第51話 ギャルが夏休みに体験してしまったこと その7(全7話)
「ヨーコは優しい良い子だから神様も喜んでいるよ」
ソフィアさんはそう言いながら小林さんに抱き着いていた。
「ありがと、そういうソッフも良い子だけどね」
「うーん、私は神様に会ったこと無いけど、それに、日本に来るまでは神様がたくさんいるって知らなかったしね」
ソフィアさんは結構日本に馴染んでいるらしく、その場その場の判断を臨機応変に対応出来るようだ。
「はっきり見たわけでも声を聴いたわけでもないんだけれど、ずっと近くに神様がいるような気がしてたよ。向こうにいる間だけなんだけどね。そんなわけで、今までは全然行ってなかったのに、四国が好きになっちゃった」
そういうと小林さんは照れ笑いを浮かべていた。
これから先に辛い事があったとしても、小林さんには良い神様が味方しているので大丈夫だろう。
ギャルみたいにしている小林さんも根っこの部分は真面目で優しい女の子だからこそ、神様にも友人にも好かれているのだろう。
「で、もう一つ別に変わった話があってね。これは、あたしが先輩から聞いた話なんだけど、この話を最後まで聞くと大変なことになるらしいんだよね」
「え?その話はやめた方がいいと思う。私は最後まで聞いたこと無いんでわからないけど、たぶん似たような話を知っているかも」
「それってどんな話なの?」
「あたしが知っているのは、最後まで聞いたらそいつがやってくる系の話」
「私がアリスから聞いたのは、最後まで聞いたらその人がくるって話」
ほぼ同時に二人が言うと、お互いの言葉に二人とも本気で怖がっているみたいだった。
よくある実話怪談系話らしく、複数の派生した話があるらしい。
彼女たち曰く、それらの話はフェイクが多く混ぜられていて、真相にはたどり着けないようになっているらしい。
しかし、それらの話を全て合わせていくと真相にたどり着いてしまうそうだ。
「ソッフが知ってるのはどんな話か分からないけど、あたしが知ってるのは四パターンあるよ」
「私はアリスから聞いた一つだけだから、きっと同じ話だよね」
「でも、もし違ってそれが答えになったら嫌だから聞かないでおく」
「ヨーコがそう言うなら私も聞かないでおくよ」
小林さんが一つ提案してきた。
「先生もあたしと同じ霊に好かれるタイプだし、どうせなら答え探してよ」
この学校の生徒は僕をからかうときにとても良い笑顔にならないといけないって校則があるのかというくらいみんないい笑顔になる。
「マサ君先生だって無理しちゃダメだよ。でも、私も気になるからアリスに聞いてみるといいかも」
「アリスが知ってる話なら多分聞かなくても大丈夫かも、僕が教えた話だと思うから」
「ちょっと、マサ君!!アリスに何てもの教えてるの!!」
ソフィアさんは滅多に怒ることは無いんだが、アリスがらみになると怒りの沸点が低くなるらしい。
「大丈夫、僕が教えたのは九パターンあるうちの一つだけだから。小林さんが知っている話はこの中にありそうだね」
先ほどまで良い笑顔だった小林さんの表情が一気に曇っていた。
ここまであからさまに落ち込まれると、逆に気持ちよくなってくる。
一番多くのパターンを知っている僕が二人に話さなければ大丈夫との結論に至り、まずはソフィアさんが知っている話を披露した。
アリスから聞いた話なので僕は当然知っている話だった。
しかし、小林さんはその話を知らなかったらしく、少しだけ涙目になっていた。
「やっぱり僕の知っている話だったね。小林さんは知らなかったみたいだけれど、他にも色々あるから大丈夫だよ」
慰めようと思ってそういうと、小林さんは僕を睨んでいた。
続いて小林さんが披露してくれた話なのだが、最初の二つは僕が知っている話だったのだけれど、残り二つは全く知らない話だった。
「ほ、ほう。こ、小林さんの話も、し、し、知ってる話だったな」
これで僕の知っている話は十一パターンになったわけなのだが、どうかもっと複数のパターンを用意しておいてください。
「ねえ、マサ君先生の知らない話があったの?」
「マサっち先生、申し訳ない。明日以降にマサっち先生が来なかったらあたしのせいだな」
「今日はパパもママも家にいるから泊まりにきていいよ。私もマサ君先生守らないと」
「大丈夫大丈夫、僕にはまだこれが答えに繋がっているとは思わないから」
視聴覚準備室内を三人の渇いた笑いが包みこんでいた。
その後はすぐに三人ともため息をついていたのだが。
しばらく三人とも無言でいたのだが、沈黙に耐えられなくなったのか、ソフィアさんが三人にお茶を淹れてくれた。
どうにかして落ち着こうとお茶を啜っていると、勢いよく扉が開かれた。
突然扉が開かれたのに驚いたソフィアさんと小林さんは変な声を出していた。
僕はきっとスリガラス越しに人影が見えていたので心の準備は出来ていたので大丈夫だった。
齋藤さんが驚いた二人に笑いながら謝っていると、やっぱりその話かという話を持ち出してきた。
「今日さ、陸上部の後輩に聞いた怖い話なんだけどさ。みんな聞きたいかな?」
「「聞きたくない」」
ソフィアさんと小林さんは即答していた。
この手の話が苦手だけど好きなソフィアさんの反応が意外だったらしく、齋藤さんは少し落ち込んでいる様子だった。
あけ放たれた扉の前を通った鈴木さんが中に入ってきた。
「ナナミンが私より先にいるのも珍しいけど、小林さんがいるのはもっと珍しいわね。そうそう、副会長から聞いた怖い話あるんだけど、みんなそういう話好きよね?」
鈴木さんがそういうと、ソフィアさんと小林さんは無言のまま首を横に振ってから口の前に人差し指を立てていた。
この二人が知っている話が関係ない話なら良いのだけれど、たぶん流れから行くと僕の知らないパターンになるんだろう。
「もしかして、この話知ってるのかな?」
「え、私が聞いた話と同じやつ?」
「ナナも美波ちゃんもどんな話かわからないけど、いろんな話を集める系の話だったらしちゃだめだよ」
「そうそう、マサっち先生は自分の知ってる話とあたしの話を合わせたら結構な数を知っているみたいだからね。ちなみに、それ系の話?」
齋藤さんと鈴木さんはちょっとだけ見つめ合うと、こっちを見て頷いた。
このまま全部集めたらどうなるか少しだけ楽しみになっていたが、生徒たちに心配をかけるのは良くないので自分から集めるのはもうやめておこう。
「あの、僕の事なら気にしなくて大丈夫だからね。でも、みんなが心配するとよくないから聞かないでおくよ」
四人は見つめ合うと僕に微笑んでいた。
「一応聞いておくけど、全部の話を集めたら何がやって来るんだっけ?」
「「「「片目が赤く光る女」」」」
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