無くなっていた。


食事が一通り済むとアリスに溜まっていた疲労が一気にやってきたらしく、僕に寄り掛かったアリスはそのまま寝てしまった。


食べ終えたソフィアさん達三人はゆっくり立ち上がると、それぞれが一番気に入った動物の絵を描きに園内に散らばっていった。


僕の両親もせっかく動物園に来たのだからと、二人で散策に出かけて行った。


アリスのお母さんが僕の膝を枕にして寝ているアリスを見ながら呟いた。


「アリスともソフィアとも仲良くしてくれてありがとうね。最近のソフィアは学校の事をよく話してくれているけど、日本に来て最初のころはあなたの事ばかり話題に出ていたわ。でも、アリスは最初からずっとあなたの話題しかしてこないのよ。アリスは少し内向的な一面があるので、心配だったのだけれど、あなたがいれば大丈夫そうなので安心ね。これからも二人と仲良くしてあげてね」


といった感じの内容だったと思うのだが、僕は英会話に自信がないので親指を立てて笑顔を見せた。


アリスのお母さんはそれを見て笑いながら写真を撮りまくっていた。

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