第44話 アリスと愛華のお祭り(後編)
何時も可愛い愛ちゃんではあったけれど、今日は着物を着ているせいか、いつもよりも大人っぽくてドキドキしてしまう。
少しだけ落ち着いた化粧をしているのも、着物に似合っていてとても綺麗だと思う。
私も少しだけ化粧をしてもらったのだけれど、自分の顔が見慣れない顔になっていて不思議な感覚だった。
隣を歩いている愛ちゃんが綺麗な大人の女性になったようで、少しだけドキドキしてしまったけれど、笑った顔はいつもの可愛い愛ちゃんだった。
「アリスちゃんとお祭りに行くのって初めてかもね。アリスちゃんはどんな屋台が好きなの?」
「私は漫画とかでしか見たこと無いんだけど、綿あめとかお面のやつとかが気になるかも」
「そうなんだね、アリスちゃんのお気に入りが見つかるといいね」
「愛ちゃんは何が好きなの?」
「私はフランクフルトとかステーキの串のやつが好きなんだけど、あんまりお小遣い無いからフランクフルトと何か楽しそうなやつかな」
他にも何か見てみたいものがあったような気がしているけれど、それはお祭りの会場に行ってから探してみよう。
会場に近づくと、私達のように着物を着ている女の人が多くなってきた。
来年はママにお願いして私も自分の着物を買ってもらおうかな。
「何だか人が増えてきたね。アリスちゃんは可愛いからはぐれないように手を繋いだ方がいいんじゃないかな」
「愛ちゃんも可愛いからはぐれちゃうかもしれないんで、手を繋ぎましょう」
「そうだね、浴衣も下駄も慣れていないからゆっくり歩こうね」
愛ちゃんはなんだかんだと私に気を使ってくれて、歩くスピードと歩幅も私に合わせてくれていた。
愛ちゃんが男の子だったらいい彼氏になりそうだなと思ったけど、もしも、男の子だったらこんなに仲良くはなっていなかったかもしれないな。
お祭りの会場は想像していたよりも広い場所ではなく、向こう側の奥には屋台で買ったものを食べられるようなスペースも用意されているようだった。
それでも、私にとって本格的な日本の屋台は初めてだったので、どこを見ても新しい発見があってワクワクしてしまった。
普段はコンビニのホットスナックコーナーにあるような物でも、この会場で食べたら何倍も美味しいんだろうなって感じちゃう空間が広がっていた。
そこまで広くない会場なので、とりあえず一周してみてからお互いに気になったものを買うことにして、ゆっくりと会場を見て回る事にした。
愛ちゃんと一緒に一通り見て感じたことは、どれもこれもが美味しそうで、楽しそうな店ばかりだったって事だった。
「うーん、お小遣いもあんまりないんだけど、どれも魅力的で困っちゃうね」
「私はフランクフルトとかき氷にして、余ったお金で何かやろうかな」
「愛ちゃんはフランクフルトがイチオシなんだね。私も食べてみようかな」
二人で何にお金を使うべきか悩んでいると、聞きなれた優しい声が遠くから近付いてきた。
「二人もお祭りに来ていたんだね。もう何か買ったのかな?」
「いいえ、何も買ってないけど、何を買うべきか悩んでいたの。マサは何か買ったの?」
「いや、僕も来たばっかりで何も買っていないんだけど、二人とも浴衣が良く似合って可愛いね。アリスは普段のイメージ通り明るく元気な感じで、愛ちゃんはいつもと違って落ち着いて大人っぽいね」
「ありがとうございます、アリスちゃんって浴衣も似合うから家に飾っておきたいですよね」
「ちょっとやめてよ、愛ちゃんだって可愛いんだから飾るよ」
「二人とも仲良しだね。よし、お兄さんが何か買ってあげるよ」
「ありがとうございます。私はフランクフルトが食べたいです」
「じゃあ、私は綿あめがいいわ」
私と愛ちゃんはお互いに欲しいものをマサに買って貰ったので、少しだけお金に余裕が出来た。
