第47話 ギャルが夏休みに体験してしまったこと その3(全7話)
小林さんの悩みを聞いた僕は一瞬お茶を吹きそうになってしまっていた。
お菓子を選んでいたソフィアさんも青い瞳を曇らせて固まっていた。
ソフィアさんはやや俯き加減になっていて、その時には白い肌を真っ赤に紅潮させていた。
「先生も他の人より感じやすい体質だと思うんですけど、ソッフはそういった感覚はまだ経験無いかもですね。あたしは夏休みにちょっと強烈な体験しちゃったんで、一気に敏感になった感じなんですよね」
小林さんが湯呑を両手で抱えるように持って、熱めのお茶を少しだけ口に含んだ。
何かを思い出すように窓から見える空を見つめる小林さんは、ゆくっりと夏に体験した出来事を語りだした。
「あたしが親戚の集まりに行くことってそんなにないんですけど、今回は田舎の方のばあちゃんがどうしてもこなきゃダメだって言ってたみたいで、田舎のばあちゃんちは四国なんですけど行ってきたんですよ。
そうしたら、なんて言うか開放的なこっちとは違ってて、なんか閉鎖的なんですよね。
家の作りも全然違って、こっちだとそんなに頑丈な雨戸ってないじゃないですか?
でも、田舎のばあちゃんちは雨戸を閉めると一切光が入ってこないくらいしっかりした造りになってたんですよ。
ばあちゃんちに行く前に温泉に行ってたんですけど、風呂上がりにメイクしちゃ駄目だよって言われて、ばあちゃんは化粧とか好きじゃないのかなって思ったんです。
その後に定食屋さんみたいなところでご飯を食べたんですけど、ばあちゃんちで何か食べるのかと思っていたんでちょっと意外でした。
そんな感じだったんで、あたし達がばあちゃんちに着いたのが夜だったんです。
でも、家の中から人の気配はするんだけれど窓から全然明かりが漏れていなかったのも不思議な感覚でした。
それで、家の中に入ると挨拶もそこそこに仏間に入れられたんですよ。
父さんも母さんもそこには入ってこなくて、中には見たこともない男の人がいたんです」
それを聞いたソフィアさんは青い瞳を左右に泳がせていた。
どうやらソフィアさんは動揺しているらしい。
小林さんはソフィアさんの様子を知ってか知らずかわからないが、夏休みに体験した事をさらに語りだした。
「田舎のばあちゃんの家は昔からお遍路さんとかを泊める部屋があったみたいで、そのあたりでも大きめの家だったみたいなんですよ。
最近だとあんまりお遍路さんを泊めることは無いみたいなんですけど、たまに日本の文化を学びたいって外国人の人が来て泊まることはあったみたいです。
あたしが行った日はいなかったんですけど、前の週は何人か来て泊まっていったって言ってました。
その中の一人がお礼にって言って人形をくれたらしいんですけど、その人形は呪術で使うような物だったらしく親戚のおじさんはちょっと嫌だったらしいんですよね。
でも、ばあちゃんはその人形がとっても気に入ったみたいで、仏壇わきにお供えしてたんですよ。
あたしが、仏間に入った時に人形と目が合った気がしたんですけど、よく見るとその人形は壁の方を向いて座っていたんです。
横を向いているのに目が合うなんて不思議ですよね。
その時、中にいた男の人が立ち上がってこちらに近づいてきたんです。
座っていた時はわからなかったんですけど、立ってみるととても大きくて、先生よりも二回りくらい大きいがっしりした感じでした。
その男の人はばあちゃんに近づいて何か言うと、そのまま部屋のを出て行ったんです。
ばあちゃんがタンスからお遍路さんが着るような装束を渡してきて、着替えるように言ってきたんですけど、その装束は何だか模様なのか文字なのかわからないものがびっしり描かれていたんです。
どうやって着たらいいかわからないで悩んでいたら、親戚のおばさんが手伝ってくれて何とか着替えることが出来たんです。
着替え終わるとおばさんはそのまま出て行って、しばらくするとさっきの男の人が部屋に入ってきたんです。
着替えたあたしを全身後ろ姿まで嘗め回すように見ると、またばあちゃんに何か言ってから仏壇の前に座っていました。
ばあちゃんも男の人の横に座ってこっちを見ているんですけど、こっちを見ているのに見ているのはあたしじゃない感じがしました。
あたしはどうしたらいいのかわからなかったので、ばあちゃんの隣に行こうかと思っていると、親戚のおばさんが丸椅子を持ってきて部家の中央に置いてここに座りなさいって言ったんです。
あたしは何が何だかわからないけど、言われたとおりに椅子に座ってばあちゃんの方を見たり、時々仏壇を見たりしていたんですけど、何とも言えない時間が過ぎていて怖くなってきました。
それからしばらく経つと、十人くらいの人が入ってきてあたしを囲むように等間隔で並んでいました」
これからどんな話が始まるのかわからないけれど、小林さんの悩みは僕が想像していたものとは違った世界の話のようだった。
ソフィアさんは動揺を隠すように立ち上がると半分ほど空いていた窓を閉めていた。
「風が強くなりそうだから閉めておくね。それに、新しくお茶を淹れます。だからヨーコの前のケトル貸してね。私がみんなの分も淹れるから」
締め切った空間の中がお茶を淹れている少しの時間だけ静寂に包まれている時に、視聴覚準備室の前を誰かが通っていた。
扉についているスリガラス越しに見えただけではあるが、この学校の生徒ではないような気がした。
扉の前に立ち止まって上を見ているような様子なので、上に掲げられているプレートを確認していたのかもしれない。
ソフィアさんが新しいお茶を淹れてくれたので、一口お茶を啜ると、扉の向こうにいる男と目が合ったような気がした。
スリガラス越しなので目が合うことは無いと思うのだが、先ほど窓を閉めて風が入ってこない分暑く感じていた室内なのだけれども、少しだけ寒気を感じてしまった。
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