この余ったお金で何か買おうかなと思っていると、見たことのない女の人が親しげにマサに話しかけていた。
「ねえ、アリスちゃん。あの女の人はお兄さんと仲良さそうだけど、どんな関係なんだろうね?」
「初めて見た人だけど、大学の友達とかじゃないかな?」
「でも、ただの友達だとしたらあんなに仲良さそうに話したりしないんじゃないかな?」
「私と愛ちゃんはあの二人よりも仲良く話してるよ?」
「もう、そう言う事じゃなくて、お兄さんとあのお姉さんって親しすぎる気がしない?」
「うーん、そんな感じはしないけど、聞いてみた方がいいかな?」
「聞いちゃってもいいんじゃないかな?」
私は愛ちゃんと手を繋いだままマサの近くに行くと、それに気付いた女の人がこっちに挨拶をしてくれた。
「初めまして、私はマサ君と同じサークルの太田って言います。君の話はマサ君から聞いていたけど、噂よりずっと可愛らしいんだね。こんなに可愛いなら写真見せてくれたらよかったのになぁ」
お姉さんは私を嘗め回すように見てきたのだけれど、何だか普通に見られているだけではないような気がしていた。
「太田さん、そんなにジロジロ見てたらアリスが困っちゃうでしょ。そんなんだから紹介したくなかったんだよ」
「え?私を紹介したくなかったの?」
「もしかして、お兄さんとお姉さんは付き合っているんですか?」
「あはは、私はマサ君と付き合っていないよ。彼氏はいないけど、ちょっと熱中してる事があってさ。その事でたまに相談してたりするくらいかな。このお兄さんって何か相談したくなっちゃうんだよね」
「なぁんだ、二人は付き合ってないんだ。アリスちゃんも心配してたからお兄さんも気を付けなくちゃだめですよ」
「そうだね、このお兄さんは人に心配かけさせることも得意みたいだから、アリスちゃんも大変だね」
「私は大変じゃないですけど、お姉さんは何の趣味なんですか?」
「えっとね、コスプレってわかるかな?それの衣装とか作るのが趣味なの。自分で着て人前に出ることは無いんだけど、良かったらアリスちゃんとお友達の衣装を作らせてもらっていいかな?」
「私はいいですけど、変な服はダメですよ。ちなみに、どんなのを作ってくれるんですか?」
「そうだね、アリスちゃんは可愛らしいから、ちょっと古いアニメのキャラクターの衣装なんだけどこの人知っているかな?」
太田さんが持っていた携帯の画面を見せてくれると、私が小学生の時に見ていて好きだったアニメのキャラクターだった。
「私、この子好きです。お姉さんも好きなんですか?」
「うん、私もこの子が好きでね。アリスちゃんの事を聞いた時にどんな人か想像してみたんだけど、実際に見てみると、想像していたよりも似合いそうな予感がしているよ」
最初はマサを取ろうとしている女かと思っていたけれど、少し話してみたら良い人そうだった。
私と趣味も合いそうだしね。
「アリスちゃんのお友達は可愛らしいからこんな感じだとどうだろう?」
お姉さんが携帯の画面を再び見せてくれたのだけれど、愛ちゃんに雰囲気が似ていて可愛らしいキャラクターではあったけれど、愛ちゃんにはそのキャラクターは無理だと思った。
「あの、そのキャラクターは愛ちゃんには無理だと思います」
「そうなの?でも、雰囲気とか大人っぽいし行けそうな感じはしてるけどな」
「えっと、そのキャラクターってお胸が小さいじゃないですか?」
「そうだね、あんまり大きい感じではないかもね」
「愛ちゃんのお胸って、今は小さくされてますけど、本当はとんでもない大きさなんです」
お姉さんは何を言っているんだろうって顔でこちらを見ていたけれど、マサにも似たようなことを言われていたせいか、少し混乱していたようだった。
「この前ですけど、愛ちゃんと遊びに行った時の写真を見せてあげるので、本当の愛ちゃんを見てください」
私は愛ちゃんと一緒に博物館に行った時の写真をお姉さんに見せてみた。
自分で言うのもなんだけれど、愛ちゃんと私ではお胸の大きさが違いすぎてしまう。
写真を見たお姉さんは言葉を失ったようで、写真の愛ちゃんと目の前にいる愛ちゃんを交互に見ていた。
「ちょっと、あなた、凄く可愛いじゃない。愛ちゃんって言うの?もう、愛ちゃんは可愛すぎる」
「え?え?そんなに可愛いですか?」
「ええ、アリスちゃんも可愛いけれど、それとは違うタイプの可愛いいよ。二人とも可愛いからお姉さん張り切れそう」
そう言うとお姉さんはそのままどこかへ行ってしまった。
「二人ともごめんね、太田さんは普段は良い人なんだけど、趣味に夢中になっちゃうと他の事が目に入らなくなっちゃうらしいんだよね。僕も他のメンバーと約束あるからまたね」
そう言い残してマサは去っていった。
残された私と愛ちゃんは残ったお金でもう一度屋台を満喫することにした。
予算は残りわずかだけれど、食べたかったものはお互いに食べられたので満足だった。
愛ちゃんは二本目のフランクフルトを食べていたのだけれど、ちょっとだけマスタードがききすぎたみたいで、少しだけ涙目になっていた。
そんな愛ちゃんも可愛いなと思った。
初めての日本のお祭りを堪能した私たちは、暗くなる前に帰る事にした。
「今日は楽しかったね。愛ちゃんの可愛い姿がいっぱい見ることが出来て嬉しいよ」
「私もアリスちゃんの可愛い姿をたくさん見られて嬉しいよ。家に帰ったら帯とかほどいて楽になりたいね」
「うん、たくさん食べちゃったせいかお腹周りも苦しくなってきたね」
「そうそう、お兄さんにたくさん奢って貰っちゃったしね。髪の毛にもにおい付いちゃったし、早めにお風呂に入らないとね」
「汗もかいてしまったから早くお風呂に入りたいな」
「私がアリスちゃんの髪を洗ってあげるよ」
「ありがとう、愛ちゃんは本当に優しいんだね」
今日は初めての事が色々あったけれど、充実した楽しい一日だったな。
後は愛ちゃんの家に行って着物を脱いで、お風呂に入って帰るだけだなぁ。
「そうだ、アリスちゃんのママがいいよって言ったら、うちに泊まって行けばいいんじゃない?」
「愛ちゃんのママは大丈夫なの?」
「うちは大丈夫だと思うよ。それに、楽しい一日が終わるのはもったいないからさ」
「そうだね、ママに電話して聞いてみるよ」
ママに電話をしてみると、今日はソフィーもナナ先輩の家に泊まるらしくすぐに許可が出た。
愛ちゃんのお姉ちゃんのミナミもナナ先輩の家にお泊りするようだった。
「これで明日の朝も一緒に過ごせるね。アリスちゃんは朝は早く起きられるの?」
「私はそんなに早起きじゃないけれど、ソフィーより早く起きるよ」
「そうなんだ、私はあんまり朝が得意じゃないからずっと寝てたらごめんね」
「大丈夫だよ。その時は愛ちゃんの可愛い寝顔を見ちゃうからさ」
「私もアリスちゃんの寝顔を見ちゃう」
そんな会話をしてながら歩いていると、愛ちゃんの家の近くまで来ていた。
「今日はアリスちゃんとずっと一緒にいられて嬉しいな」
「私も愛ちゃんと一緒にいられて嬉しいよ」
「そうだ、ベッド一つしかないし、同じベッドで一緒に寝ようよ」
「私体温高いかもしれないけど、愛ちゃん寝苦しくなるかもよ?」
「それは大丈夫だと思うよ」
「そっか、一緒に寝るのも初めてだし、今日は初めての経験ばっかりしてるかも」
「そうなんだね。私もアリスちゃんとたくさん初めての事をしているかも」
いつも可愛い愛ちゃんの笑顔を見ると、私も笑顔になってしまう。
先に家に着いた愛ちゃんがドアを開けてくれていた。
「さあ、今夜は楽しい事をいっぱいして思い出をたくさん作ろうね」
そう言った愛ちゃんの顔は、いつもより嬉しそうな笑顔に感じていた。
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